人事コラム

コンサルタント一問一答人的資本経営・戦略人事

人材戦略の領域

本コラムは、ダイヤモンド社発行の「戦略起点の人材マネジメント」の第3章の抜粋記事です。

(1) 経営戦略と人材戦略の連動

人的資本経営の鍵となるのは、「経営戦略と人材戦略の連動」である。いくら人材に投資しようとも、両者が連動していなければ中長期的な企業価値は向上し得ない。人材戦略とは、「企業の成長戦略に必要なリソースとしての組織や人材をどう供給するのか」についての戦略である。
まず、企業経営において「なぜ、人材戦略を構築する必要があるのか」について確認をする。従来の人材マネジメントにおいても経営戦略との連動性は重要だといわれてきたが、その実態は経営戦略と「なんとなく」関連づけていただけではないだろうか。しかし、人的資本経営は投資戦略でもあり、人材が持つ価値の最大化を通じて、業績向上・企業価値の向上を実現するためには、戦略的な投資に加えて、投資に対するリターンをモニタリングしていくことが必要といえる。投資戦略である人材戦略がなければ、これまでと同じ「なんとなく」の人材マネジメントとなり、人材価値の向上は実現しない。
そして、経営戦略と人材戦略を連動させるポイントは、企業経営の根幹である経営理念・パーパスを起点に、経営・組織・人材戦略から人材マネジメントシステムまで一貫性を持たせる必要がある【図表3‒1】。

人的資本経営の全体像と人材マネジメントシステム

 

このように人材マネジメントを体系的に整理することで、上流(経営理念・パーパス)から下流(各人材マネジメント施策)までの縦の一貫性と、各人材マネジメント施策間の横の一貫性を持たせることにもつながる。この一貫性が担保されることが、企業の人材力強化、競争力強化につながる人材マネジメントの要諦である。
戦略と手法がかみ合っていない、ちぐはぐな人材マネジメントは、企業の戦略推進におけるリスク要因となる。例えばA社では、自社の成長戦略として「DX戦略」を掲げ、推進役を担うデジタル人材の採用を強化した。だが、社内のDXリテラシーを高める教育は未実施で、プロフェッショナル人材に見合う報酬制度も未整備であった。
その結果、デジタル人材の中途採用では報酬面で折り合わず、思うように人材確保が進まなかった。また、社内教育がなかったために内製化も進まず、DX戦略は絵に描いた餅になってしまったということである。 人材マネジメントのあるべき姿は、戦略と見合った人事制度を整備したうえで、自社の専門性を高める教育も行いつつ、採用による外部調達と育成による内部調達で自社の戦略を実現する人材の創出を図っていくことである。 A社のようにちぐはぐな人材マネジメントでは、戦略推進上で必要な人材というリソースを、適正に供給することができない。本来の機能を果たすためにも、人材マネジメントは体系的に整理することが必須となる。

 

(2) 人材戦略構築のポイント

①人材ビジョンの策定

人材戦略は、「人材ビジョン(求める人材像)」を起点として検討していく。企業における求める人材像とは、一般的に「自社の経営理念・パーパスに共感し、成長戦略を実現できる人材像」である。
現在、企業は経営環境の変化に対応するため、新規事業の立ち上げや大幅な業態転換など、経営戦略の変革を迫られている。このような戦略の変化は、必然的にそれを実現できる人材が必要となる。
例えば、成長市場をグローバルに求めるなら「グローバルリーダー」が、既存事業とは異なる分野への進出を考えるならその分野の「スペシャリスト」が必要とされる。こうした変革を支える人材を求める傾向は、実際に企業が公表している人材ビジョン(求める人材像)からも読み取ることができる【図表3‒2】

人材ビジョン(求める人材像)の企業事例

 

②人材ポートフォリオの設計

これまでとは違った人材を確保・育成するためには、新たなキャリアコースの整備とそれに対する最適な投資が必要となる。そこで重要なのが「人材ポートフォリオ」の設計である。人材ポートフォリオとは、経営戦略を実現するための人的資本の配分、いわば人材投資の方向性を決めるフレームワークである【図表3‒3】。

人材ポートフォリオの例

 

経営戦略と人材戦略の連動が重要であることから、人材ポートフォリオも経営戦略(具体的には組織戦略)との連動を踏まえて設計するのが原則である。人材ポートフォリオを活用することで、現状ではどのような人材がどの程度不足しているのか、または過剰なのかといった課題を把握することができ、求める人材の育成・調達方針を定めることができる。また、企業の成長戦略から見て必要な人材像が明確になることで、社員に対してキャリアコースの指針を示せることにもなる。
従来の日本における中堅・中小企業の人材ポートフォリオは、【図表3‒3】の左側の「ファンクションマネジャー」と「エキスパート」の領域に集中して組まれており、その主たる役割は定型業務の遂行であった。しかし、これからは右側の「戦略リーダー」と「プロフェッショナル」の領域の設計が重要だ。革新性や創造性を必要とする経営戦略を推進するための人材層を厚くしていく必要がある。

