COLUMN

2023.03.10

中小企業の事業承継スキームとは?
メリット・デメリットもご紹介

  • 事業承継

中小企業の事業承継スキームとは?メリット・デメリットもご紹介

帝国データバンク「全国社長年齢分析」によると、2021年の社長平均年齢は60.3歳となり、調査を開始した1990年以来右肩上がりの状況が続いています。社長交代率も3.92%とこちらも低水準の状態が続いていることから、多くの企業が「事業承継をしなければならないのに、出来ていない」状況に陥っております。その原因の一つに「どんな承継手法を取ればよいかわからない」ということが挙げられます。
本コラムでは、円滑な承継とともに、会社が持続的に発展していくために最も可能性の高い承継スキームを選択できるよう、各事業承継スキームの特徴と、メリット・デメリットについて説明していきます。

スキームⅠ 親族内承継

親族内承継とは、経営者自身の子供や兄弟などを後継者とする方法です。 同族企業が多い中小企業にとっては、まず最初に経営者が検討する承継スキームです。

メリット

親族内承継のメリットは以下の通りです。

1.後継者が決まった段階で早期から準備できる
早期に後継者が決まっていれば、事業承継を実施するまでに様々な準備を行うことができます。セミナーへの参加や、子会社の社長に任命するなど、経営者として求められる知識・ノウハウを時間をかけて習得することができます。

2.取引先・従業員からの理解・協力を得られやすい
中小企業の場合は、現経営者の親族が事業承継をすることは既定路線と考えられることが多く、実際に日本の多くの中小企業が親族内承継を実施しています。そのことからも、現取引先や従業員からの理解は得やすいといえます。

3.相続・贈与等の活用が可能
現経営者が所有する株式や事業用資産を相続・贈与により後継者へ引き継ぐことで、資産の「所有」と事業の「経営」を分離せず一体で引き継ぐことが可能です。

デメリット

親族内承継のデメリットは以下の通りです。

1.適任者の不在
親族が必ずしも後継経営者として適任とは限りません。経営者としての素質に欠く方が後継者となった場合には従業員・取引差からの信頼失墜など、会社経営にマイナスの影響を及ぼす可能性もあります。
また、承継する意思がある親族がいないケースもあります。

2.親族間でのトラブルの懸念
後継者の候補が複数いる場合には、後継者候補間での対立の可能性もあります。また、後継者候補でなくても、相続時に後継者への資産が集中し、相続人間での資産の偏りが生じることで遺産トラブルになる可能性もあります。

スキームⅡ 親族外承継(MBO)

ここでの親族外承継とは、会社に在籍する親族外の従業員へ事業承継する場合を指します。 親族外承継の際には、後継者となる従業員が株式を買い取ることで経営権取得する「MBO(マネジメント・バイアウト)」を活用するケースが多くなります。

メリット

親族外承継のメリットは以下の通りです。

1.社内で経営者としての能力高い人材を見極めて登用することができる
本スキームにおいて後継者となる方のほとんどは社長の右腕として会社に貢献してきた方や、将来の有望性を買われて後継者として選ばれることが多く、現経営者から見た仕事ぶり、社内での存在感などから後継者として抜擢することができます。

2.社風や企業理念、内部情報を精通しているため業務へ支障をきたさず承継ができる
会社について詳しく、既に従業員や、取引先との関係性を構築できているため、現在の経営環境を大きく損なうことなく事業を承継することができます。

デメリット

親族外承継のデメリットは以下の通りです。

1.事業承継時に多額の株式買取資金が必要
MBOの場合、後継者が株式を買い取る必要があるため、多額の資金負担が強いられます。
その際には「LBO(レバレジット・バイアウト)」と呼ばれる手法が多く使われます。LBOとは、後継者となる従業員が別会社を設立し、金融機関から調達した資金によって、株式を買い取るスキームになります。借入金には返済義務が生じるので、事業計画を策定した上での検討が必要となります。

2.個人保証の引き継ぎが難航
会社での債務に対して個人保証を立てている場合には、個人保証も後継者に引き継ぐ必要が生じます。その際には個人所有の資産(自宅など)を担保としたり、債務者に信用力がないと判断されるケースも考えられます。

