COLUMN

2025.04.28

物流業の業績マネジメントの
ポイントについて
現役コンサルタントが解説

  • 企業価値向上

物流業の業績マネジメントのポイントについて現役コンサルタントが解説

目次

閉じる

業績が企業にとって重要であることに異を唱える人はいないと思いますが、この大切な業績への取り組み方が、結果を把握するだけとなっている企業が多くあります。過去の結果についてなぜそうなってしまったのかの反省は必要ですが、済んでしまったこと(結果)そのものは変えることはできません。変えることのできるのは先行予測される未来の結果であり、その未来の結果(未来の業績)は先手・先行で管理していくことが必要不可欠です。今回は特に物流業における業績マネジメントのポイントについて説明していきます。

物流業における課題とは

財務省の調査※1によると、2024年の全産業の売上高営業利益率は3.1%であり、前年比▲0.6%となっています。その中で物流業を見てみると、東京商工リサーチの調査※2では、全国の一般貨物、貨物軽自動車運送業の2024年の利益率は2.4%と全産業と比較すると0.7%低い結果となりました。調査回答企業のうち約8割が黒字を確保したという一方で、2024年の倒産は364社、休廃業・解散は574社の合計938件にのぼり、これは前期比28.3%増であり過去10年間で最多を更新しています。2024年問題から約1年が経過し、時間外労働の上限規制によって長時間労働の見直しが進んでいるなか、ドライバー不足は今まで以上に深刻になっています。物流業界における中小企業の割合は、トラック運送業では約99%とされており、ガソリン価格や人件費の高騰による物流コストの上昇が経営を圧迫している要因となっていることは想像に難くないでしょう。加えて大手企業との競争激化も、中小企業の倒産リスクを高めるひとつの要因と言われています。

※1 財務省 財務総合政策研究所.「財政金融統計月報第835号」.2021年11月,6ページ.
※2 "運送業の利益鈍化、価格転嫁に課題 2024年は増収が5割、黒字は約8割".TSRデータインサイト(参照 2024-03-18).

<物流業界の課題>
1.高齢化や若年層の業界離れの影響により、ドライバーや倉庫作業員が不足しており労働力の確保が難しくなっている。
2.燃料費や人件費、保険料、メンテナンス費用などのコストが増加しており、利益率を圧迫している。
3.季節や経済状況に応じて需要が変動し、安定した収益を確保するのが難しい。
4.サービスによる差別化ができず価格競争が常態化している。
5.適切な在庫管理ができず過剰在庫や欠品が発生しており、コスト増加や機会損失が生じている。

全社KGIと現場KPIをつなげる

前述の課題を抱えながらも企業としては売上や利益などのKGI(いわゆる業績)を達成させていかなければなりませんが、外部環境が大きく変わっていくなかでは、マネジメントのやり方も変えていかなければなりません。本来、マネジメントの着眼点としては戦略・戦術・戦闘の3つがありますが、今回はその中でも「戦闘」である日々のKPIについて触れていきます。KPIとはKey Performance Indicatorであり、組織や企業が目標を達成するための重要な業績評価指標のことを指します。日本語では「重要業績評価指標」や「重要達成度指標」とも呼ばれます。言い換えると企業としてKGIを達成させるための戦略や戦術を日々の行動に落とし込んだものがKPIとなります。物流業であれば保管効率や人時生産性、実車率、積載率などが代表的な指標として挙げられます。これは各社の戦略や戦術、また課題がどこにあるのかの状況によって変わるため、100%の正解はありませんので、一度定めたKPIでもKGIが達成しなければ見直しをかけていく前提での運用をしていくことが肝要です。手順として、まずは自社におけるKGIを分解していき、KPIの元となるプロセス指標を洗い出してみましょう。

<KPI事例>
1.保管効率:物流センターや倉庫、工場などの保管スペースをどの程度効率良く使用できているかを示す。
2.人時生産性:ピッキングや仕分け、梱包など庫内作業や配送における1人あたりの生産性を確認する際に使用する指標。
3.実車率:荷物を積んでいない状態での稼働や空車走行を減らすために、車両の稼働状況を確認する際に使用する指標。
4.積載率:車両の許容積載量に対して、実際にどの程度荷物を載せたかを確認する指標。輸送効率の改善やルートの見直しに活用する。
5.実働率:日数を用いて稼働状況を確認する指標。稼働していない車両を減らすために活用される。
6.注文処理時間:注文が受け付けられてから出荷されるまでの平均時間を測定する。
7.配送精度:誤配送や欠品の数を追跡し、正確に配送された注文の割合を示す。
8.コストパフォーマンス:物流コスト(輸送費、保管費など)を売上高で割った値で、コスト効率を測定する。
9.返品率:出荷された商品のうち、返品された商品の割合を示します。高い返品率は問題がある。
10.トラッキング精度:配送状況の追跡情報が正確である割合を示し、顧客への情報提供の質を測定する。

業績マネジメントのポイント

物流業における業績マネジメントのポイントについては、明確なKPIを設定しその指標の見える化を図っていくことが第一歩となります。業界歴の長い社員は自らの勘と経験で、どれくらいやらなければならないかが分かっていますが、なかなかそれを他の社員に伝えることができていません。また、継続した現場業務改善への取り組みや業務プロセスの標準化など、手を付けるべき項目は多くありますが、その変化を数字で見えるようにしなければ成果としては個々人の感覚での判断となってしまいます。そこにBIツールやダッシュボードを活用し、業務データ(KPIデータ)をリアルタイムで可視化できれば、業務マネジメントが格段にやりやすくなります。人手不足や輸送コストが上がっていく中、生産性を上げていかなければならない環境においては、この業績マネジメントができるか否かが企業存続の鍵を握っているといっても過言ではありません。昨今では配送車にGPSを取り付けたり、配送ルートをAIが生成したりとデータ収集やその活用が進んできています。業界のことを深く知っているがゆえに「できない」と切り捨てるのではなく、数字の収集とKPIの設定、それを可視化した業績マネジメントに取り組んでみてください。

WEBINAR

ウェビナー一覧はこちら

ABOUT

タナベコンサルティンググループは
「日本には企業を救う仕事が必要だ」という
志を掲げた1957年の創業以来、
68年間で大企業から中堅企業まで約200業種、
17,000社以上に経営コンサルティングを実施してまいりました。

企業を救い、元気にする。
私たちが皆さまに提供する価値と貫き通す流儀をお伝えします。

コンサルティング実績

創業68
200業種
17,000社以上