なぜ、「ホールディングス化する企業」が増えているか
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本コラムは『THE GOLD ONLINE』の寄稿原稿です。
ホールディング経営とは?
ホールディング経営とは、持株会社を中心に複数の事業会社でポートフォリオを形成し、グループで成長する経営体制のことを言う。ここ数年、筆者らのクライアントの中でもホールディングス化に踏み切る企業が増加しており、その規模感も上場企業からオーナー系の中堅企業、中小企業へと広がっている。これからの時代において、成長するための経営体制のスタンダードとして定着しつつある、と実感せざるを得ない。
ホールディング経営に移行する目的は様々である。グループとして持続的に成長していきたいというのは大前提となるが、その中で多くの経営者を育てたい、複雑化するグループの資本系列を整理したい、あるいは今後M&A戦略を展開するための受け皿にしたい、資本である自社株を円滑に承継したい、などが挙げられる。
本稿では、その中でも成長戦略としての目的感、そして、その成長を支えるグループ経営の組織づくりという着眼でホールディング経営を考えていきたい。
これからの時代、「1社1事業」ではあまりにも厳しい
まずは、成長戦略としてのホールディングスについて説明する。企業は長期的に存続することを目的としているが、そのためには常に変化し、成長し続けなければならない。このことは経営者の方であれば、実感として持っているであろう。現状維持のスタンスを取っても、世の中は激しく変化しているので、取り残されてしまうのである。
ただ、「成長する」と言っても経営環境は逆風だ。特に国内マーケットを主戦場とする多くの企業は、人口減少に伴ってマーケットが縮小していく中で、これまでの延長線上では成長戦略を描き切れない。言い換えれば、1社で1つの事業を守って生き残っていくには、あまりにも厳しい時代になっていくということである。
これからの時代には、1社1事業ではなく、複数の事業を組み合わせることで新たな事業価値を生み出したり、新たなバリューチェーンを構築したりなどの発想が有効であろう。複数の事業が横で繋がり、その幅を広げていくと、そこには「遠心力」が効き始める。これからの時代の成長の原動力は、まさにこの遠心力である。遠心力を強く効かせ、事業の幅を広げていく、または輪を広げていくことでスケールアップしていくイメージである。
【事例】「赤字体質&債務超過の建設会社」を継いだ2代目社長の成長戦略
ある建設会社の事例を紹介したい。この会社は年商数億円の地盤改良工事の会社であり、2代目の後継者が継承した当時は赤字体質で債務超過の会社であった。
この後継者はまずその会社を単独で立て直す。その後、再建に成功して利益が出てくると、今度は拡大戦略に打って出る。ホールディングスを作って、まずは同業の建設業者をM&Aでグループインした。地盤改良工事を軸に工種の幅を広げようとする意図であったが、そこで建設業の構造的な課題とも言える「人手不足」に直面する。ここに抜本的な手を打たなければ、建設業として幅を広げても、それだけリスクを抱えることになる。そこでこの社長は、人材斡旋会社のM&Aに踏み切る。この会社は建設業の職人派遣に強く、国内はもとより海外からの調達にも力を入れていた。こうやってまず人材の調達チャネルをグループ内に確保したのである。
次に打った手は、職業訓練校の設立だった。グループ内に自力で立ち上げ、県の認可も受けた。当時、自前で職業訓練校を立ち上げた会社はその県で初めてだったという。これで採用した人材を職人として育成してグループ内で活躍させる流れができ、今では数百人規模のグループになっている。
さらに、グループ内の余剰人員は、元請のゼネコンなどアライアンス先に派遣する仕組みを構築。人材の調達から育成、活躍、外部派遣の流れができ、人材のバリューチェーンというビジネスモデルになっている。建設業界の構造的な課題である「人材不足」を逆に強みとして展開する、まさに複数の事業が繋がることで新たな価値が生まれた好事例であると言える。
一つひとつの事業は成熟事業、あるいはレガシー事業と呼ばれるものであっても、他の事業と組み合わせることで、まったく新たな価値を生み出すことがある。そして、その価値は1事業の価値よりも次元の高いものに進化していく。前述の建設業グループの事例で言えば、地盤改良工事という一つの事業価値の次元から、業界全体の構造的課題の解決に資するという次元に進化している。こういった動きは建設業以外でも起こり始めている。
例えば製造業が連合してホールディングスを作り、技術と技術を掛け合わせることでイノベーションを起こし、ひいては日本の技術力を再び進化させようというグループがある。農業の分野でも、6次産業化によって生産から加工、販売までを一貫してグループ経営で展開する企業がある。これによって日本の食糧自給率を高めるという社会課題の解決にも繋がるのだ。
