人事コラム

コンサルタント一問一答人的資本経営・戦略人事

人材採用成功事例/金井ホールディングス

本コラムは、ダイヤモンド社発行の「戦略起点の人材マネジメント」の第4章の抜粋記事です。

会社プロフィール

会社名
金井ホールディングス㈱
売上高
493億6800万円(2024年3月期)
従業員数
1603人(2024年3月現在)
事業内容
繊維機器・不織布・金属ワイヤーの製造・販売、不動産事業
(1)採用変革の経緯

(1)採用変革の経緯

金井ホールディングス(大阪市北区、金井宏実社長)は、「金井重要工業」「トクセン工業」「有馬温泉 元湯 古泉閣」「ジャパンファインスチール」など4社を傘下に置く持ち株会社である。
1894年に繊維機械部品の製造所(金井トラベラー製造所)として創業して以来、130年の歴史を持つ。時代の変遷とともに事業領域を広げ、不織布事業では日本の先発メーカーとして、ナイロンタワシや自動車の天井材、ビル空調のフィルターなど多くの製品を製造・開発した。
金属ワイヤーは世界屈指の技術力を有しており、自動車・半導体・医療などの世界の大手メーカーと取引を行っている。特に、自動車のエンジン部品では世界ナンバーワンシェアを持っている。
同社は「採用活動をしない採用活動」というユニークなコンセプトを標榜し、人材採用で成果を上げて注目されている企業である。そこで同社の採用戦略と取り組み内容について紹介したい。
同社が採用戦略の変革に着手したのは、代表取締役副社長である金井宏輔氏の入社がきっかけである。それまでの同社の採用戦略は、大手就職情報サイトに募集要項を掲載し、母集団を形成して選考活動を行うという、いわば一般的な採用活動を展開していた。一定の成果は上げていたものの、同社が求める人材とのマッチング精度を上げるために大変革を行った。そして試行錯誤を繰り返し、結果的にたどり着いたのが、独自の選考フローの展開と求職者に熱く寄り添う、「採用活動をしない採用活動」をコンセプトにした採用戦略であった。

(2)採用戦略のポイント

①入社してほしい人材がいる所に自ら足を運ぶ

まず同社が実践したのが、それまで活用していた大手就職情報ナビサイトへの情報掲載をやめたことだった。当初は社内で懐疑的な意見も出たようだが、サイト内での他の大手企業との比較が避けられず、また〝関西の老舗製造業〟というイメージから脱しきれないというジレンマに陥っていたことから、掲載をやめる決断を下した。
一方で選択した手法が、求職者のもとへ直接足を運び、接点を持つというアプローチであった。新卒採用では、学校訪問を通じた関係づくりや、就職活動に役立つイベントの実施、個別対話など、自分たちの採用したい人材に対して自ら会いに行く手法を採用したところ、母集団の総数は減ったものの内定承諾率が向上し、効率的な採用活動を行えるようになった。
もちろん、新たな戦略に切り替えた初年度から存分に成果が出たわけではなく、毎年の積み重ねによって独自のノウハウが積み上がり、ブランディングができあがった結果として安定的に人材を確保できているのである。継続と工夫を加えていくことが非常に重要である。
同社は学生向けにエッジの利いたイベントや企画を多数展開しており、毎年見直しをかけて学びの多い内容にブラッシュアップをしている。例えば、学生ではなく採用担当者が就職活動を行う「人事が就活!」というイベントを開催している。これは企業の採用担当者4名に集まってもらい、学生30人を前にGD(グループディスカッション)や面接などを行い、企業側の視点に気づいてもらうためのものである。
同社の採用活動は、「われわれは学生に気づきを与える教育機関である」という考えを根底に置いている点が特徴である。学生は「これからの日本や社会を支え、発展させていく貴重な存在」だという認識を持って取り組んでいるのである。とりわけ接点が多い理系人材は、技術立国の日本をさらに飛躍させる鍵になるため、企業情報の説明や採用情報の提供にとどまらず、徹底して向き合い、就職活動を通じて成長を後押ししている。学生によっては10回以上も会い、食事を共にするなど、接点の持ち方や方法に画一性はない。
その結果、図らずも学生に向き合ってくれる会社というブランドができあがっていき、学生の認知度も向上していったのである。