 

③要員計画の策定

経営戦略を実現するためには、必要な人材を質・量ともにタイムリーに調達することと、個々の社員のパフォーマンス・能力を最大限に向上させることが必要である。どれだけ素晴らしい戦略を構築しても、最適な人材が備わっていなければ実現することはできない。
人材ポートフォリオを通して人材投資の方向性を決めたら、次は、具体的に「いつ、どういった人材が、何人必要なのか」を計画する。これが要員計画である。ここでは、経営戦略に基づいて中長期的に必要な人材の質と量を検討することが必要である。ポイントは、将来のあるべき姿から逆算して考えることと、量だけでなく「質」の面を踏まえた計画を策定することだ。つまり、経営戦略を達成するために必要な人材の質・量を具体化して、それを実現する計画を立てることである。
しかしながら、組織戦略で定めた組織体制や組織ミッションだけでは、人材の質や量まで具体的にイメージしにくい。これを基にして、要員計画ではより精度の高い人材像を描く必要がある。そこで、ジョブ(職務)レベルまで具体化することがポイントとなる。これが、「職務記述書(ジョブディスクリプション)」である。
ジョブディスクリプションに基づいた要員計画を策定すると、「総合職が何名、一般職は何名が必要」といった漠然とした計画ではなく、「○○のできるマーケティング人材が何名、△△経験のあるDX人材は何名が必要」といった具体的な計画になってくる。これにより、戦略と連動した人材の採用・育成につなげることが可能になる【図表3‒4】。
ここで注意が必要なのは、「プロフェッショナル人材」の定義の具体化である。プロフェッショナル人材を求める企業は増加傾向にあるが、どのようなプロフェッショナル人材を増やしていきたいかを具体的に定められていない企業がほとんどである。
【図表3‒4】のように、できるだけ具体化することでその後の人材マネジメントの展開も具体化できる。

量と質による要員計画策定のイメージ

 

④人事KPIの策定

人材マネジメント施策の推進力アップと効果検証を行ううえでは、人事KPIを定めることが有効である。人事KPIは「いつまでに、どのような人材を、どれくらい獲得・育成していくのか」といった具体的な指標や、戦略・経営課題解決の推進力を高める指標を定量的に示したものである。この人事KPIをモニタリング、マネジメントして、投資対効果を検証しながら人材力を高めていくことがポイントだ。
人事KPIは、経営戦略を推進するために自社独自の指標(戦略推進KPI)を設定する。一方で、他社と比較が可能な指標(市場競争KPI)も設定する。自社独自の指標は戦略を推進させる半面、他社と比べた場合の自社の人的資本競争力を把握しづらいからだ。自社への入社を検討する採用候補者などのステークホルダーに対して自社の人的資本の実情をPRするためにも、国際標準化機構が2018年に公表した「ISO30414」や、政府が2022年8月に発表した「人的資本可視化指針」の7分野19項目を参考にして設定することが必要である。
【図表3‒5】に中堅企業の代表的な人事KPI指標の例を示すので、ぜひ参考にしていただきたい。

代表的な人事KPI項目の例

 

⑤施策の策定

人材フローマネジメントは、「採用→育成→評価→報酬→活躍→定着」という一連の流れで捉え、一貫性を取りながら各施策へと展開していく。【図表3‒6】に各フロー別のポイントを記載するが、詳細については第4章以降で事例を含めて解説していく。

人材フローマネジメントとポイント

 

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この課題を解決したコンサルタント

岡原 安博

タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部
エグゼクティブパートナー

岡原 安博

外資系ラグジュアリーブランドで店舗マネジメントに従事後、人事コンサルティング会社にて組織・人事領域のコンサルティング、教育、組織開発等の経験を経て、当社へ入社。人事領域全般のコンサルティングを中心に、上場・中堅企業の人事制度・教育体系の構築において数多くの実績を持つタナベトップコンサルタントの一人。

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タナベコンサルティンググループとは

タナベコンサルティンググループは「日本には企業を救う仕事が必要だ」という志を掲げた1957年の創業以来
68年間で大企業から中堅企業まで約200業種、18,900社以上に経営コンサルティングを実施してまいりました。
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