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2024.08.01

IPOを検討するためのポイントを解説

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IPOを検討するためのポイントを解説

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IPOを検討するためのポイントを解説

IPOとは、「Initial Public Offering」の略であり、株式等を新規公開(上場)することを指しています。一般的な目的としては事業拡大などに必要となる資金調達が挙げられますが、企業の知名度や信用力を高めて顧客や取引先との関係強化にも繋がる他、近年では積極的なM&Aや事業承継(親族外)を行う場合にも有効な選択肢と見られるケースもあります。今回はそのIPOを検討していく際のポイントについて説明をしていきます。

IPOのメリットとデメリット

日本取引所グループによると2024年5月31日時点では3,935社が上場しており、札幌、名古屋、福岡の証券取引所を含めると日本には約4,400社の上場企業が存在しています。また2023年の1年間では新たに96社の企業がIPOを行っています。これは日本における株式会社(約260万社)のうち0.17%にあたります。

まずはそのメリットについて触れていきます。
1点目は企業成長の手段となる事です。資金調達手段が多様化することで、その調達能力が拡大し戦略の幅を広げることができます。
2点目は従業員の社会的信用やモチベーションの向上です。上場企業で働いていることで対外的な信用度が上がり、また企業成長の加速や知名度向上を従業員が実感することで、給料が上がるのではないかという期待感を持つことができ、仕事に対するモチベーション向上が見込まれます。
3点目は事業承継対策になり得ることです。未上場の場合だと承継の際には所有と経営の両方を承継しますが、親族承継ではその際に資金面の手当が必要となることや、場合によっては相続税等の納付のために別途資金調達が必要になるケースもあります。上場株式となることで株式市場を通じて株式の売買が可能となるため、株式の換金性が高まります。また非親族承継の場合では、上場会社であれば所有と経営が分離しているため、必ずしも株式譲渡をする必要もありません。

次にIPOのデメリットの1点目は時間とコストがかかることです。IPOにかかる期間は少なく見積もっても3年は必要となります。コストに関しても監査法人・証券会社への費用や、管理部門の構築・強化にかかる採用費や人件費が必要になってきます。更に上場後も維持管理のコストも忘れてはいけません。管理部門に加えて、定時株主総会の実施、監査法人へのコストなどもかかってきます。
2点目はIPO後ですが、業績の向上が常に求められることです。IPO前は短期的な利益は減少しても中長期的に成果が上がるような施策も取り組みやすいですが、IPOをするとそういった施策も株主の理解を得られづらくなってしまう傾向にあります。
3点目は社会・株主への説明責任です。近年ではコンプライアンス遵守がより求められることや、株主が不特定多数になるために企業情報の開示や株主総会の運営を適切に行うことも欠かせません。これらのことからIPOを行わないと判断する企業もあります。

IPOを検討していく際のポイント

では、IPOを行うか否かを検討していくためにはどのようなことを考えなければならないのでしょうか。これは一言でまとめると「IPOを行う目的が何か」を明確にすることです。IPOのメリット・デメリットを前述しましたが、そのメリットは必ずしもIPOをしなければ享受できないものではなく、またIPOをしなければデメリットはそもそも生まれません。
例えばメリットの1点目に挙げた資金調達については、借入という手段で構わないということであれば、多様化している調達方法を利用することも考えられます。その方法も、シンジケートローン、劣後ローン、ストラクチャードファイナンス(※)、と様々な方法が存在します。また、未上場企業でもLBO(レバレッジド・バイ・アウト)(※)を活用した企業買収や、クラウドファンディングで一般投資家から小口の資金を募る方法もあります。
2点目に挙げた従業員のメリットに関しても、調達した資金で企業の成長を実現することで、モチベーション向上に繋げらることができます。
3点目の事業承継対策という観点ではIPOではなくホールディング経営への移行という手段も考えられます。

(1)シンジケートローン・・・借入人に対して、複数の貸付人が同一の契約で実施する融資のこと
(2)劣後ローン・・・他の特定の債権又は一般の債権より支払い順位が劣るローンのこと
(3)ストラクチャードファイナンス・・・債権流動化や不動産の流動化など、会社が所有している資産を証券化して行う資金調達方法
(4)LBO(レバレッジド・バイ・アウト)・・・買収対象となる会社(売り手企業)の信用力を担保に融資を受け、買収資金を調達するM&A手法

IPOを検討するその前に

ここまで、IPOの目的やポイントについてお伝えしましたが、検討前の段階で押さえておくべき点について後述いたします。
その1つ目は時価総額の検証です。これはその企業の将来性を考慮した「値付け」とも言える金額であり、その額次第では是とならないケースもあります。IPOした後に思うように企業価値が上がらず、経営難に陥るケースもあります。
2つ目はガバナンス体制です。IPO準備段階では上場に向けて整備すべきガバナンスや内部統制が多くありますが、その中には規程類の整備やその運用実績が含まれています。ただし実態は規程そのものが無かったり、社内の監査機能が働いておらず規程通りの運用ができていないといったケースも散見されます。IPOを目指し、ショートレビュー(監査法人等が上場を検討する企業に対し、その課題を確認するために実施する調査)を受けて諦めたという話もあります。
3つ目はどの株式市場を選択するのかです。日本には東京、札幌、名古屋、福岡の4つの証券会社があり、中には複数の市場区分を設けているところもあります。市場ごとに特徴や基準が異なるため、どの市場でIPOを目指すのかによって何をするべきかも変わってきます。

このようにIPOを行う際には検討をしなければならないことや、検討前に調査をしなければならない事は多岐にわたります。しかしながらその一方で、論理だけで経営判断ができないのもIPOです。現経営者が創業者や親族承継で成長を遂げてきた企業にとって頭では理解はしているものの、心(想い)では納得できないというケースもあります。親族承継をしてきた企業が非親族承継を行うタイミングでホールディング経営へ移行したケースも、数年先の非親族承継を見据えてIPOを選択したケースも、その時の経営者はまさしく「決断」をしており、どちらの選択肢を選ぶにしても簡単には割り切れない思いと葛藤しているケースがほとんどです。
IPOを検討していく際には、メリットを享受する他の方法がないか、デメリットは包括できるものなのかを考えながらも最後は経営者としての"決断"をしていくことが必要となるでしょう。

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