人事コラム

人事課題解決ノウハウ人的資本経営・戦略人事

人的資本経営を推進する人事KGI・人事KPIの設定

「人的資本経営」実現のポイントとなる「人事KGI・人事KPI」の設定について、それらが必要とされる背景や重要性を、事例企業の紹介を交えて解説

現代は無形資産を活用し、人的資本経営を実装することが企業競争力を左右する時代。
具体的な人事KGI・人事KPIを設定し、企業が持続的に成長するストーリーを描くことが企業価値向上の鍵となる。

具体的な人事KGI・人事KPIを設定し、
企業の持続的な成長ストーリーを描く

人的資本経営の重要性と無形資産による競争力向上

人的資本経営の重要性と無形資産による競争力向上

近年、企業経営においては「人的資本経営」という考え方が注目を集めている。これは従来のように人材を「経営のために消費する資源」として捉えるのではなく、「経営の中心に据える資本」として位置づけるアプローチである。この考え方のもとでは、社員への投資を通じて業績や企業価値を向上させ、企業の持続的な成長が目指される。
このような現代の経営環境では、企業の競争力の源泉が「無形資産」にシフトしている。無形資産とは物的な実態のない資産のことで、例えば知的財産、企業文化、社員の知識やスキルなどが該当する。かつては最先端の設備に代表される物理的な有形資産が企業競争力の中心であったが、現在は財務諸表に記載されない無形資産が企業価値を左右する重要な要素となっている。
2023年3月期決算からは上場企業において人的資本に関する情報開示が義務化された。これはステークホルダーが企業がどれだけ人的資本に投資しているかに注目しているかを表しているといえよう。とはいえ単にデータを開示するだけでは不十分だ。重要なのは「どの項目を改善しようとしているのか」「そのためにどのような施策を講じているのか」「それが企業価値向上にどう繋がるのか」といった、いわゆる企業が持続的に成長するための「企業価値創造ストーリー」を明確に示すことである。このストーリーを設計することが、人的資本経営を進める上での鍵となる。

人事KGI・人事KPIの役割

人事KGI・人事KPIの役割

人的資本経営を実現するためには具体的な目標とその進捗を測る指標が必要である。ここで重要になるのが「人事KGI」と「人事KPI」だ。人事KGI(Key Goal Indicator)は企業の持続的成長を目的とした業績向上のための目標指標を指し、人事KPI(Key Performance Indicator)は、そのKGIを達成するためのプロセス指標である。
人事KGIについては「一人当たり売上高」や「人的資本ROI(投資回収率:従業員への投資がどれだけの成果を生んでいるかを測る指標)」が代表的な指標として設定される。一方で人事KPIについては自社の経営戦略に基づき、自社の特性や現場の状況を考慮して設定する必要があるため、必然的に独自性の高い指標になる。人事KPIは企業ごとに異なるものだが、ステークホルダーにとっては他社との比較が可能な指標も必要だ。そのため独自性と汎用性のバランスを取ることがポイントとなる。

独自の人事KGI・人事KPIを設定している企業事例

独自の人事KGI・人事KPIを設定している企業事例

ここで独自の人事KGI・人事KPIを設定し、成果を上げている事例を紹介する。福岡に本社を置くA社は従業員の「エンゲージメントスコア」を人事KGIに設定している。エンゲージメントスコアとは社員が「どれだけ会社・組織の方針や戦略に共感し、誇りをもって自発的に仕事に取り組んでいるか」を測る指標のことだ。A社はこのエンゲージメントスコアの向上、具体的には「CランクからAランクへの改善」を目標に掲げ、それを中期経営計画(3カ年計画)の中で明確に位置づけている。そしてエンゲージメントスコアの改善に向けたプロセス指標として、社員の福利厚生制度の利用率や、社員が福利厚生に関する情報をどれだけ認識しているかといった項目を人事KPIに組み込んでいる。具体的な施策例としては、社員向けに福利厚生ハンドブックの配布が挙げられる。このハンドブックには利用可能な福利厚生制度や支援内容が分かりやすく記載されており、社員が自分の働き方や生活をより充実させるための情報を簡単に得られるよう工夫されている。
またエンゲージメントスコアの調査は毎年実施され、定点観測を行うとともに、調査結果の中で特に低いスコアを示した項目を重点的に改善するための施策を立案し、その進捗を定期的にモニタリングする仕組みを導入している。このように単に人的資本経営を掲げるだけでなく、具体的な数値目標を設定・公表し、それらを人事KPIに落とし込むことで、目標達成に向けた取り組みを着実に進めている。

まとめ

人事KPIは企業の特性や現場の状況を反映した独自性の高い指標であるが、それをステークホルダーに対しても透明性を持って示すことが重要だ。そうすることで企業の人的資本経営に対する真摯な姿勢が伝わるとともに、企業が持続的に成長していくストーリーが見えるようになり、社員や投資家の信頼を得ることにも繋がる。前述したA社のような取り組みは、人的資本経営を進める上での一つの成功モデルだ。ぜひ参考にしてもらいながら、自社独自の人事KPIを設定し、それを基にした施策を実行することで企業価値の向上を目指してもらいたい。

この課題を解決したコンサルタント

村井 遼太郎

タナベコンサルティング
HR&人材育成
チーフコンサルタント

村井 遼太郎

HRを専門とし、組織体系構築・アカデミー設立支援コンサルティング等に従事。若手社員から経営者まで幅広い階層のセミナー及び研修に多数携わり、人材教育を得意としている。「心はホットに、頭はクール」を信条に、冷静に事実を整理しながらも情に厚いコンサルティングスタイルでクライアントに寄り添う。

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