組織活性化の手法や生産性を高める
実践ステップ
- ホールディング経営

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はじめに
現代のビジネス環境は、急速な技術革新やグローバル化、さらには予測不可能な社会的変化によって、かつてないほど複雑化しています。このような状況下で、企業が持続的に成長し、競争力を維持するためには、単なる業務効率化だけでは不十分です。特にホールディングスやグループ経営を行う企業においては、複数の事業会社を統括しながら、全体のシナジーを最大化することが求められます。
ホールディングスの役割は、グループ全体の戦略を策定し、事業会社間の連携を強化することにあります。しかし、グループ経営には、事業会社間のコミュニケーション不足や目標の不一致といった課題もつきものです。これらの課題を解決し、組織を活性化させ、生産性を向上させるためには、具体的な手法と実践ステップが必要です。
本コラムでは、ホールディングスやグループ経営の視点を取り入れながら、組織活性化と生産性向上のための具体的な手法と実践ステップについて解説します。
ホールディングスとグループ経営の役割
ホールディングス(持株会社)は、複数の事業会社を統括し、グループ全体の戦略を策定・実行する役割を担います。その主な目的は、以下の3点に集約されます。
<ホールディングスの役割>
1.資源の最適配分
グループ全体の資源(人材、資金、技術など)を効率的に配分し、事業会社間のシナジーを最大化する
2.ガバナンスの強化
事業会社の経営を監督し、リスク管理やコンプライアンスを徹底する
3.戦略的な意思決定
グループ全体の方向性を定め、事業会社の活動を統合的に管理する
ホールディングスは、単なる「親会社」ではなく、グループ全体の価値を最大化するための「司令塔」として機能することが求められます。一方で、グループ経営には以下のような課題も存在します。
<グループ経営の課題>
1.コミュニケーション不足
事業会社間やホールディングスとの間で情報共有が不足し、連携が不十分となる場合があります。特に、事業会社が独立性を重視しすぎると、グループ全体の目標に対する意識が薄れ、情報共有不足が生じる可能性があります。
2.目標の不一致
事業会社ごとに異なる目標を追求することで、グループ全体の方向性が分散してしまうことがあります。例えば、ある事業会社が短期的な利益を重視する一方で、別の事業会社が長期的な成長を目指している場合、グループ全体の戦略が矛盾する可能性があります。
3.モチベーションの低下
ホールディングスの方針が現場に伝わりにくく、事業会社の従業員がグループの方針と所属会社の方針の不一致から信頼を損なう可能性があります。特に、トップダウン型の指示が多い場合、現場の従業員が「指示を受けるだけ」の受動的な姿勢になり、モチベーションが低下することがあります。
これらの課題を解決するためには、ホールディングスと事業会社が一体となって取り組む必要があります。具体的には、グループ全体の目標を明確化し、コミュニケーションを活性化させることが重要です。また、従業員一人ひとりが主体的に行動できる環境を整えることも欠かせません。
ホールディングスの司令塔としての機能を高める具体的な手法として、シェアードサービスを導入する方法があります。
シェアードサービスとは、グループ全体の管理業務やバックオフィス業務を本部に集約し、効率化を図る仕組みです。これにより、事業会社は本来の事業活動に集中できるようになります。具体的なメリットとしては以下が挙げられます。
<シェアードサービスのメリット>
1.コスト削減
重複している業務を統合することで、運営コストを削減できる。
2.業務の標準化
グループ全体で統一されたプロセスを導入することで、業務の質を向上させる。
3.専門性の向上
シェアードサービスセンターに専門スタッフを配置することで、業務の精度と効率を高める。
例えば、経理や人事、ITサポートなどの業務をシェアードサービスセンターに集約することで、事業会社間の連携が強化され、迅速な意思決定が可能になります。また、シェアードサービスの導入は、グループ全体のデータを一元管理する基盤を整えることにもつながり、経営の透明性を向上させます。
さらに、グループ全体の理念を従業員に浸透させることは、組織活性化の重要な要素です。理念が共有されることで、従業員は自分の役割を理解し、グループ全体の目標に向かって主体的に行動するようになります。具体的な取り組みとしては以下が挙げられます。
<グループ理念浸透の具体的取り組み>
1.理念共有の場の設置
