人事コラム
執行役員制度の導入・見直しで企業はどう変わる?
~執行役員制度のメリット・リスク・導入ステップを解説~
導入当初の目的設定が甘く、役割不明瞭で名ばかり執行役員となり、制度不活性に悩む経営者に向けて、効果的な制度の仕組み設計と的確な運用のポイントをお伝えし、推進力と持続発展可能な経営を実現するヒントをご紹介する。
明確な仕組みと厳格な運用によって、推進力と持続発展可能な経営を実現する
執行役員制度とは
執行役員制度とは、会社法上の役員(取締役)とは別に、業務執行を担う幹部人材を配置することを指している。特徴としては、役員と名称にはあるが法律上は使用人(社員格)身分であること、役割としては、取締役会と社員の間を繋ぐ存在であることが挙げられる。
この制度は広く活用されており、上場企業で80%を超え、300名未満の企業でも約43%が執行役員を登用していると調査結果がある(2023年12月22日発行 労政時報特別調査「2023年役員報酬・賞与等の最新実態」)。
長らく、日本の企業は「部長=部門長=取締役」としたケースも多く、その中には、経営能力は足りていないが、栄誉職として、役員ポストを用意することもあった。そのため、意思決定力のない(不足した)役員会参加メンバーが増え、企業としての推進力・意思決定スピードを失った事例は多い。そこで、ソニー社が初めて、1990年代に「執行役員制度」を設定し、機能化させたことにより、他企業にも広く導入されるようになった。
広く活用をされている仕組みではあるが、今の現場実態を見ると、「登用された執行役員は十分に機能発揮しているか」と問われた際、回答に窮しない企業はどれだけあるだろうか。実は、安易な制度導入で上手く活用できていない企業は多く、コンサルティング現場でも相談をいただくことも多い。本コラムでは、機能化する執行役員制度のポイントをお伝えする。
執行役員制度を導入するメリット
まずは、整理の意味も込めて、執行役員制度を導入するメリットを確認していく。経営におけるメリットは、大きく3点である。
- 1
- 経営と執行の分離(ガバナンス強化)
- 2
- 責任の明確化
- 3
- 執行権限の明確化による意思決定スピード向上
1. 経営と執行の分離(ガバナンス強化)は、オーナー経営者(もしくは株式保有率の高い代表権保有者)=執行の責任者とした場合、すべての決定権が集中することになり、権力の乱用を止める機能が失われる。そこで、経営権限と業務を現場で執行する部分は分離させ、執行に専念をするポジションを作り、現場の意思決定権限は委譲することで、経営への牽制機能が確保された組織運営が可能となる。
2. 責任の明確化は、1の仕組みとすることで、業務執行側は、現場の指揮権を持って業務を実行することができる。つまり、現場の業務・成果責任も負うことと同義であり、責任所在の明確化が可能となる。
3. まず経営層が執行機能を委譲することで、会社経営全体の判断に集中することができる。また、執行役員も現場判断を一定範囲までは自身の裁量内で行うことができるようになる。この点から、組織全体の意思決定スピードが向上し、推進力の高い経営が実現できる。
執行役員制度が正しく機能すると、経営における攻め・守りいずれの面も強化される仕組みであることが分かる。
執行役員制度のデメリットとリスク
一方で、仕組みが機能化できない場合のデメリットとリスクも確認しておく。こちらも大きくは、3点である。
- 1
- 名ばかり執行役員
- 2
- 権限と責任の不一致
- 3
- 社外への説明の難しさ
1・2は関連しているが、この状態に陥っている企業は非常に多い。執行役員のポジションに就けたものの、機能発揮がしきれず、他の部門長との差がない状態で、名ばかりの状態となってしまうケースである。役割認識の甘さ、本人の能力不足、栄誉職的処遇など、名ばかり状態になってしまう原因は様々であるが、仕組みの設計自体が曖昧である場合も多い。また、権限はないにも関わらず業務執行責任はすべて負っているケース、逆のパターンで権限はあるが会社法上の役員よりも責任がないことで執行に対する責任感が薄くなるケースもあり、権限と責任のバランスが失われるリスクがある。
