人事コラム
社員一人ひとりが成果を生む人事制度の設計に必要なポイントは何か
〜人事制度は制度2割・運用8割を基本とする~
人事制度は経営理念やビジョンと整合した設計が前提であり、導入後は目的の共有と運用の見直しが成果に直結する。制度は導入して終わりではなく、現場との対話や継続的な改善を通じた運用に重きを置くことで、初めて組織に根づき、機能するものである。
成果を生む人事制度設計のポイント
『人事制度』の基本的な考え方
企業の成長を支える根幹は「人」であり、その人材を最大限に活かす人材マネジメントの仕組みの1つが「人事制度」である。人事制度とは、一般的に「等級制度」「評価制度」「賃金制度」の3つの制度の総称であり、これらが有機的に連動することで、組織の成果を最大化する。
しかし、制度を整えるだけでは不十分である。
人事制度は「制度2割、運用8割」と言われるほど、実際の運用が成果に直結する。制度設計の巧拙よりも、現場でどう活かされるかが問われる。
また、見直しのタイミングも重要である。中期ビジョンや中期経営計画の更新のタイミングや企業再生を図る際など、会社のライフイベントに併せて人事制度を見直すのが理想的である。
本コラムでは、経営者に向けて、成果を生む人事制度の全体像と、各制度設計のポイントを解説する。
人事制度を構成する各制度の設計における着眼点は何か
Ⅰ. 等級制度:制度の骨格をつくる
等級制度は、社員の役割や能力に応じて階層を定める仕組みであり、制度の骨格を形成する。主に以下の3種類が存在する。
1. 職能資格制度
社員の能力や経験に応じて等級を決める制度で、日本企業で広く採用されてきた方式である。
育成重視のカルチャーに合致するが、役割との連動が弱く、成果主義との相性はやや劣る。
2. 職務等級制度
職務の価値や責任に応じて等級を定める制度で、欧米企業で主流である。ジョブ型雇用との親和性が高い。明確な職務定義が必要であり、導入には職務分析の精度が問われる。
3. 役割等級制度
社員が担う「役割」に応じて等級を決める制度である。職能と職務の中間的な位置づけで、近年日本企業での導入が増えている。柔軟性が高く、変化の激しい環境に適応しやすいのが特徴である。
【等級制度設計のポイント】
企業のビジョンやあるべき姿に向けて必要な役職・階層・役割をベースに設計を行う。
あくまでも現行を踏襲して設計するのではなくあるべき姿からバックキャスティングで検討するのがポイントである。
Ⅱ. 評価制度:成果と成長を可視化する
評価制度は、社員の成果や行動を測定し、フィードバックする仕組みである。近年では、MBO(目標による管理)を中心とした目標管理型の評価が主流となっている。
要件との繋がりを意識して評価項目に落とし込んでいただきたい。
1. MBOの導入
MBOは、社員自身が目標を設定し、その達成度を評価する方式である。自律性を促し、組織の方向性と個人の目標を一致させる効果がある。
2. 評価者の目線合わせ
制度以上に重要なのが、評価者間での「評価の目線合わせ」である。評価基準が曖昧であれば、同じ成果でも評価がばらつき、社員の納得感を損なう。定期的な評価者研修や、評価会議の実施が不可欠である。
【評価設計のポイント】
評価項目は社員一人ひとりに求める役割と連動して設計する事が重要である。
求める役割を軸に社員にどのような行動・成果を評価の対象とするのか、どのような事に意識してもらいたいのかを評価項目に落とし込む事がポイントとなる。
Ⅲ. 賃金制度:資源配分の戦略
賃金制度は、社員への報酬を決定する仕組みであり、モチベーションと組織の持続性に直結する。評価制度と連動させることで、メリハリのある資源配分が可能となる。
1. メリハリのある報酬設計
成果に応じた報酬を明確にすることで、社員の動機づけが高まる。一方で、過度な成果主義はチームワークを損なう恐れもあるため、バランスが重要である。
2. 固定給と変動給の設計
基本給(固定給)と業績連動型の賞与(変動給)を組み合わせることで、安定性と成果へのインセンティブを両立できる。特に管理職層には、変動給比率を高めるなど思想や役割に応じた賃金設計を行う。
【賃金制度設計のポイント】
評価制度との整合性を保ちつつ、企業の財務状況や人件費予算とのバランスを取ることが求められる。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」などのデータを活用すれば、業界水準との比較が可能である。
運用の工夫で人事制度の実効性を加速させる
制度設計が整っていても、運用が不十分であれば成果にはつながらない。
以下のような運用の工夫が、制度の実効性を高める。
1. 制度の目的を社員に浸透させる
制度導入時には、説明会やガイドブックを通じて、制度の背景や目的を丁寧に伝える。
2. PDCAサイクルの徹底
制度は一度作って終わりではなく、定期的な見直しと改善が必要である。
3. 現場との対話を重視する
制度の設計ならびに運用において、経営層だけで取り組むのではなく、現場の声を拾い柔軟に対応する姿勢が信頼を生む。
まとめ
制度は「仕組み」、運用は「組織力」
人事制度は、企業の成長を支える「仕組み」であり、運用はその仕組みを活かす「組織力」である。制度設計においては理念との整合性を重視し、運用においては現場との連携や継続的な改善が成果を左右する。経営者には、制度を導入して終わりにせず、運用を通じて組織の力を引き出す取り組みを継続していくことが求められる。