COLUMN

2024.10.07

後継者不在でも〈会社を次世代に残す〉ために、経営者がまずやるべきこと

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後継者不在でも〈会社を次世代に残す〉ために、経営者がまずやるべきこと

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本コラムは『THE GOLD ONLINE』の寄稿原稿です。

企業の半数以上が「後継者不在」...その背景とは?

昨今、企業において後継者不在の問題が顕在化しており、2023年の調査では53.9%が「後継者不在」と回答している(出所:帝国データバンク『全国「後継者不在率」動向調査(2023年)』)。企業の半数以上で後継者が不在ということである。この背景はさまざま考えられるが、大きく3つ挙げられる。

まずは「少子高齢化」である。かつての日本企業では親から子への親族内承継が大半を占めていたが、現在は承継する親族がいないという企業が多くなっている。

次に、「親族内承継が一般的でなくなった」ことが挙げられる。前述のとおり、日本企業では親族内承継が大半を占めていたが、その親族内承継自体が一般的ではなくなってきている。大学進学が一般化して職業選択の機会が広がったことから、経営者の子供は親の会社を継ぐのではなく、自身のしたい職業を選ぶケースが増加している。経営者自身が無理に子供を後継者に指名しないことも少なくはない。そのため、経営者に子供がいたとしても、後継者不在となっている企業も多い。

最後は「準備不足・準備の遅れ」である。経営者や経営陣が企業を次世代に承継する準備をしてこなかったことで、承継すべきタイミングが来た際に、経営を任せられる人材がいないという状況に陥っていたり、解決に時間を要する資本の問題を抱えていたりする。

後継者が不在だと、その企業は将来どのようになるのだろうか。前回記事で述べたように、すべての企業において選択できる道は、「存続コース」「廃業コース」「売却コース」「倒産コース」の4つしかない(関連記事:『生き残る企業、消える企業の「分岐点」』)。

当然、経営者が選択する道は「存続コース」である。本記事では、「存続コース」を実現し、未来に経営をつなぐための「経営の承継を成功に導くポイント」を解説していく。

「事業承継=資本承継」?

そもそも「経営」とは、「継続的・計画的に事業を遂行すること。会社など経済的活動を運営すること。またそのための組織」である。キーワードとして「事業」「経済活動」「組織」が挙げられるが、これらはよく耳にする「ヒト・モノ・カネ」と言い換えることができるであろう。

企業の承継においては「ヒト・モノ・カネ」に加えて「株式(資本)」が大きな問題になることが多い。筆者が経営コンサルタントとして活動している中で、事業承継=資本承継と捉えている経営者が多いと感じている。資本の承継は特に大きなテーマであることは間違いないが、経営の承継では「ヒト・モノ・カネ」「株式(資本)」のすべてにおいて本気で向き合っていく必要がある。

【ポイント】承継を時系列で捉える

経営者はいつ引退(退任)するか決まっているだろうか。いつ引退(退任)するか決まっていなければ、いつまでに何をするかが定まらないことが多い。まずは、経営者自身がいつ引退(退任)するかをある程度決めることから承継が始まる。それが10年後なのか5年後なのかによって、今なすべきことが変わってくる。「将来はどうなるかわからないので意味がない」ではなく、「自分自身で将来をつくる」ことが重要である。

特に経営人材の育成には時間を要する。承継において、世代を担う経営者の育成、そして経営者を支えるボードメンバーの育成は必要不可欠であり、経営者やボードメンバーは自社の歴史や成長過程、自社の本質的な強みや課題、ファイナンス知識、人材育成など多くのことを習得しなければならない。経営者自身がそれを習得するまでにどれだけの時間を要しただろうか。経営者自身が経営を理解するために要した時間を考えれば、次世代経営者を育成するために時間を要することは理解いただけるだろう。

また、昨今増加傾向にあるM&Aでの売却を選択する場合においても、時系列で捉えることが必要である。M&Aでの売却は一般的に1年以上要することに加え、最近は買手側の企業でも経営人材が不足していることから、「(売却後も)経営者として一定期間企業に残ってほしい」という要望が多い。M&Aでの売却を意思決定してから、売却までの期間が約1年、売却後の引き継ぎ期間を約2年としても、最低約3年は時間を要する。売却に時間を要するようであれば、3年以内での承継は難しいと言える。

親族内承継、社員承継、第三者承継のどの選択肢を選ぶとしても、承継は時系列で捉え、事前に準備し、計画的に承継することが経営者の果たすべき使命である。

【ポイント】多様化する選択肢の中から判断する

後継者不在の問題が顕在化して以降、承継の選択肢は多様化している。親族内承継であれば、資本の承継においては「相続税」を一番の論点として考え、対策を講じる経営者がほとんどであったであろう。だが、親族内承継が減少している昨今では、その考えも多様化している。

「今会社を売却するといくらになるのか」「今株式を相続すればいくらになるのか」これらの質問に対してすぐに答えることができる経営者は少ないであろう。親族内承継で相続する場合の株式評価と、M&Aで売却する場合の評価では評価方法が違うことから、評価額も異なる。

仮に社員に株式を承継する場合(MBO:マネジメントバイアウト)、いくらで株式を渡すのがよいのか。高額であれば、社員に資金を負担させるのが難しい場合も多い。従業員持株会・役員持株会に株式を渡し、役職員の会社にしたい場合(コーオウンド・ビジネス)、いくらで株式を渡し、会社の仕組みをどのように設計すべきなのか。自社株で買い取る場合は会社がどれだけ資金を負担しないといけないか。

承継の選択肢によって、関係者が負担する資金の大きさが変わる。資金の問題から承継の選択肢が変わる場合もあれば、限定的になる場合も多くある。また、資本の承継を検討する中でホールディングス化などを検討する合もあり、会社組織の形を変えることが必要になることもある。

このように、承継の選択肢は多くあり、自社の限られた経営資源の中でどれが最良の選択肢になりえるのかを判断することが求められる。承継は経営者にとって一度しかなく、「最後にして最大の仕事」である。

「承継」は企業継続を左右する重要な判断

「事業が成功して50点、承継が成功して100点」であると筆者のグループでは表現している。それだけ承継は難しく、企業継続を左右する重要な判断である。ポイントは今回述べたように「承継を時系列で捉える」「多様化する選択肢の中から判断する」ことである。

次回以降の連載でも多面的ノウハウをメソッドとしてご紹介する。ご紹介するソリューションを参考いただき、持続的成長を実現し、経営を未来へつないでいただきたい。

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