人事コラム

コンサルタント一問一答人的資本経営・戦略人事

人材活躍・定着:エンゲージメントへのアプローチ

本コラムは、ダイヤモンド社発行の「戦略起点の人材マネジメント」の第6章の抜粋記事です。

③ エンゲージメントへのアプローチ

組織カルチャーフレームワークに基づき、魅力ある企業のポイントを「パーパス」「システム」「エンパワーメント」で見てきた。パーパスを明示し、それに人材マネジメントシステムを連動させ、エンパワーメントを進めていくことが魅力ある企業づくりのフレームワークといえる。つまり目指すべきは、「エンゲージメントが向上した状態」をつくることである。
「エンゲージメント」とは、「組織と個人のつながりのなかで育まれる自発的な関係性」を指し、会社に対する社員の「愛着心」や「思い入れ」といった意味で使われることが多い。
現在の日本企業におけるエンゲージメントは、世界各国と比較して著しく低い【図表6‒5】。

従業員エンゲージメント率の国際比較

 

社員が自律し、自発的な貢献意欲にあふれているとはとても言えないのが現状である。この現実を正しく受け止め、自社のエンゲージメントを注視していく必要がある。ここでは、エンゲージメントの要素と具体的な向上策について示していきたい。
タナベコンサルティングでは、エンゲージメントは3つの軸(仕事エンゲージメント、組織エンゲージメント、カルチャー)で捉え、サーベイツールを用いて企業のエンゲージメントを可視化している【図表6‒6】。

エンゲージメントの3つの軸

 

(1) 仕事エンゲージメントへのアプローチ

仕事エンゲージメントは「仕事に関する充実度」を指し、仕事に対する使命感、やりがい、当事者意識、適職度などを高めていくことが着眼点である。仕事エンゲージメントを高める代表的な施策は、ジョブクラフティングとトータルリワードである。

 

① ジョブクラフティング

ジョブクラフティングとは「仕事の再定義」をいい、 社員一人ひとりが「なんのために今の仕事と向き合っているのか」といった本質的な動機を再確認していくマインドセット(意識醸成)の手法のことである。
ジョブクラフティングによって社員の〝今〟の仕事を確認し、そのうえで 3年後・5年後のキャリアをデザインしていくことが、特に仕事エンゲージメントの向上には有効である【図表6‒7】。

ジョブクラフティングとキャリアデザイン

 

② トータルリワード

トータルリワードとは、金銭的報酬(月給・賞与など)だけでなく、仕事のやりがいや福利厚生、職場環境といった非金銭的報酬を含めた社員のモチベーションを高める仕組みである。企業経営においては、金銭的報酬を無限に払うことはできない。だが非金銭的報酬は、知恵と工夫次第でいかようにも設定することができる。大切なことは、トータルリワードをただ導入するのではなく、組織としての発達段階を踏まえて、 エンゲージメントの向上につながる施策を導入することだ【図表6‒8】。

トータルリワードの全体像

 

(2) 組織エンゲージメントへのアプローチ

組織エンゲージメントとは、企業と社員が互いに信頼し合い、貢献し合う関係性を深めていくことが着眼点である。組織エンゲージメントを高める代表的な施策は、マネジメントスタイルの変革である。
マネジメントスタイルを古典的な「活動監視型」から、「成長支援型」へ変えることも重要だ【図表6‒9】。監視型のマネジメントが決して悪いわけではないが、企業を取り巻く環境が大きく変化し続ける状況では、成長支援型のマネジメントを組み合わせていくことが組織エンゲージメントの向上に効果的である。
ここまで述べてきたエンゲージメント向上施策のなかでも、マネジメントスタイルの変革は最も基礎的な取り組みだ。これまでの成功体験にしがみつくことなく、未来を見据えて自らのマネジメントスタイルそのものをアップデートしながら、各施策と向き合う必要がある。

活動監視型マネジメント・成長支援型マネジメント

 

