人事コラム
人材活躍・定着:魅力ある企業のポイント
本コラムは、ダイヤモンド社発行の「戦略起点の人材マネジメント」の第6章の抜粋記事です。
② 魅力ある企業のポイント
人材不足にあえぐ企業は、例外なく社員の定着に課題を抱えている。そういった企業は、社内人材の離職防止(リテンション)に向けさまざまな施策を実行するものの、思いのほか、効果は上がらないことが多い。労働条件や職場環境などの改善効果は一過性の性質が強く、かつ比較しやすいため、いわゆる「隣の芝生は青く見える」状態に陥りやすい。それよりも内部・外部を問わず、誰もが興味を引かれるようなアトラクション要素を醸成していくことが、結果として社員の定着度を高め、多様化する働き手のニーズに対応する方法なのである。企業に求められるのは「魅力度の向上」であり、魅力度を高めるための取り組みができているかを振り返ってみていただきたい。
筆者は、魅力ある企業とは「社員が自律、活性化し、個々の強みが存分に発揮され、イノベーションが創出される企業」だと考えている。タナベコンサルティングでは、顧客が製品・サービス名から真っ先に頭に思い浮かべる会社、何か困ったことがあればまず初めに声のかかる会社を「ファーストコールカンパニー」と呼び、その成立要件の1つとして「自由闊達に開発する組織」を挙げている。あなたの会社は、役職、年齢、性別、経験、国籍などにかかわらず、自由闊達にディスカッションできる企業文化(カルチャー)が醸成されているだろうか。魅力ある企業には、例外なくこの組織文化が培われている。
(1) 組織カルチャーフレームワーク
タナベコンサルティングには「新しいものを生み出す組織カルチャー研究会」という勉強会がある。組織文化の改革を実現・推進している企業への視察や、経営者・経営幹部の方々の講演を通して、その成功メソッドを参加企業とともに研究・開発する取り組みを行っている。この会では、「組織文化をデザインする」という経営技術を提言しており、【図表6‒2】のように、組織文化は企業が掲げるパーパスと、人事制度をはじめとするシステムに相互に制約を受け、これらをそれぞれ高めていくことが重要だと考えている。
例えば、専門人材を獲得するためには、企業として世の中に対し、どのような貢献価値を提供するのかが明らかでないと獲得には至らない。
さらに獲得に至ったとしても、失敗を許容できない風土であれば活躍ができない。また、成果を残したのに適正な評価を受けられなければ、モチベーションもやりがいも感じられない。このようにそれぞれが密接に連関しており、相互に制約し合っているのである。
なお、制約する半面、相互に相乗効果を生み出すことも十分に想定される。社会性と経済性を両立させた貢献価値を掲げ、チャレンジを称賛し、失敗を容認する文化が育まれ、成果を上げればしっかりと認められる。この相互関係を構築し、双方向に相乗効果を生み出している企業が、真の意味での「自由闊達に開発する組織」といえる。
(2) 魅力ある企業のポイント
組織カルチャーフレームワークに基づき、魅力ある企業のポイントを整理する。自社をチェックする視点として確認いただければと思う。
① パーパス(貢献価値)
2010年代の終盤あたりから、世界的に「パーパス経営」が注目されるようになった。パーパス経営とは、自社の存在意義を軸に社会や顧客へ貢献していく経営スタイルをいう(「パーパス」とは個人や組織が持つ目的や意義を指す)。すなわち、数値目標や短期的利益だけを追求するのではなく、そもそも自社はなぜその事業活動を行うのか、どのような価値を提供したいのかといった根本的な理由を明らかにするということである。タナベコンサルティングでは、パーパスを、
「顧客価値」と「提供価値」と「社会価値」の接点である「貢献価値」
――と定義している【図表6‒3】。
近年は自社の経営理念体系を見直し、新たにパーパスを策定する企業が増加傾向にある。パーパスの策定を通じて、社員や顧客がその企業に共感し、長期的な信頼関係を築くことにつながる。そして何より、人材を引き寄せる求心力として、魅力ある企業の礎となる根源になるのである。
② システム
魅力ある企業の2つ目のポイントは「システム」である。人材マネジメントの仕組みや制度を指し、その範囲は「採用→配置→育成→評価→報酬→活躍→定着」というフローを対象とする【図表6‒4】。
人材マネジメントシステムを構築するポイントは、「一貫性」にある。人材マネジメントシステムは経営システムであり、会社のパーパス・戦略と人材マネジメントシステムとの一貫性が担保されていることが重要である。
確認すべきことは、自社の人材マネジメントシステムを運用することが、パーパスの実現につながるかどうかということである。特に、人材マネジメントシステムのプラットフォームである人事制度を、単なる評価と賃金を決める仕組みと捉えるのではなく、具体的に会社のパーパスを落とし込んでいることが重要である。
具体的には、人材マネジメントの根幹である「求められる人材像」を「会社のパーパスを実現する人材」として定義するとともに、その人材像を各階層(等級)に展開する。それに基づいて、社員がどれだけ成果・パフォーマンスを発揮したのかを評価制度で測定・判定が行われるということである。パーパスを基軸とした人材マネジメントを構築することで、その実現に向けた推進力が高まり、組織としての一体感が醸成される。
③ エンパワーメント
会社と社員が高い信頼関係を維持していく取り組みとして注目されているのが、「エンパワーメント」である。エンパワーメントとは、「自信を付けさせること」や「権限を持たせること」を指し、活力が湧き上がることから〝湧活〟との和訳もあるが、一般的には「権限委譲」という意味で使われることが多い。権限委譲は文字通り、権限を付与し、自分の力で成し遂げられる環境をつくり、自信を持たせることがポイントとなる。
社員は目標を達成していくことで働く意欲が高まる。それは確かなのだが、その目標達成に必要な権限が与えられていなければ、働く意欲は高まらない。人は皆、自分の判断で仕事を進めたいという欲求を持っている。その結果として目標達成という成果が上がり、他者の評価を受けることで「自分の仕事を成し遂げた」という実感が得られるのである。
つまり、管理職者や上位職者が部下へ権限委譲を進めることにより、社員1人ひとりの自律性を促すとともに、業務に対する責任感が生まれ、熱意・意欲・充実感が高まる効果を期待できる。また、現場における意思決定スピードが速くなり、組織全体の生産性が上がるメリットもある。事実、成長する企業の経営者ほど意識的・積極的に権限委譲に取り組んでおり、その結果として経営者自身のサポート役である「右腕人材」が育っているケースは多い。
もっとも、単に上司が持っている仕事を部下に任せるだけでは、エンパワーメントは成功しない。経営理念やパーパスを共有するとともに、人事評価制度の明確化と処遇への反映、前向きな失敗や挑戦を許容・奨励する企業文化を醸成することが大切である。
