人事考課は人材の優劣をつけるものではなく、
成長を支援するための戦略的ツールとして活用していく

人事考課の本質とは
評価は、従業員を順位付けするためのものではありません。それは、企業が目指す「求める人材像」を明確化し、被考課者がその理想像に近づけるよう成長を支援する仕組みです。
以前、支援したある企業では、評価制度が「優秀な社員を選ぶためのもの」もしくは単に「賃金・賞与を決めるもの」として機能していました。その結果、被考課者(部下)たちは、成長の実感を得る事がないため、自己成長の意欲わかず、成長の鈍化や離職が相次いでいました。このような企業に対しては、まず、人事制度における「求める人材像」を具体的に定義するとともに、考課者研修を実施し、考課者ひとりひとりの意識を「人事評価は人を成長させるもの」と植え付けることを行いました。
このアプローチにより、被考課者は評価面談の中で、自身の現状と理想像のギャップを理解し、具体的な改善策を講じる意欲が高まりました。
理想像に近づくためのフィードバック手法
評価を通じてギャップを明確にした後、重要なのはフィードバックの質です。その際、被考課者に「理想像との違い」を具体的に示し、行動の改善を促す建設的なアプローチが求められます。
たとえば、ある企業では、「理想像=プロジェクトマネジメントスキルの向上」と定義していました。評価の中で、被考課者には「タスク管理能力は高いが、チームメンバーへの指示が曖昧」というフィードバックが行われました。上司は「次のプロジェクトで、週次の進捗会議で明確なタスクと目標を設定する」という具体的な改善提案をしました。
その後の面談では、「進捗会議の頻度を上げた結果、メンバーのモチベーションが向上した」との被考課者からの報告があり、被考課者のマネジメントスキルが理想像に近づいていることが確認されました。このように、理想像と現状のギャップを埋める具体的なステップを提示することで、被考課者が目標に向けて主体的に行動できるようになります。

評価プロセスを成功させる組織全体の取り組み
評価を成長支援のプロセスとして活用するためには、評価者(上司)のスキル向上だけでなく、組織全体の取り組みが必要です。特に、評価の透明性を高める仕組みや、社員全員が成長を実感できる環境を整えることが重要です。
過去に支援したある企業では、評価制度そのものは優れた設計でしたが、評価者のスキルにばらつきがあり、被考課者から「上司によって評価基準が異なる」という不満が寄せられていました。この状況を改善するために、評価者向けのトレーニングを定期的に実施し、統一した評価基準を共有しました。
さらに、評価プロセスの透明性を確保するため、評価基準やスコアリング方法を全社員に公開し、評価後にはフィードバック面談の中で、被考課者が自分の評価内容を理解しやすい資料を提供しました。この取り組みにより、社員全体の納得感が向上し、被考課者の成長意欲が高まりました。
また、組織全体で「成長を支援する文化」を醸成することも欠かせません。たとえば、月次ミーティングで「成果を上げた社員の事例」を共有し、他の社員が成長の参考にできる機会を設けることで、評価が組織全体の学びと成長のきっかけとなる仕組みを構築しました。
これらの事例からも分かるように、評価を成功させるには、制度設計だけでなく、組織全体で取り組む姿勢が不可欠です。
まとめ
評価を単なる選別査定や業務の一環ではなく、成長支援のプロセスとして位置づけることで、個々の社員と組織全体のパフォーマンスを向上させることができます。理想の人材像を明確化し、評価基準の透明性を高め、被考課者と評価者が共に成長を目指す環境を作り上げることが重要です。
評価プロセスを成功させるためには、統一した基準の共有や評価者のスキル向上、透明性を重視したコミュニケーションが欠かせません。また、組織全体で成長を支援する文化を醸成することで、評価が競争ではなく協力を促進し、社員全員が成長を実感できる環境を作ることができます。
これらの取り組みを通じて、評価が「成長を加速させるツール」として機能し、企業の持続的な発展に寄与する仕組みを構築していきましょう。
この課題を解決したコンサルタント

タナベコンサルティング
HRコンサルティング
チーフマネジャー小泉 博史
- 主な実績
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- 中堅輸入卸売業企業のアカデミー構築コンサルティング
- ビル管理業界の中期経営ビジョン策定コンサルティング
- 中堅建設企業の働き方改革コンサルティング
- 中堅クリーニング企業のプロモーションコンサルティング