事業承継に備えるガバナンス整備の必要性
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事業承継は単なる資本承継のみならず、祖業の想いや事業そのもの、会社経営を実現する組織・人材全てを承継する事が真の事業承継であります。代表者が交代する都度、企業の経営状態が傾いていては、本末転倒です。誰に承継しても企業価値が毀損することなく、成長を実現させるためには組織体制を整備する事は不可欠です。本コラムでは、承継に備えるガバナンス整備の必要性やポイントをお伝えします。
事業承継マーケットと後継経営体制
昨今事業承継を取り巻く環境は大きく変化しています。従来は「オーナー家の中で承継をするいわゆる親族内承継」が大半だったが、「社内のプロパー人材へ承継するという親族外承継」が親族内承継の割合を超える結果となっております。2023年11月に報告された株式会社帝国データバンクの全国「後継者不在率」動向調査(2023 年)のレポートでは、内部昇格(親族内承継)が35.5%、同族承継(親族内承継)が33.1%と、これは大きな変革な時を迎えた結果です【図1】。
また、中小企業庁が発行している中小企業白書には、後継者が事業承継の意思を伝えられてから経営者に就任するまでの期間が報告されています。その中で、親族内承継では約4割が3年未満、親族外承継では約7割が3年未満と短期間での就任となっており、後継者が社長として企業を成長させていく体制を運営するにはあまりにも短い期間での取組である事が伺えます。事業承継は経営者の最後にして最大の仕事であると言われており、この大仕事を成功するか失敗するかで企業経営は成長するか、衰退するかの大きな局面を迎える訳です。
後継者へ承継させた後に企業価値を毀損することなく、成長に向けた経営体制を推進していく為には、これまでのやり方を踏まえ、後継者を中心としたガバナンス体制を整備する事は不可欠であります。
【図1】出所:「株式会社帝国データバンク 2023年11月21日発行 特別企画:全国「後継者不在率」動向調査(2023 年)」
【図2】出所:中小企業庁発行「2021年版中小企業白書」
承継を見据えたガバナンス体制構築の着眼
~後継体制を支える意思決定構造~
事業承継実施後のよくある課題として「トップダウン経営の弊害」があります。これは、前任の社長が事業・経営両軸において、多大なる手腕を発揮し、良くも悪くも社長の意思決定で企業が成長してきた事例を指します。この優秀な社長から会社を引き継いだ後継者は、就任当初から手腕を発揮し、成長を実現する意思決定が成せるかと言われると、とても難解なテーマです。こういったトップダウン経営の弊害として、経営者視点を持った人材輩出の遅れや意思決定の不透明性などのデメリットも出てきます。
センスや経験に左右される部分が大きいため、後継者が経営の重要な意思決定局面になった際には、決断が難しく(あるいは出来ず)、意思決定スピードが落ちる事が懸念されます。
前社長が何を持って、何を基準に意思決定したのかを次代に引き継ぐことも、事業承継においては重要なファクターです。ルールや仕組みをつくり、各部署・役職の権限と責任を明確にし、ルールに沿って経営をしていく、後継経営体制下での組織経営を実践する必要があります。その為には権限と責任の再定義と決裁権限規程の整備や)権限委譲を前提とした意思決定機関の整備と意思決定プロセスの明確化を行う事で、後継社長の意思決定に依存しない、健全な企業経営のための企業自身が行う管理体制を構築する事が可能となります。
承継後のガバナンスコンセプト
~組織経営が機能するルール・基準づくりと自律体制の構築~
企業価値を高める組織経営の実践、承継後の経営体制を鑑みた上ではこのような経営スタイルが求められます。
組織経営を支えるガバナンス体制設計を行う上では、下記2点がポイントとなります。
①組織経営を前提にした決裁権限のコンセプトを設定する
➁決裁権限のあり方を踏まえて、計画方針・ヒト・モノ・カネの切り口から、決裁事項の影響範囲を考慮して設計する。
経営組織論の中で、アメリカの経済学者ハーバート・サイモンが提唱した"意思決定理論"と呼ばれる理論があります。これは経営組織を「意思決定を行う」ための組織と定義する理論であり、組織の最低層に属する従業員においても、また組織の最上層に属する経営陣においても、何らかの意思決定を持続的に行っているという命題を前提としています。
経営組織は意思決定が行われる各ポイントやフェーズに合わせて最適化されるべきです。また、それぞれのフェーズにおいては、意思決定を行うために必要な情報が効率的に集まるようにデザインされるべきです。現後継経営体制を支える事はもちろん、次・その次の後継体制を支える組織コンセプトに合致した考え方です。
従業員はもちろん、各レイヤーの役職者はそれぞれの所管の中で、意思決定を行い、社長含めた役員層は全社目線での意思決定を行う事が求められます。この考え方に則り、時間軸や成長へのインパクト、金額規模、経営リソースでの軸で整理し、自社の迅速な意思決定を実現するガバナンス体系を設計しておくことが重要であります【図3・4】
【図3】タナベコンサルティングにて作成
【図4】タナベコンサルティングにて作成
権限移譲と持続的な後継者育成体系
組織の最低層に属する従業員においても、また組織の最上層に属する経営陣においても、何らかの意思決定を行う為には必要な材料が的確に集約される体制を整備する必要があります。皆さんも自身で何らかの判断をする際には根拠や何かと比較して良し悪しを判断しますよね。
組織経営下での意思決定を実践する推進システムを整備していく為には、組織経営を目指した会議体設計と会議運用ルール・フローの設計が最低限必要となります。経営の最高意思機関は取締役会であり、取締役会での意思決定を実施する為に各レイヤーに応じた会議体を設計し、必要な情報が現場から経営レベルまで漏れなく、共有される事が必須事項となります。従って、各現場ごとでの会議にて共有・意思決定した事項が部門会議、経営会議、取締役会、株主総会と共有されることで、組織全体での意思決定を促すことのできる仕組みとなります【図5】。
各会議体や現場レベルそれぞれにて組織に所属するメンバー全員が何らからの意思決定を行う事で、社長中心のトップ依存型の意思決定構造から権限移譲が自然と行われることになります。意思決定レベルが上がれば上がるほど、経営に近いレベルでの意思決定を実践する事となり、それは経営者スキルを醸成する事に繋がってきます。承継後を見据えたガバナンス体制を整備し、実践するという事は経営者人材を体系的に育成する事に繋がってきます。経営者人材や候補生が増えるという事は、組織全体での体力強化に繋がりますし、10年・20年、50年先の未来の自社を支え、成長させる組織経営への進化を意味します。
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