道内全域に「届ける」使命で成長する
中村 「北の大地とともに」をキャッチフレーズに掲げる北海道コカ・コーラボトリングは、北海道を代表する企業として地域の発展に貢献してこられました。道内の清涼飲料市場においてトップシェアを堅持されていますが、設立後しばらくは苦しい時期もあったとお聞きしています。
佐々木 当社は、大日本印刷(DNP)と北海道の地場企業が共同出資し、日本で15番目のボトラーとして1963年に設立しました。すぐに札幌市に工場が立ち上がったものの、まだ道内におけるコカ・コーラの知名度は非常に低く、5年ほどは赤字続きの厳しい状況でした。
ただ、苦しい中でも、「北海道全域にコカ・コーラを行き渡らせたい」という強い意思を持って物流網や営業体制を整備したことが、その後の成長につながりました。物流専門の会社を設立したほか、全道に30~40カ所ほど営業拠点を置く拡大戦略によって、5年で累積赤字を乗り越え、以降は順調に業績を伸ばしていきました。
中村 厳しい状況下でも一気に物流網を広げるなど、強い使命感と創業マインドが伝わってきます。早い段階にサプライチェーンを確立したことが、成長の原動力となったことは間違いありません。
佐々木当社は直販型のビジネスモデル。ものづくりから配送、営業、販売までを一貫して行う体制が最大の特長であり、これが「北海道に対して、いつでもどこでも誰にでもさわやかさと潤いを提供する」という当社の存在意義、ミッションを支える基盤にもなっています。
加えて、強みとなっているのが商品ポートフォリオです。炭酸飲料だけでなく、コーヒーや紅茶、お茶、エナジードリンク、アルコールまで多様な商品を取り扱っており、パッケージの種類も豊富。飲料の種類別・パッケージ別に数えると、取り扱う商品点数は年間約400点に上ります。
中村 清涼飲料市場は卸を通して販売することが多く、製造から販売まで社内で手掛けるところは珍しい。また、多様な商品力と併せて、北海道限定のオリジナル商品を持っている点も独自化につながっています。
佐々木 北海道限定商品は20~30種類あります。北海道の生活者に好まれる飲料とは何かをマーケティングし、社内で企画したものを日本コカ・コーラ(CCJC)に申請し、原材料の提供を受けて自社工場で製造していますが、それができるのも地場に工場を持っているおかげ。オリジナル商品の展開は3つ目の特長であり、消費者へのスピーディーな提供を可能にする意味でも、札幌工場は商品戦略上の重要な拠点と言って良いでしょう。
地域に根差し貢献する"道産子企業"
中村 北海道限定商品は、引き継がれる創業マインドや北海道愛といった企業DNAを強く感じさせる展開です。この商品群は北海道コカ・コーラボトリングらしさを一層高めています。北海道出身の社員が多いことも、そうしたDNAと関係しているように思います。
川村 今でも社員の9割以上は北海道出身。名実ともに"道産子企業"ですから、地域に愛着や誇りを持つ社員が多いことは確かです。
水本 長期計画『2020VISION』にも「道内企業としての地域密着力」「新たな価値提供による地域貢献」といったキーワードが含まれるなど、地域との関係を非常に大切にされています。
佐々木 当社が大事にしているのは、長期にわたって生活者や社会に受け入れられ、成長し続けること。併せて、地域に貢献し、課題解決のために支援することです。それがベースにあり、次に目標があるという考え方。そうした経営を貫く背景には、先ほども紹介した「北海道に対して、いつでもどこでも誰にでもさわやかさと潤いを提供する」という存在意義があります。
存在意義を実現するために、地域密着や地域貢献、持続的成長を可能とする強靱な経営が必要であり、地域密着や強靱な経営を目指して長期計画や短期的な目標に取り組んでいます。
水本 地方公共団体との連携や災害時の協力協定の締結、地域のスポーツ・文化施設へのスポンサー協力など、幅広い活動をされる背景や理由がよく分かりました。CSRの考え方や行動を社内に浸透させるポイントはありますか。
佐々木 当社の場合は、DNAだと思います。会社設立後すぐに、社員が清掃活動を自発的に始めるなどCSRの土壌があり、さらに2000年ごろにCSR推進部を設置したことで急速に活動が広がりました。全道共通のプロジェクトもありますが、ほとんどは各拠点が「地域に必要とされる支援は何か」を自ら考えて始めた活動。その数は100以上に上ります。それらの活動を続けながら、今後はSDGsの観点も取り入れてさらに北海道に貢献していきたいと考えています。
中村 「地域の生活者のため」「地域のため」が先にあり、その実現のために利益を上げる。この順番を貫いて経営や戦略に向き合われています。起点が全くブレないことが北海道コカ・コーラらしさや、ブランド力を高めているように感じます。
社員の「考動力」が会社を成長させる
南保 コロナ禍に直面し、多くの業種がビジネスモデルの転換を迫られています。そうした状況下、将来の企業の核になるメンバーの育成に注力されています。
佐々木 コロナ禍で社会は一変しました。従来のやり方だけでは、持続的成長はもとより、短期的収益を上げることさえ難しい状況です。そうした環境下で、ミッションを果たしながら企業として成長していくには、個々の力の最大化が必要と感じています。それがジュニアボードをスタートさせた理由であり、研修を通して戦略的な思考や経営的な知識を身に付けてほしいと思います。
南保 次世代の幹部候補を育成するジュニアボードの導入企業は増えています。若手社員が経営を学び、部門を超えた全社的な視点から経営課題や経営戦略を考える機会として活用されています。
