COLUMN

2023.03.10

事業承継税制の「特例」活用方法とは?
計画提出期限などに注意

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事業承継税制の「特例」活用方法とは?計画提出期限などに注意

目次

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事業承継税制の特例措置のポイント

まずは、特例措置を利用するためには、2018年4月1日から2024年3月31日(2022年税制改正で1年延長)の間に、「特例承継計画」を都道府県庁に提出する必要があります。そして、この特例措置は、2018年1月1日~2027年12月31日までの贈与・相続にかかる贈与税・相続税について適用となります。期限が迫っていることに注意が必要です。

そして、この特例措置の大きなポイントは、以下の3点です。

1.事業承継時の贈与税・相続税がゼロに

(1)対象株式数の上限を撤廃(従来は、議決権株式の2/3までであったが、全株式が対象となった) (2)納税猶予割合も100%に拡大(従来は、贈与100%・相続80%であったが100%となった)

2.対象者の制限を大幅に緩和

(1)贈与者・被相続人は、親族外を含む複数の株主が対象に (2)後継者は、代表者である後継者(最大3名)への承継が対象に

3.「5年平均8割」の雇用維持要件を緩和

(1)制度利用の最大の阻害となっていた雇用維持要件(事業承継後5年間平均で雇用の8割を維持)を大幅に緩和
※実質撤廃(未達でも猶予は継続、報告書を提出)

事業承継税制「特例」活用の要件

1.対象となる中小企業の要件

(1)中小企業基本法上の中小企業 (2)常時使用従業員数が1名以上 (3)総収入金額が0円の会社に該当しない (4)上場会社等でない (5)風俗営業会社でない (6)資産管理会社でない(または、※例外要件を満たす) ※従業員5名以上、3年以上の事業実績、事務所等の所有又は賃貸

2.先代経営者(贈与者・被相続人)

(1)過去に代表権を有していた (2)贈与・相続の直前において、その同族関係者と合わせて50%超の議決権を有し、かつ、後継者を除く同族関係者の中で、筆頭株主であったこと (3)贈与の場合、贈与時までに代表者を退任すること(有給役員としての残留は可:取締役会長など) (4)贈与の場合、相続時精算課税制度を併用する場合60歳以上

3.後継者(受贈者・相続人)

(1)代表権を有していること
贈与の場合:贈与時
相続の場合:相続開始後5か月以内
(2)特例承継計画に後継者として記名されていること(特例のみ) (3)贈与・相続時、後継者及び、その同族関係者で合わせて50%超の議決権を有すること (4)要件を満たせば、後継者3名まで可(特例のみ) (5)同族株主の中で筆頭株主であること (6)黄金株(拒否権付種類株式)を発行している場合、後継者がこれを保有していること (7)贈与の場合、20歳以上であること (8)贈与の日まで継続して3年以上の役員実績 (9)相続の場合、相続開始の直前において役員であったこと(被相続人が60歳未満で亡くなった場合を除く)

ここで、経験上、特に注意が必要なのは、後継者の要件で、3年以上の役員実績です。

企業が存続するためには、企業価値を毀損させずに、経営をスムーズに移行することが必要です。
従って、次世代経営体制に向けた事業承継カレンダーを作成することが多いのですが、後継者が20歳代などで若過ぎたり、経営能力が低いケースも多くあります。そのような状況でも、事業承継対策として、後継者に役員実績を積ませるべきか、検討が必要です。

また、様々な事業承継対策の1つとして、事業承継税制の「特例」制度を検討しますが、組織再編や持株会社設立などを検討するケースも多くあります。
その際、会社設立から3年以上でなければ、当然、後継者の役員実績も3年以上になりません。
よって、本件以外の事業承継対策との兼ね合いの検討が必要となります。

事業承継税制「特例」活用の問題点

1.相続時の納税資金確保

相続税納税のために、対象株式を譲渡して資金化はできない(納税猶予打ち切り事由)

2.相続時の「遺留分」への対応

後継者以外の相続人の遺留分への対応(総相続財産に占める自社株の評価額は高いことが多い)

3.相続時の不公平感

総相続財産で相続税率が決まるので、自社株評価も加味された「高い」税率となると、自社株を相続しない相続人に不公平感

4.複数後継者

将来、会社の意思決定がまとまらないリスク、株式が分散するリスクがある

5.納税リスク

納税猶予打ち切り要件の可能性の検討が必要
(5年以内株式譲渡・先代の代表復帰・組織再編・資産管理会社化・解散等)
特に、将来の組織再編の可能性がある場合、慎重な判断が必要となります。

事業承継税制「特例」活用事例

医薬品会社A社(年商約6億円)と食品会社B社(年商約60億円)は、2代目のX社長が経営しています。
典型的なファミリー企業で、株式は同族で100%保有していました。自己資本が厚く、収益力もあったので、株価が高騰しており、事業承継対策は、企業存続のための大きな課題でした。
そこで、社長のご子息にバトンタッチするまでの約20年間の事業承継カレンダーを作成し、中継ぎ社長の可能性も検討しつつ、株価移転の資本政策も検討しました。

ところが、株価については、組織再編を検討せざるを得ないほど高額で2社合わせると10億円以上の税負担が想定されました。当初、事業承継税制は、組織再編による打ち切り要件を懸念し、検討から除外していました。しかし、A社については、社長の先代が株式の50%弱を保有していたことから、A社のみ事業承継税制の「特例」を検討し、実施に踏み切りました。結果として、約1.5億円の贈与税の納税猶予が実現しました。

A社もB社も同族承継が大前提で、A社の先代から社長に贈与した株式は、次世代である息子に移転することを前提として、社長が保有し続けるという条件での組織再編の検討が可能であったことから、事業承継税制の「特例」を活用するという決断ができました。
先代の株式移転は終了したので、今後、社長の息子への事業承継については、組織再編を検討しています。

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