(3) カルチャーへのアプローチ

① 組織文化と組織風土

カルチャーと似た言葉に「組織風土」と「組織文化」がある。ここで述べるカルチャーとは後者を指しているが、まず2つの違いについて確認したい。組織風土は勝手に生まれるものではない。土台に組織文化がある。組織文化とは、経営理念やパーパスといった上位概念に対する理解を背景に、全社員で意識的かつ継続的に育んでいく価値観であり、強制力も高い。代表的なものが社員の価値判断や行動特性である。一方、組織風土は無自覚に浸透している空気感のようなもので、時間をかけて醸成されていく。当然、強制力は低い【図表6‒10】。
この違いを踏まえて、自社のカルチャー(=組織文化)にアプローチすることが重要である。

カルチャーと風土の違い

 

② カルチャー形成のポイント

業績悪化や事業衰退の憂き目に遭いながらも大きな変化を遂げ、優良企業へと成長している企業は、創業からの歴史のなかで独自のカルチャーを形成している。そのカルチャー形成のポイントは、「経営理念・パーパスの浸透」にある。
経営理念をはじめとする創業の原点のようなものから、それを社員に伝わりやすく言語化したパーパスなど、多くの企業には自社の存在意義を示す概念が存在する。世間を揺るがせた不祥事を起こした企業ですら、ホームページや会社案内には立派な理念やパーパスを高らかにうたっている。しかし、経営理念やパーパスが往々にして文言が形骸化していたり、描いた理想が絵空事になっていたりするケースは枚挙にいとまがない。
理念・パーパスを浸透させるためには、その思想を社員1人ひとりの〝生きた存在意義〟として伝播させる場づくりが必要だ。立派な理念やパーパスを策定し、言語化してオフィスの壁に貼り付けても、誰もそれを口にすることなく、言葉に見覚えはあっても内容まではよく知らない、上司からも教わったことがないという状態では、なんのための理念・パーパスなのかわからない。
カルチャーが形成されている企業には、理念・パーパスを全社員へ腹落ちさせる仕組みがあり、しっかりと教えてくれる人もいる。また、理念・パーパスの本質を語れるのは経営者本人である。経営者が理念・パーパスに関する講話や座談会を行うなど、腹落ちさせる機会をつくることも必要である。
さらに、日常的に理念・パーパスと接する仕組みも大切だ。一般的には、朝礼や会議の始めに唱和するケースが多い。ただ、形式的にやっているだけではカルチャー形成になんの影響も及ぼさない。大事なのは、理念・パーパスを「自分事」として考えることである。例えば、理念・パーパスの内容を自分に置き換えて考えるワークショップを全社員対象に行うといったことだ。こうした取り組みは、自分自身が会社で働く原点を見直す機会にもなる。
企業は「環境適応業」である。時代環境に取り残されず絶えず変革をし続ける企業が存続する。そう考えると「変革を促す土壌」が不可欠であり、それにはエンゲージメントの3つの軸を持っていることが重要だ。業績が良いからエンゲージメントも高いのではなく、エンゲージメントが高いから業績も良いのである。魅力ある企業づくりは一朝一夕に実現されないが、原理原則、成功事例を参考に、自社の実情を踏まえた地道な取り組みが必要である。

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西村 直人

タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部
エグゼクティブパートナー

西村 直人

「人は変わる、変えられる」を信条に人事制度構築や人材育成の仕組みづくりなど、人事全般のコンサルティング活動を展開中。また、人材育成面では、経営者から新入社員までのプログラムの設計から運営で幅広く活躍、特に、幹部~若手クラスの人材育成のノウハウには定評がある。

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タナベコンサルティンググループとは

タナベコンサルティンググループは「日本には企業を救う仕事が必要だ」という志を掲げた1957年の創業以来
69年間で大企業から中堅企業まで約200業種、22,100社以上に経営コンサルティングを実施してまいりました。
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