佐々木 若手社員の育成には力を入れていきます。CCJCや他地域のボトラー※の会合に参加する機会がありますが、その際、若い外国人社員が経営的な課題に対して積極的に発言する姿を目にします。そのたびに、若いうちに多くの経験を積むことは個々のキャリアにとって大事だと痛感しますし、そうした人材が会社を成長させる原動力になると思います。
特に、これからの時代は潜在的な課題を見つけ、解決する力が求められます。その際、必要となるのが自ら考えて動く「考動力」。個々の考動力の積み重ねが、企業の持続的な成長につながっていくと確信しています。経営者の役割は、個々の考動力を最大化する、しっかりとした研修体系と場を与えることです。
南保 自発的なCSRの活動を見ても、考動力が備わった社員は多いように感じます。
川村 そう言っていただけるとうれしいです。ジュニアボードが社員の力を引き出してくれると期待していますが、同時にマネジメントする側の力量も試されると思います。若手社員をマネジメントする管理職が、ジュニアボード・研修で培った力を試す機会や生かす場を与えられるか否かで成長のスピードや幅が変わってきます。
また、さまざまな個性を持った社員が集まっており、管理職が社員1人1人に合った方法で成長を促す必要があります。管理職がそうしたマネジメントを学べる場や研修も用意すべきだと考えています。
中村 昨今、多くの企業で「多様性」が人材戦略のキーワードになっています。社員1人1人の力や長所を最大限引き出すには、社員の性格や個性を考慮したアドバイスやマネジメントが必要です。手間やスキルを要しますが、多様な個性が発揮されると、それだけ可能性も広がっていくはずです。
井馬 多様性について言えば、個人的には「『あんな人になりたいな』と思われる人が、たくさんいる会社にしたい」と思っています。そうした会社に求められるのは、2つの多様性でしょう。
まず、属性やスキルの多様性。いろいろな背景やスキルを持った人材がそろっている状態で、これは一般的な捉え方に近いと思います。もう1つは、さまざまな面を持った人材という意味での多様性。仕事以外でも、熱中できる趣味や特技を持っていたり、仕事以外のネットワークを持っていたり、役割を持って活動したりするなど。
複数の顔を持つ人材が多くいると、会社は面白くなると思います。仕事でも、仕事以外であっても誰かの憧れの対象となるような、魅力的な社員になってもらいたいと思っています。
中村 なるほど。属性のダイバーシティーに取り組む企業は多いですが、1人の中にもダイバーシティーは存在するという、新しい視点を教えていただきました。
佐々木 人材育成においても新しい視点が必要な時代だと思います。今は予測不能な時代です。従来の経験から良いとされるプログラムを参考にするのも1つの方法ですが、一方でまったく新しい視点を取り入れることも重要になってくる。ジュニアボードのようなベースとなる研修を柱として実施しながら、新たな研修、教育プログラムも必要だろうと考えています。
※日本コカ・コーラから原液の供給を受けて製品の製造と販売を行うのがボトラー。北海道コカ・コーラボトリングを含め全国に5社ある
ポートフォリオ型の経営でサプライチェーンモデルも視野に
中村 コロナ禍から始まった2020年は、社会のあり方が大きく変わる1年になりました。事業戦略においても人材戦略においても、企業に大きな変革をもたらす年だったことは確かです。今後の展開についてはどのようにお考えでしょうか。
佐々木 時代が変わっても、当社の存在意義は変わりません。ただ、そこに含まれる意味を深く考えることが大切です。「いつでも、どこでも、誰にでも」という姿勢は変わりませんが、どのように届けるかは変わっていく。時代に合った方法に変えていかないといけません。コロナ禍でウェブ販売が増加しているのも変化の1つです。
中村 社会全体に言えることですが、コロナ禍を通してサプライチェーンや物流の重要性が、かつてないほどに高まっています。物流なくして生活なし。そのような意識が一般の消費者まで浸透したように思います。
佐々木 全く同感です。当社の物流は、工場と各拠点を結ぶ基幹物流の幸楽輸送(札幌市)と、道内に約4万台ある自動販売機を管理する北海道ベンディングが担っていますが、販売チャネルが変化する中、物流の重要性は増しています。基幹と末梢を担う2つの物流を持っていることが当社の特長であり、ラストワンマイルまで届けるインフラは今後の可能性を広げる鍵になると考えています。
中村 「幸せ」と「楽しさ」が入った幸楽輸送という社名にはポジティブな響きがあり、貴社の事業や存在意義にも通じます。インフラを生かして、サプライチェーンモデルへといかに進化していくかがポイントになりそうです。
佐々木 変化の激しい環境の中、存在意義やミッションを貫くには強靱な経営が不可欠ですから、事業構造や将来の事業構想は絶えず見直していくべきでしょう。例えば、清涼飲料事業が大半を占める事業展開から一歩踏み出して、非飲料事業を強化することも必要だと考えています。強みであるインフラやノウハウが生かせる分野を見つけながら、非飲料事業がある程度の売上構成比を占めるような未来を思い描いています。
中村 飲料事業を軸に置きながらも、新たな事業領域を開拓していくポートフォリオ型の経営によって、この先も北の大地に広く、深く根付き、サステナブルな成長を続けていかれることを心から祈念しております。本日はありがとうございました。
会社プロフィール
- 会社名
- 北海道コカ・コーラボトリング株式会社
- 所在地
- 〒004-8588 北海道札幌市清田区清田一条1-2-1
- 設立
- 1963年
- 代表者
- 代表取締役社長 佐々木 康行
- 売上高
- 552億円(連結、2019年12月期)
- 従業員数
- 1268名(グループ計、2020年12月現在)