また、3については、執行役員は日本独自に発展した仕組みであるため、海外投資家やステークホルダーから理解を得にくいことがある。会社法上の役員との違いを明確に説明できない場合、必要性を問われる場合もあるため、自社における登用目的と役割を明確に定義しておく必要がある。
つまり、機能化すると経営におけるメリットは大きいが、反面、機能しきれない場合には無用の長物となり、逆効果を生んでしまう諸刃の剣とも言える。
執行役員制度導入フロー
それでは、機能化する執行役員制度を導入・見直しをするためのステップをご紹介する。
大きく5つのステップで検討し、仕組みと運用ルールを明確にすることがポイントである。
- <検討ステップ>
- STEP1
- 導入目的の整理
- STEP2
- 要件(求める役割)の定義・権限規程の整備
- STEP3
- 選解任基準の設定
- STEP4
- 評価制度の設計
- STEP5
- 報酬設計
まず、自社において、何を目的に執行役員制度を導入する(している)かを設定(整理)することから始める。経営において明確な理由なく、栄誉職としてのみの目的ならば、導入は見送り(廃止)をすべきである。
次に、執行役員の要件設定である。ここでポイントとなるのは、執行役員ではない部門長との違いを明確にすることである。経営と社員の間の立ち位置において、何を求めるのか、またそのための権限はどこまであるのかを明文化する必要がある。
併せて、選任・解任の基準・ステップも設定をしておく。任期設定はあるものの、自動延長になっているケースも多いため、役割発揮ができているのか、後進を育成することができているのか、明確に見極めるべきである。
その後に、評価・報酬の仕組みを設計していく。評価項目においては成果に比重を置くべきであるが、行動・姿勢についても評価項目に入れておくと良いと考える。あくまで社員格であること(責任範囲)、成果にはコントロールできない要素も入ってくることも考慮すると、定性的に評価できる部分も入れておく方が妥当と言える。報酬については、取締役の報酬を上回らない範囲で、社員格としての最高水準を設定する。年俸制一本のケースもあるが、月例給は一定水準で安定させ、執行における成果を賞与でメリハリをつけて報いるバランスが妥当と考えるため、分離させた報酬設計をお奨めする。各種手当は報酬の中に入れ、シンプルな設計が良い。
導入を意味あるものにする運用
執行役員制度の運用についてのポイントをお伝えする。
まず、上項で挙げた選解任基準の厳格な運用が大前提である。基準が正しく運用されず形骸化していくことから執行役員制度の崩壊が始まっていくため、役員陣が明確な意志をもっておくことが重要である。また、当初設定した導入目的の達成度を定点でレビューすることも欠かしてはならない。業績、組織風土、人材育成などの観点で、執行役員制度は機能をしているのか、足らずがあるならば、その原因は何かを検討し、仕組み・運用に反映する。企業の成長に合わせて目的の再設定ももちろん必要であるため、自社において必要性が明確になっているかが重要である。
最後に、教育制度との連関である。役員候補人材は自然発生的に潤沢に出てくるものではない。一般社員⇒部門長⇒執行役員⇒役員への育成を仕組み化し、候補となる人材の中から選ばれし人材が登用される状態になることで、企業は持続的に発展していくことができる。中小企業においては、対象となる人材が限定的になる場合もあるが、それでも競争原理が働くように複数の候補者がいる状態は最低限実現するべきである。
執行役員制度を効果的にするための仕組み・運用のポイントをご紹介した。これらを押さえることにより、経営の攻め・守りの両面を強化することができる。事業環境変化が激しく、予測が立てにくい現代において、有効性の高い経営の選択肢だと言える。自社においての必要性を明確にした上で、推進力の高い経営を実現されたい。
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