なぜ企業価値向上が今必要なのか?
背景と対策を解説
- 企業価値向上

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2023年3月、東京証券取引所はプライム市場とスタンダード市場の上場企業に対し、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの状況を改善するため、資本コストや株価を意識した経営を促す要請を行いました。このような投資環境の変化に加え、経済環境の変化や社会環境の変化が重なり、昨今、「企業価値向上」が企業に求められるようになっています。
企業価値向上が叫ばれる背景について
企業価値向上が叫ばれる背景には、以下の5つの要因が挙げられます。
1つ目が「投資家の視点の変化」になります。
株主は資本効率の高い企業を評価する傾向が強まり、それに伴い、企業は資本コストを意識した経営を求められています。また、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)に配慮した企業が長期的に価値を生むとされ、非財務情報も企業価値に直結するようになりました。
2つ目が「グローバル競争の激化」になります。
海外企業との競争が激しくなる中で、競争優位性の確立や持続的成長戦略が求められています。特に日本企業は、低成長・低収益体質からの脱却が課題とされており、企業価値向上が経営の最重要テーマとなっております。
3つ目が「資本市場からの圧力」になります。
アクティビスト(物言う株主)の台頭により、企業は株主価値を意識した経営を迫られています。そして、東京証券取引所も2023年以降、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業への改善要請を強化しており、企業価値向上は上場企業にとって喫緊の課題です。
4つ目が「企業の持続可能性と社会的責任」になります。
昨今、気候変動や人権問題等、企業が社会課題にどう向き合うかという取り組み姿勢が評価される時代になっています。サステナビリティ経営を通じて、社会的信頼と長期的価値創造を両立することが求められています。
5つ目が「人的資本経営の重要性」になります。
人材を「コスト」ではなく「資本」として捉える考え方が広がり、人的資本の開示や従業員エンゲージメントの向上が企業価値に直結するようになっています。
これらの背景から、企業は単なる利益追求だけでなく、中長期的な価値創造を重視した経営にシフトしています。
企業価値を向上させるメリット
メリット1
メリット1:資金調達力が高まり、成長投資を進めやすくなる
企業価値が高い会社は、金融機関や投資家から「将来の収益力が期待できる企業」として評価されやすくなります。その結果、借入条件の改善や出資の獲得がしやすくなり、新規事業投資、設備投資、人材採用など、将来に向けた成長投資を進めやすくなります。特にIPOを目指す企業にとっては、企業価値の向上は上場時の評価額に直結する重要な要素です。売上成長だけでなく、収益性、資本効率、ガバナンス体制、開示の透明性などが総合的に評価されるため、上場準備の段階から企業価値向上に取り組むことが、適正な株価形成や円滑な資金調達につながります。
メリット2
メリット2:経営の選択肢が広がり、戦略の自由度が増す
企業価値が高まることで、企業は将来の選択肢を広げることができます。たとえば、M&Aや資本業務提携を進める際にも、評価の高い企業は有利な条件で交渉しやすくなり、自社主導で戦略を描きやすくなります。事業承継や次世代経営への移行を検討する局面でも、企業価値が可視化されていることは大きな強みとなります。また、企業価値の高い会社は、取引先や採用市場からの信頼も得やすくなります。顧客、金融機関、株主、従業員といった多様なステークホルダーから「安定的に成長できる企業」と認識されることで、単なる資金面だけでなく、営業面・組織面でも優位性を持つことができます。
メリット3
メリット3:持続的成長に向けた経営基盤の強化につながる
企業価値向上に取り組む過程では、収益構造の見直し、KPI管理の高度化、ガバナンスの整備、人材育成の強化など、経営基盤そのものが磨かれていきます。これは一時的な業績改善にとどまらず、環境変化に強い企業体質をつくることにつながります。特に近年は、財務情報だけでなく、人的資本、ESG、リスク管理といった非財務面も企業評価に大きく影響しています。企業価値を高める取り組みは、短期的な利益追求ではなく、中長期で信頼され、選ばれ続ける会社になるための土台づくりといえます。
企業規模別の企業価値向上に向けた課題について
大企業(上場企業やグローバル企業)は、東京証券取引所や海外投資家から「資本効率を高めよ」「ガバナンスを強化せよ」といった強い要請を受けています。特に、PBR(株価純資産倍率)1倍を下回る企業は、資本の使い方や事業の選択と集中を見直す必要があります。また、ESGや人的資本の情報開示にも高度な対応が求められており、経営の透明性と説明責任が問われております。
中堅企業(非上場)は、地域経済の縮小や人材不足、事業承継といった課題に直面しております。一方で、上場やM&Aの対象として注目されることも多く、企業価値を高めることで企業が取り得る選択肢が広がります。成長分野への投資や財務の見える化、組織力の強化が重要なテーマです。
中小企業は、人材や資金、情報といった経営資源が限られている中で、いかに収益性を高め、持続可能な経営を実現するかが課題です。価格競争に巻き込まれがちな状況下で、自社の強みを活かしたブランドづくりや、デジタル化による業務効率化が企業価値向上の鍵となります。
企業価値の評価方法
方法1
方法1:マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、上場している類似企業の株価や財務指標を参考にして企業価値を評価する方法です。代表的な指標としては、PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)、EV/EBITDA倍率などがあり、自社と近い業種・事業モデル・成長性を持つ企業と比較しながら水準を把握します。この方法は、市場参加者がどのような目線で企業を評価しているかを把握しやすい点が特徴です。特にIPOを目指す企業にとっては、上場後にどの程度の評価レンジが想定されるのかを考えるうえで有効な手法です。一方で、市場環境や比較対象の選び方によって評価が変動しやすいため、他の手法と併用して判断することが重要です。
