後継者がいない経営者が取るべき承継対策
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2024年版中小企業白書によると、後継者が不在である中小企業の割合は54.5%で、2社に1社は後継者がいない状況といえます。企業の様々な経営課題のなかでも、とりわけ事業承継に関する対策は優先順位が高く、時間をかけてじっくり検討すべき事項です。自らが育ててきた事業を未来へ承継していきたいと考える経営者が多く存在する一方で、最も身近な後継者候補である子供は、親の事業に将来性や魅力を感じないなどの理由で、承継に消極的なケースもあります。様々な事業承継のかたちがある中で、本コラムでは後継者がいない経営者がとるべき承継対策についてご紹介します。
後継者は本当にいないのか
後継者候補を考える場合に、経営者の多くがご自身の子供をいちばんに検討されるものと思います。苦楽をともにしてきた事業であるがゆえに、理解がある人物に託したいという想いで、身近な親族に承継していきたいものです。
一方、子供(後継者候補)の視点からは、現在の労働市場は慢性的な人手不足の状況にあり、働き方も多様化している中で、親の事業を引き継ぐ以外の選択肢が無数に存在しています。このような状況から、子供がいても結果として後継者不在となることが少なくありません。
後継者を明確に決められていない経営者は、自身の退任予定時期から逆算し、あらかじめ承継の方向性を検討しておく必要があります。これにより、5年~10年先に承継をしなければならないことが決まれば、それに向けて具体的な行動を起こすことができます。
後継者がいない経営者は、まず経営陣や従業員に目を向けるべきです。これらの人材は、経営者と共に事業を成長させてきたいちばんの理解者であり、事業を任せられる可能性は高いといえます。
また、経営者というのは特異な存在であり、誰しもが経営者としての資質や覚悟があるわけではないので、経営者を育てるということが重要なポイントとなります。
そのうえで、経営陣や従業員の中から後継者になり得る人物がいない場合は、第三者への承継を検討することも視野に入れることが必要です。
MBOとEBO
企業内部の人材に株式を承継する手法には、MBOとEBOがあります。
経営陣による株式買取の手法をMBO(Management Buyout)、従業員による同手法をEBO(Employee Buyout)と呼び、MBOやEBOによる承継は、企業の成り立ちや文化、事業内容を熟知した人物に経営権を引き継ぐことができます。
現経営者が、後継者を選定してく過程では、あらかじめ承継カレンダー作成して体制を俯瞰し、計画的に後継経営人材を育成してくことが重要です。
これまでの経営陣や従業員が引き続き事業運営にあたるため、経営者交代による社内の不安などを抑える効果が期待できます。また、中長期的なビジョンを描きやすいという特徴もあります。
ただし、購入資金に関して経営陣や従業員側の資金調達が難航する場合もあり、これらの手法を活用する際には購入する側に対する負担も考慮することが必要です。承継計画を検討する際に、後継者候補が株式取得に必要な資金を確保できるような仕組みを計画に含んでおくことが、円滑な承継の実現につながります。
第三者への承継(M&A)
企業内部に事業を承継させる人材を育成できなかった場合、または、計画したMBO等が成立せず頓挫した場合に、検討すべき対策はM&Aによる第三者への経営権譲渡です。過去には、M&Aに対して「買収」など負のイメージが持たれていましたが、現在では事業承継の手段として一般的に取り扱われています。
M&Aに関しては、専業の仲介業者のみならず、国が全国に設置する「事業承継・引継ぎ支援センター」や銀行、証券会社など、相談できる窓口が広がっています。事業承継の手法として利用しやすい環境になったことで浸透してきたものと思われます。
M&Aでは、譲受企業が成長企業であることが多く、事業戦略上明確な目的を持って対象先を選定します。そのため、譲渡企業側にとっても更なる成長を期待できることがメリットであるといえます。オーナー経営者にとっても、自身が成長させてきた企業が保有する資産価値に加えて買収プレミアム(いわゆる「のれん」)を加えた評価額で株式を売却でき、利潤を得られる可能性があります。
留意点として、M&Aは譲受企業にとって対価を支払う価値のある企業しか対象になり得ないということは理解しておく必要があります。「価値がある」ということには、投資対象として企業単体の収益から相応のリターンが見込まれることはもちろん、譲受企業が展開する事業との相乗効果が期待できることや、有望な技術者を雇用していること、優良取引先に対する取引口座を保有していることなど、様々な観点での評価がなされます。そのため、M&Aを活用するためには独自の強みを磨いておくことが重要となります。
企業価値を高める
事業承継を円滑に進めるためには時間がかかります。後継者がいる場合でも、その育成、後継経営体制の構築などの課題があります。現時点で後継者がおらず、具体的に承継相手のイメージが出来ていない場合には、後継者がいる企業以上に、将来に向けて企業価値を高めていくことが必要です。承継時期までに組織や体制をしっかりと磨き上げ、企業としての価値を高めることで、様々な選択肢を増やし、承継の可能性を高めていかなければなりません。企業価値を高めるメリットには以下が挙げられます。
①後継者が承継しやすくなる
②第三者の承継先が見つかりやすくなる
③オーナーの利潤が増える
①では、冒頭に述べたように、子供は親の事業に将来性や魅力を感じないことが承継に消極的となる理由のひとつです。その対策には、企業の魅力を高める方法として、社内体制をしっかりと整え、安定した事業運営ができるようにしたうえで、業績を良好な状態にさせることが求められます。企業としての価値が高まれば、引き継ぐ側から見た魅力が増すことに直結するわけですから、すぐにでも取り組むことが必要です。
②の第三者承継においても、企業価値が高いことは魅力を高めます。特にM&Aでは、既存事業との相乗効果が生まれることや、譲渡企業単体の収益性に対する投資効果が高いことが重要です。組織として完成され業績の良い企業の方が当然に魅力があり、社内外を問わずマッチングする可能性が高まります。
③に関しては、M&Aで事業譲渡する場合に、オーナー側が得られる利潤は企業価値と比例します。事業を譲渡することは大きな決断となるわけですが、企業価値が高いことはオーナーにとってメリットが大きくなります。
最後に、後継者不在の状況は、ご自身だけで解決することは難しいと思われますが、皆様と共に歩んできた従業員の方々のためにも承継について、前向きに取組んでいただきたいと存じます。
事業承継の様々な手法を活用することで、すべてのステークホルダーにとって良い結論が導き出せるはずです。
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