定期的な研修やイベントを通じて、グループ理念を従業員に伝える。
2.リーダーシップの発揮
管理職が理念を体現し、従業員に示すことで、理念の浸透を促進する。
3.コミュニケーションの強化
理念に基づいた行動を評価し、フィードバックを行うことで、従業員のモチベーションを向上させる。
例えば、グループ全体のビジョンやミッションを明確にし、それを従業員に分かりやすく伝えることで、組織全体の一体感を醸成することができます。また、理念に基づいた行動を評価する仕組みを導入することで、従業員の主体性を引き出し、組織の活性化につなげることができます。
組織活性化と生産性向上の実践ステップ
ホールディングスがグループ全体の生産性を向上させるためには、以下の実践ステップを計画的に進めることが効果的です。
ステップ1:現状分析
まず、グループ全体の現状を把握することが重要です。以下の方法で現状を分析しましょう。
事業会社ごとのパフォーマンス評価
各事業会社の業績や課題を分析します。売上や利益だけでなく、従業員の満足度や業務プロセスの効率性も評価対象に含めることが重要です。シェアードサービス検討の視点から、バックオフィス業務と人員数のバランスを把握しておくことも必要となります。
従業員満足度調査
グループ全体の従業員の満足度や課題意識、理念浸透度合いを把握します。従業員がどのような点で不満を感じているのか、またグループとしての理念や方針などへの理解、共感度合いを明確にすることで、具体的な施策を立案しやすくなります。
業務プロセスの可視化
ホールディングス・事業会社間の連携状況や業務の流れを整理し、無駄や非効率な部分を特定します。特に、ホールディングスに集約できる重複業務を特定することが重要です。
ステップ2:課題の特定と優先順位付け
現状分析の結果をもとに、グループ全体で解決すべき課題を特定します。その際、課題の重要度や緊急度を考慮して優先順位を付けることが大切です。例えば、短期的に解決可能な課題と、長期的な視点で取り組むべき課題を分けて整理することで、効率的な対応が可能になります。
短期的には、グループ理念の浸透やコミュニケーションの改善策の実行、人事など一部の部門をシェアードサービスへと移行することが挙げられます。中長期的にはキャッシュマネジメントの仕組み構築や組織全体でのリスク管理、ガバナンス強化を実現する施策に取り組むと円滑に課題解決を進めることができます。
ステップ3:具体的なアクションプランの策定
課題解決のための具体的なアクションプランを策定します。アクションプランは、以下のように具体的で実行可能な内容にすることがポイントです。
誰が(担当者)
責任者を明確にすることで、実行の責任を明確化します。
いつまでに(期限)
期限を設定することで、計画の進捗を管理しやすくします。
何を(具体的な内容)
具体的な施策を明示することで、関係者が共通の理解を持てるようにします。
どのように(手法)
実行方法を具体化することで、計画の実現可能性を高めます。
ステップ4:実行と進捗管理
策定したアクションプランを実行に移します。実行段階では、ホールディングスが中心となって進捗状況を定期的に確認し、必要に応じて計画を修正する柔軟性が求められます。特に、ホールディングス・事業会社間の連携に関する部分は重点的に進捗管理を行い、グループ全体としての施策として一体感を持たせた進捗管理が重要となります。
ステップ5:成果の評価と改善
最後に、取り組みの成果を評価します。評価結果をもとに、さらなる改善点を見つけ、次のアクションにつなげることで、PDCAサイクルを回していきます。例えば、従業員満足度が向上したか、業務プロセスの改善効果をコスト削減額で定量的に示すなど、具体的な指標で評価することが重要です。
おわりに
ホールディングスやグループ経営における組織活性化と生産性向上は、一朝一夕で達成できるものではありません。しかし、適切な手法を用い、計画的に取り組むことで、確実に成果を上げることができます。本コラムで紹介した手法やステップを参考に、自社の状況に合った取り組みを進めてみてください。
ホールディングスの役割は「グループ全体の統合と調和」にあります。事業会社間の連携を強化し、従業員一人ひとりがやりがいを感じ、主体的に行動できる環境を整えることが、グループ全体の活性化と生産性向上につながるのです。ぜひ、今日から一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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