建設業の業績マネジメントの
ポイントについて
現役コンサルタントが解説
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建設業の管理業務は複雑かつ多岐にわたる要素が絡み合っており、プロジェクトの成功に向けて多面的なアプローチを必要とします。効率的かつ安全な現場管理(工程、品質、安全、原価など)をしていくことが、顧客満足度並びに企業競争力の向上へとつながり、結果的には業績向上にもつながっていきます。
その業績向上に向けたマネジメントのポイントとして、実行予算管理、工程別でのKPI(重要業績評価指標)マネジメントは、特に重要な要素となります。本コラムでは、これらの概念と実践的アプローチを解説します。
実行予算管理
プロジェクトによって予算段階での利益率も異なりますが、各プロジェクトで予算利益を出すためには、実行予算の管理能力向上が必須となります。
実行予算の目的は大きく4つあり、まずはその点をしっかりと押さえることが必要です。
1.原価の引き下げを図る
実際原価と予定原価(実行予算)を比較してその差異を見出し、これを分析・検討して適時適切な処置をとり実際原価を実行予算まで、ないしは実行予算よりさらに低く原価を下げることです。
2.損益見込みの把握
最終見込みは工種ごとに確定している原価を明確にし、未確定部分に対する支払見込みを把握します。また、付帯費・経費についても同様の方法で管理し、最終の損益見込みを把握します(損益見込み=契約金額-(最終見込工事費+最終見込経費))。
※設計変更がある場合には、設計変更予定金額も契約金額に含めます。
3.将来の見積り精度向上
原価資料を収集して、将来の同種工事の見積りに役立てます。
4.経営の効率化
経営管理者に原価管理に関する情報を提供し、各工事担当者の業績評価、営業評価、営業戦略・経営戦略など、経営を効率化する基礎とします。
実際に実行予算管理を進めていくにあたっては、計画の進捗管理体制を構築し、見積り~完成までの各段階で利益を生むための作業改善やロスの排除を見つけ、具体的に現場を指導していくことが重要となります。
⑴見積り:営業部で作成された見積書を必ず事前にチェックすることです。
<ポイント>
①数量間違いはないか、②拾い落としはないか、③仕様の変更や不明点はないか、④現場条件に合わないところはないか
⑵実行予算作成:どれくらいの粗利益がでるかを知るために、「これだけの原価で工事が完了するという根拠」を示します。
<ポイント>
①実行予算の中身に努力、工夫のあとがあるかを検討する。
②予算会議の開催や個別打合せなど、社内の知恵を集めて原価を押さえる。
③最終決裁者決裁後の実行予算書を施工における支払いの上限とみなす。
⑶施工:下記A~Dの4つを毎月算出し、最終的な粗利益を各現場担当者が予想していきます。
また、その内容を幹部会議で報告し対策が必要であればその場で検討します。
A:支払出来高
協力会社との取り決めに基づいて作業した部分をお金に換算(出来高査定)して払う。また材料など納入されたものの代金を支払います。
B:受取出来高
工事の完了した部分を請負金(もらえるお金)に換算します。
C:進捗率
工事完了を100%としたときに、仕上がった部分の割合を示すものです。
D:消化率
協力会社への材工一式発注に対して完了した作業の割合を示すもの。材料会社の場合は、予定数量の何割を納入したかを示したものです。
※受取出来高(B)=工事請負金×進捗率(C)⇒仕上がったところまでの、施工主からもらえるお金に相当
※支払出来高(A)=取り決め金額(実行予算額)×消化率(D)⇒協力会社への出来高査定に相当
⑷完成:施主と工事精算(追加・変更など請負金の増減)を行い、最終受取代金を確認します。
<ポイント>
①工事を振り返り、どこがどのように予想外の支出をしたか、また、施工改善することでどれだけの利益を増やしたかなど今後に生かせる振り返りを行います。
②必要に応じ作業歩掛り、実績工程結果、改善ノウハウなどを記録に残しておきます。
③施工実績のデータ化を図り、社内で共有するとともに、次に活用できる水平展開の仕組みをつくります。
工程別のKPI指標設計とマネジメント
建設業における工程別KPI指標(重要業績評価指標)は、各工程のパフォーマンスを測定し、プロジェクトの進捗や成果を評価するための重要な指標です。以下は、建設業における各工程のKPI指標の例を示します。
1.計画段階
⑴プロジェクトスケジュール遵守率:計画されたスケジュールに対して、実際の進捗がどれだけ遵守されているかを示す指標です。
⑵計画差異率:計画段階でのリソース(人材、機材、資材)の見積りと実際の使用量の差異のことを指します。
2.調達段階
⑴調達コストの遵守率:調達にかかるコストが実行予算内に収まっているかを示す指標です。
⑵納期遵守率:資材や機材の納入が予定通りに行われたかどうかの割合です。
3.施工段階
⑴工期遵守率:各施工工程が計画通りに進行しているかを示す指標です。
⑵作業効率:実際の作業時間と計画された作業時間の比率。例えば、1人あたりの作業時間や、1日あたりの施工面積などが該当します。
⑶品質不良率:完成(施工)した作業の中で、再作業や修正が必要となった作業の割合のことです。
4.安全管理
⑴事故発生率:工事現場での事故や怪我の発生件数を示す指標です。
⑵安全教育受講率:現場作業員が安全教育を受講した割合を指します。
5.原価管理
⑴コストオーバーラン率:実行予算に対する実際の支出の割合。予算を超えた場合の割合。
実績値をモニタリングしていく中でも上昇(悪化)要因として、追加的な必要投資が発生した、工事遅延に伴う経費が増加した、設備の整備や建設の難易度が高いことによる完工遅延など、要因を深堀りして分析していくことが重要であり、収益改善に直結します。
⑵変動費率:プロジェクトの進行に伴う変動費用の割合。
6.完成段階
⑴顧客満足度:完成したプロジェクトに対する顧客の満足度を測定する指標であり、アンケートやフィードバックを基に評価します。
⑵引き渡し遅延率:完成したプロジェクトの引き渡しが予定より遅れた割合を指します。
7.アフターサービス
⑴アフターサービス対応時間:顧客からの問い合わせや修正依頼に対する初回対応までの時間のことを言います。
⑵再工事率:完成後に再工事が必要となった割合を指します。
まとめ
建設業において現場別管理、実行予算管理、工程別KPI指標の設計・マネジメントは、プロジェクトの成功および収益向上に不可欠な要素であり、これらを効果的に実践することで、プロジェクトの効率性や透明性が向上し、顧客満足度並びに企業競争力の向上へとつながります。建設業従事者の不足や働き方改革を推進など課題が多い業界ですが、デジタル技術も活用しながらこれらの管理手法をさらに進化させ、持続的な成長を実現しましょう。
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