人事コラム
アカデミーを活用した人材育成
本コラムは、ダイヤモンド社発行の「戦略起点の人材マネジメント」の第5章の抜粋記事です。
③アカデミーを活用した人材育成
(1)アカデミーのカリキュラム区分
アカデミーは自社オリジナルのシステムであるため、コンセプトやカリキュラム内容など、その在り方は各社各様である。ただ、大きく分類すると3つのパターンに集約できる【図表5‒9】。筆者がこれまでに携わってきたアカデミー構築において、最も多いタイプは新人の知識インプットや技能伝承を目的とした「プロフェッショナルアカデミー」である。
プロフェッショナルアカデミーにおいては、業界知識や業務遂行スキルだけでなく、創業の精神など会社の価値判断基準に基づいた技能伝承を推進する仕組みも構築した。その他、管理職者のマネジメント力向上や経営理念の浸透を目的とした「リーダーシップアカデミー」の構築も多々事例がある。人材育成課題やアカデミーで実現したいことが複数ある企業においては、まずどこから着手するかを決定してから構築を進めていくことが望ましい。
(2)アカデミーの構築フロー
アカデミーの構築は、大きく5つのステップに分かれる【図表5‒10】。ここでは、新入社員をゼロから育成することを目的とした「スタートアップアカデミー」の事例に基づき、アカデミー構築から運用に至るまでの流れを見ていきたい。
①アカデミーコンセプトの定義
まず、アカデミーのコンセプトを定義することである。人材育成方針を具体的にかみ砕き、どういった育成システムにするのか、学部・学科構成はどうするのか(誰が学部長・学科長としてアカデミーの運用を管理するのか)、そして新人の入社1年後(または3年・5年後)の到達イメージ(何をどこまでできるようになってもらいたいか)を決定していく。
②カリキュラムの編成
各学部(部門や階層で学部・学科構成を定めることが多い)の実態を踏まえながら、次の要素について習得すべき内容を棚卸しし、カリキュラムを編成する。
・社会人としての心構え・ビジネスマナー(新入社員のみ)
・社内や業界で働くうえでのルール
・業務遂行に必要な専門知識・技術
入社直後のオリエンテーションで実施するような学び(会社の歴史、組織図やカルチャー、メンバーの役割など)をアカデミーの動画コンテンツとして蓄積しておくと、中途採用者の育成もスムーズに行えるようになる。
③学ぶ手法(学び方)の決定
カリキュラムの内容や目的・重要度に応じて、個別研修と集合研修を組み合わせる。
・個別研修......書籍・テキストやオンデマンド動画
・集合研修......リアルの対面研修またはオンライン研修
より熱意を伝えたいカリキュラムは対面で実施し、マニュアルのように繰り返し確認してもらいたいものはオンデマンド動画で実施するなど、どのような学習方法で知識を身に付けてもらいたいかをイメージしながら決定していくことが必要である。
④講師の選定
カリキュラムの内容に合わせて、講師としてふさわしい社員を選定する。集合研修は講義当日までの準備を依頼し、個別研修のオンデマンド動画を撮影する場合にはレジュメの作成や録画を依頼する。講師を依頼する際には、なぜ講師として選出したのか、その理由を明確に伝えることで、講師本人のモチベートを促すことが重要である。また、講師を経験することが本人の成長機会にもなると捉えて、あえて若手を選定することも教育手法の1つである(リスキリングを目的としたカリキュラムなど、自社のリソースで教育できないテーマについては外部講師に依頼することもある)。
⑤実施後のフォロー
スキルマップやチェックリスト、人事評価などを用いて、現場で習得度を確認する。スキルマップなどがない場合には、カリキュラムの棚卸し時に並行して作成することを推奨している。研修を実施しても効果が得られない要因として最も多いのは、研修に派遣された社員が研修で何を学んだのか、そのことを現場の管理職が理解していないことである。そのため、研修実施後に現場でどのようなフォローを行ってほしいのかを事前に明確化するとともに、研修の設計段階から現場を巻き込んでいく必要がある。現場の要望をヒアリングし、現場の求めている新入社員を育成することが、スタートアップアカデミーの設計において重要なポイントである。
(3)アカデミーのカリキュラム例
新入社員を育成する「スタートアップアカデミー」を例に、アカデミー構築のステップを紹介した。一方で、企業のリーダー人材を育成する「リーダーシップアカデミー」の場合はカリキュラムが変わる。【図表5‒11】は、従業員数約2,700人超のB社(食材卸売業)が実施しているリーダーシップアカデミーのカリキュラム例である。
B社は、グループ子会社における次世代経営者の発掘・育成を目的にカリキュラムを設計しているのが特徴である。市場ニーズと働き方の多様化や、複雑化する経営環境のなかで、戦略を推進できる経営人材を戦略的に育成する必要があるとの認識に基づき、ある一定の基準を満たした次世代経営者候補者(20名)を選抜し、4年に1度のペースで実施している。
(4)自発的な育成風土を醸成する
企業の人材育成においては、受け身ではなく「受講者本人が学ぶ目的を理解して主体的に学ぶための仕組み」が不可欠である。アカデミーの運用によって、自発的に成長する風土が社内で醸成されるために、アカデミー受講後のキャリアビジョンを受講者本人が描ける環境を整備することも重要となる。
仕組みとしては、次のような例が挙げられる。
①アカデミーの修了を昇格要件とする
特に、管理職へ昇格するタイミングなどで実施すると、学んだマネジメントスキルを実務で即アウトプットできるので効果的である。また、人事処遇にもひもづくため、受講者のモチベーション向上につながる。
②職種や部署の異動希望を出す際の条件とする
「○○のカリキュラムを受講すると、○○部への異動申請を提出できる」といった仕組みを設けることにより、社員自身が興味のあることや挑戦してみたいことを主体的に発信できる環境を構築できる。これにより、自律的な人材の育成や組織の活性化が期待できる。
(5)教え学び合う風土を醸成する
社員が自らの成長に自発的に取り組む風土が醸成されると、次に目指すのは「教え学び合う風土の醸成」である。教え学び合うとは、年齢・経験にかかわらず、あらゆる社員同士が互いにアドバイスをし、学び合えるという風土を構築することである。ベテラン技術者は現場に蓄積された貴重なノウハウや自身のスキルを伝承し、若手社員は社内に導入された新しいシステムの説明を担当するなど、互いが活躍できる場で人材育成に関与できるのがアカデミーの大きな特徴である。
講師役を務めない社員も含めた全社メンバーが、研修教材の制作に参画したり学びたいテーマを意見したりすることで、人事担当者、講師、現場のOJT担当者、上司を巻き込みながら人材育成と向き合っていく。このように全員参画型でアカデミーを展開することによって、教え学び合うなかで自ら成長する組織風土が育まれ、人材基盤の強化とエンゲージメントの向上につながっていくのである。