※LBOスキームについて※LBOスキームについて図:タナベコンサルティング作成

スキームⅢ M&Aによる第三者への承継

親族や、社内の従業員の中に後継者がいない場合には社外に承継先を求めることになります。その際に多く用いられるスキームがM&Aによる第三者への承継です。
以前は「乗っ取り」というネガティブなイメージが強かったものの、近年は後継者不在という事業承継の課題解決や、従業員の雇用、取引先との関係も維持できるなど、中小企業において選択されることが多くなっています。

メリット

M&Aによる事業承継のメリットは以下の通りです。

1.従業員の雇用、取引先を守ることができる
M&A時の契約には、従業員雇用の維持などを盛り込むことができます。また、取引先の顧客の事業継続もできるため、自社に関わる人々の暮らしを守ることができます。

2.会社債務に対する個人保証、担保提供が外れる
M&Aでは会社債務も買収企業へ引き継ぐことになるため、会社債務での保証や差し入れていた担保も解除となります。

3.株式の売却代金、役員退職金による現金収入を得られる
株式の売却代金、退職金により多額の現金収入を得られる場合があります。個人負債の返済や、ゆとりあるセカンドライフの元手にすることも可能です。

デメリット

M&Aによる事業承継のデメリットは以下の通りです。

1.関係者からの理解が得られない可能性がある
親族や従業員の中には、M&Aに対して不信感を覚える方がおられる可能性があります。外部の第三者による経営になることにより不満を持つ従業員がでるケースもあります。

2.従来の社風や、働き方などが疎かにされる可能性がある
M&Aにより経営者が変わることで、長年親しんできた会社の社風や、働き方などが急激に変わるリスクもあります。その変化に対応できない従業員も出てくるかもしれません。

3.売却先がすぐに見つかるとは限らない
現在、M&Aの市場は活発ではありますが、早期に買収企業が見つかるとは限りません。条件に合った企業が見つからないと事業承継も思っていた以上に進まない可能性も生じます。

スキームⅣ ホールディング経営による承継

M&Aと合わせて、近年増えているのがホールディングカンパニー(HDC)を活用した事業承継です。
HDCでは親族内承継、親族外承継双方のメリットを活かした「所有と経営の分離」を選択しています。
HDCを創業家が引き継ぎ、長期的な存立基盤を確立しながら、実際の経営はグループ事業会社に優秀な幹部社員を配属し、任せていくという方法です。
複数のグループ会社があったり、異なる複数の事業を分社化したいというニーズをお持ちであれば、なお効果を発揮するものです。

メリット

ホールディング経営による事業承継のメリットは以下の通りです。

1.権限委譲と本社戦略機能の両立
HDC設立による事業子会社に優秀な人材を社長に登用し、権限を委譲することで自立性を高めるとともに、HDCの本社機能を最適に機能させることで、グループとしての成長速度を高めます。

2.企業成長と株価対策の切り離し
株式移転によってHDCを設立した場合、株価上昇による利益はHDCの含み益として処理されることになり、株価上昇を抑えることができます。

3.組織活性化に向けた新規事業やM&Aなどの成長戦略が取りやすい
グループ全体でのビジョン、戦略の方向性がしっかりと定まっていれば、事業リスクの分散機能も有していることから、新たな成長戦略を取っていくことができます。

デメリット

ホールディング経営による事業承継のデメリットは以下の通りです。

1.節税だけを目的にしたHDCの設立は否認される可能性がある
株価対策だけを目的としたHDCの設立は、税務署から不当な租税回避とみなされ、追徴課税を受ける可能性があります。そのため、HDC設立時には組織体制や、収益構造などを十分に検討する必要があります。

2.会社の設立費・維持費や設立に伴う手間が生じる
会社を設立することでのイニシャルコストや、HDC運営に伴うランニングコストが新たに生じます。また設立に伴う手間も生じるので、安易な考えでにHDCを設立するのは望ましくないでしょう。

※HDCのイメージ図:タナベコンサルティング作成

代表的な事業承継スキームとそのメリット・デメリットを挙げさせていただきました。
事業承継は究極の資源配分を行う経営者にとっての最大の戦略です。一方で時間の経過とともに選択肢の幅も狭まっていきます。
自身が育てた会社が今後も永続発展していくために、最後の大仕事への早期の準備と対策を実行していきましょう。

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