方法2
方法2:インカムアプローチ
インカムアプローチとは、企業が将来生み出すと期待される利益やキャッシュ・フローを現在価値に割り引いて企業価値を算定する方法です。代表的なのがDCF法(Discounted Cash Flow法)で、将来の事業計画、利益成長率、投資額、資本コストなどをもとに価値を評価します。この方法は、企業の将来性を重視する点に特徴があり、高成長を目指す企業やIPO準備企業の評価に適しています。足元の利益だけでは見えにくい成長期待を反映しやすい一方で、前提条件の置き方によって結果が大きく変わるため、実現可能性の高い事業計画と、説明力のある前提設定が求められます。
方法3
方法3:コストアプローチ
コストアプローチとは、企業が保有する資産と負債をもとに純資産価値を算定する方法です。貸借対照表をベースに評価するため、比較的わかりやすく、客観性を持たせやすいのが特徴です。代表的な考え方としては、簿価純資産法や時価純資産法があります。この方法は、安定資産を多く持つ企業や、清算価値・下限価値を把握したい場合に有効です。一方で、ブランド力、技術力、人材力、将来の成長可能性といった無形資産を十分に反映しにくいという側面があります。そのため、実務ではコストアプローチだけでなく、マーケットアプローチやインカムアプローチと組み合わせて総合的に評価することが一般的です。
企業価値向上に向けた対策、アプローチポイントと手法について
企業価値を高めるためには、単に利益を上げるだけでなく、企業の持続的な成長や社会的信頼を築くことが重要となります。以下に、企業価値を高めるための対策・アプローチポイントとして重要な項目を6つ挙げます。
1つ目が「財務体質の強化」です。
企業価値の基盤は、健全な財務体質にあります。利益率を高め、資本を効率的に使うことで、投資家からの企業への評価が向上します。例えば、収益性の低い事業を見直したり、資本コストを意識した経営を行うことで、ROEやROICといった指標の改善につながります。また、適切な配当や自社株買いなど、株主還元の方針も重要となります。
2つ目が「事業ポートフォリオの最適化」です。
企業が持つ複数の事業の中で、どこに資源を集中すべきかを見極めることが求められます。成長性の高い分野に投資を集中させ、収益性の低い事業からは撤退するなど、戦略的な選択と集中が必要です。M&Aや業務提携を活用することで、外部の力を取り入れながら成長を加速させることも可能となります。
3つ目が「人的資本の活用」です。
人材は企業の最も重要な資産です。社員のスキルを高め、働きがいのある職場をつくることで、組織全体の生産性が向上します。最近では、人的資本の情報開示も求められており、教育・研修制度や多様性の推進、エンゲージメント向上施策などが企業価値に直結するようになっています。
4つ目が「ESG・サステナビリティへの対応」です。
環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)に配慮した経営は、長期的な企業価値の向上に不可欠です。たとえば、CO₂排出量の削減や再生可能エネルギーの導入、社外取締役の活用によるガバナンス強化などが挙げられます。これらの取り組みは、投資家や消費者からの信頼を高める要因となります。
5つ目が「ブランドと顧客価値の向上」です。
企業のブランド力や顧客からの信頼は、無形資産として企業価値に大きく影響を与えます。顧客満足度を高めるためには、製品やサービスの品質向上に加え、デジタル技術を活用したマーケティングやカスタマーエクスペリエンスの改善が効果的です。
6つ目が「資本市場との対話の強化」です。
企業は、投資家や株主に対して自社の戦略や価値創造の取り組みをわかりやすく伝える必要があります。IR活動の充実や統合報告書の発行、資本コストを意識した経営方針の説明などを通じて、企業の透明性と信頼性を高めることができます。
これらのアプローチは、単独で行うのではなく、相互に連携させることでより大きな効果を発揮します。自社に足りない項目や伸ばしたい項目を分析のうえ、対外的に発表して取り組んで結果を出していくことが企業価値の向上につながっていきます。
まとめ
企業価値向上は、単に株価を押し上げるための施策ではなく、企業が将来にわたり持続的に成長し、投資家、金融機関、取引先、従業員、地域社会など多様なステークホルダーから信頼を獲得するための重要な経営テーマです。近年は、東京証券取引所による資本コストや株価を意識した経営への要請、PBR1倍割れ企業への改善圧力、アクティビストの存在感の高まりなどを背景に、企業はこれまで以上に資本効率や収益性を意識した経営を求められています。加えて、ESGやサステナビリティ、人的資本経営への関心の高まりにより、財務数値だけではなく、ガバナンス体制や人材戦略、社会課題への向き合い方といった非財務面も企業価値を左右する時代になっています。
このような環境下では、売上規模の拡大だけでなく、利益の質、キャッシュ・フロー創出力、資本の使い方、将来に向けた成長投資の妥当性まで含めて評価されます。企業価値が高まることで、借入や出資、IPO時の資金調達を有利に進めやすくなるだけでなく、M&Aや業務提携、新規事業への投資など、成長に向けた選択肢も広がります。また、企業としての信頼性が高まることで、優秀な人材の採用・定着、取引先との関係強化、重要案件の受注拡大にもつながり、結果として経営基盤そのものが強化されます。企業価値を正しく把握するためには、マーケットアプローチ、インカムアプローチ、コストアプローチといった評価手法を活用し、自社の現状と将来性を多面的に捉えることが重要です。特にIPOを目指す企業にとっては、企業価値向上への取り組みが上場時の評価額だけでなく、上場後に市場から継続的に評価されるかどうかにも大きく影響します。財務体質の強化、事業ポートフォリオの見直し、人的資本への投資、ガバナンス整備、資本市場との対話を一体で進め、自社らしい価値創造のストーリーを磨き上げていくことが、これからの時代に選ばれる企業となるための鍵といえるでしょう。
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