SDGsやESG経営が重視されるように、今の企業は顧客ニーズに対応して収益を高めることに加えて、社会課題を解決することが求められている。企業がグループとして進化・成長するということは、より多くの社会課題と向き合うことを意味する。逆に言えば、そのように高い視座で、かつグループとしての広い視野で経営していくことが成長戦略の新たなセオリーになっているのである。
ホールディングス化で「前時代的なトップダウン型組織」を脱却
続いては、そういった成長戦略を実現するためのグループ組織の在り方について説明する。グループ組織が成長するための考え方は、どうやって「遠心力」を効かせるのか? ということである。遠心力の効いたグループ組織のイメージは、事業会社がその経営者を中心として自律的に生き生きと経営している姿である。
ホールディング経営モデルを絵に描くと、持株会社であるホールディングカンパニーが上で、その下に複数の事業会社が並ぶ構図になりがちである。ただ、そういうトップダウン型の組織はもう古いと言わざるを得ない。むしろホールディングカンパニーが土台としてグループ全体を支え、その上で事業会社が主役として活躍する姿の方が望ましい。こういったホールディングスのことを「プラットフォーム型ホールディングス」と呼んでいる。プラットフォームは直訳すると土台のことである。グループを土台で支え、事業会社の経営に必要なヒト・モノ・カネという経営資源を必要に応じて供給する、そのようなプラットフォームに徹するのが望ましい姿である。
業歴の長い成熟企業はピラミッド型のヒエラルキー組織であることが多い。そして、長い年月をかけて形成されたその秩序は一朝一夕に壊すことができない。一方で、最近創業して成長しているスタートアップやベンチャー企業に共通して見られるのは、現場の社員が主役として生き生きと活躍している姿である。トップと現場の距離感が近く、エンゲージメントの高いカルチャーが形成されている。トップは社員を信じて任せ、社員もまたその期待に応えるべく自律的に行動する。そういったエンパワーメントが高い組織、言い換えれば遠心力の効いた組織が成長しやすいと言える。
ただ、そういった経営を実践しているトップに話を聞くと、実は「最初はトップダウンから始めた」というケースが多い。トップダウン経営だと、トップが指示をすれば組織が動くが、指示をしなくなった途端に組織が止まってしまう。「トップダウンを止めて、社員を信じて任せた瞬間から業績が飛躍的に向上した」。そういった体験をしたことがある経営者は非常に多いのである。
では、ピラミッド組織を壊せない企業はどうやって遠心力経営を取り入れていけば良いのだろうか? そのヒントがホールディング経営にある。
【事例】ホールディングス化でピラミッド組織とティール組織を両立
あるメーカーがホールディングス化してグループ経営にシフトしたケースがある。そのトップが構想するグループ組織のコンセプトは、「ピラミッド組織とティール組織の両立」である。
メーカーである以上、品質を維持して大量生産をするためには組織を一定のルールで統制することが必要だ。ただ、そういった組織カルチャーでは新しい製品や事業を生み出す発想力は芽生えない。故に、そのメーカーの上に新しく作るホールディングカンパニーには開発部門や新規事業部門を配置することで、新たな成長の種を育てていく。そして、その組織はピラミッド的ではなく、階層をなくしたフラットなカルチャーを形成していきたいとそのメーカーのトップは考えている。
新しい会社をつくると、良くも悪くも新しいカルチャーが形成されていく。前述の例はその特性を前向きに捉えているケースと言える。ホールディング経営は建て増し型の組織という言い方もできるが、そうやって新しいカルチャーを形成することで、グループ全体のカルチャーを徐々に変えていくのも一つのやり方である。
厳しい環境下でも「持続的に成長していける企業」へ
「遠心力」が成長のキーワードであると述べたが、対比する言葉は「求心力」である。ただ、遠心力と求心力はトレードオフとしての概念ではなくて、強い遠心力を効かせるためには、それだけ強い求心力が必要という関係性にある。そして、その強い求心力の象徴が、最近のキーワードにもなっている「パーパス経営」だ。ミッション・ビジョン・バリューやパーパスを社会性の視座で示して、社員の心を引きつける。これはトップの役割である。このパーパスはエンゲージメントの源になる。そうやってモチベートされた社員が、エンパワーメントの効いた組織の中で生き生きと活躍する。そして、これをグループレベルで経営するモデルがホールディング経営であると言える。
ホールディング経営の目指すところは、企業がグループとして遠心力を効かせて成長することだ。そしてその主役は現場で活躍するリーダーである。そういうグループ経営を実践できる企業が、逆風の経営環境でも柔軟に、かつ持続的に成長していけるのだと思う。
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