 

②理念共感型の採用

同社には、「世の中のわが身につける『が』と『こそ』を人につければすべて円満」という社訓がある。いわゆる利他の精神に近い考えであり、社内への浸透はもちろんだが、これを学生へのメッセージとしても発信している。「採用活動をしない採用活動」を行う背景でもあり、この考え方に共感する学生を求めている。
今でこそパーパス経営や理念共感型採用という言葉は一般的になりつつあるが、同社は創業当時から設定されている社訓に基づいた活動を行うことで、自然とその形になっていったといえる。相互理解が進んだ段階においては、会社の未来を語り、ともに会社をつくっていくことに力を貸してほしいと投げかける。もちろん、徹底的に向き合うなかで他社に就職を決める学生もいるが、同社に共感して入社を決めた学生には、活躍人材へのサポートがスタートする。ここでのポイントは、人で魅力づけを行うのではなく、会社の考え方に共感・納得してもらうという点である。
採用担当者の人物像が入社動機になる学生は多いが、現場にその採用担当者がいるわけではないため、ミスマッチになる可能性がある。しかし、会社の考え方が入社動機になれば、どの部門に配属されてもミスマッチが起こるリスクは小さく、納得感が高い状態で仕事に取り組むことができる。

 

 

(3)採用戦略から学ぶべきこと

(3)採用戦略から学ぶべきこと

①上位方針・求める人物像から採用戦略を立案する

人材採用の戦略や計画を持たず、偶然接点を持った求職者へのアプローチに終始する企業は多い。自社が向かう方向性や事業戦略を踏まえ、どのような人材が必要なのか、どのような人材が自社に不足しているのかを明確にし、外部に求める人材(リソース)を設定する。そのうえで、該当する人材はどこにいるのかを検討し、どうアプローチするかを考える。このステップがないまま、手当たり次第に求人広告を出すことは避けるべきである。求人広告を否定したいわけではない。意図を持った選択であるかが重要なのだ。最終の理想形は、外部媒体に頼らず人材が勝手に集まってくる会社づくりである。

②採用の本質はマッチングであり、双方の理解が必要である

昨今の売り手市場では人材の流動性が高まっており、終身雇用の考え方は薄くなっている。採用市場においても口コミ型の情報サービスが台頭しており、良い情報も悪い情報も隠せない状況にある。したがって、会社本位の情報発信だけでは求職者の信頼度は上がりにくい。「会社と求職者」「雇用者と労働者」という上下関係ではなく、横の関係であり、相互理解の姿勢を経営者と採用担当者がいかに正しく認識できているかが非常に重要である。

 

③会社と個人の考え方の共通点づくりが入社後の活躍・定着につながる

採用活動を通じて、会社が大事にする価値観(経営理念・社訓・社是・ビジョンなど)と個人が大事にしたい価値観の共通点をつくり、自分が会社にいる意味を社員が自身の言葉で話せる状況を目指したい。この会社の、この仕事をしていることの意味づけ(ジョブクラフティング)は、採用活動でも意義深い。求職者と社員の対話を通じ、入社後の現場配属後のミスマッチ防止につながっていくからである。外へ向けた活動とともに、内部へのアプローチも同じような熱量で取り組むべきである。
世の中には、採用活動を実現するツール・サービスはあふれているが、その前段には採用戦略があり、明確かつ精度を高める努力が必要である。売り手市場であり、雇用の在り方も変化をしているなかで、金井ホールディングスの取り組みは多くの示唆を与えてくれる。

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この課題を解決したコンサルタント

立入 俊介

タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部
ゼネラルマネジャー

立入 俊介

総合人材サービス会社にて、大手~中堅・中小企業の新卒採用・人材育成支援に従事し、プレイングマネジャーとして組織マネジメントを担い、社内外両面の組織改革の経験後、当社へ入社。採用領域での知見を活かし、「社員が生き生きと働き、周囲に薦めたくなる組織づくり」の信条のもと、顧客の理念・ビジョン・企業風土・採用競争力・制度設計・グループ人事まで、多面的要素から戦略的な人事コンサルティングを行っている。

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