中堅企業が実装すべき財務戦略
~成長と存続の技術としての
ホールディング経営~
- ホールディング経営

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本コラムは、ダイヤモンド社発行の「コーポレートファイナンス戦略」の第3章の抜粋記事です。
今、ホールディング経営が事業承継のプラットフォームとして脚光を浴びている。具体的には、親族の後継者が不在、または後継者の経営能力に不安がある場合、HDCを設立して資本と経営を分離し、財産・債務はオーナー家で代々継承しながら、同族関係者以外の役員や社員が事業会社の社長となり経営を行う。オーナーにとってはグループの成長と株価の高騰を切り離せるため、長期の税務プランによる安定的な株価政策を講じることができる。(図表3-5)ホールディングス化を単なる「後継経営者への株式承継の手段」と捉えるのではなく、「承継を機に進化する」手段としてホールディングス化を活用するということが大事である。
(1)ホールディング経営のKFS(重要成功要因)
企業が変化するターニングポイントは「不況・赤字・承継」の3つだといわれる。では、承継をターニングポイントとして進化するためには何が必要となるのか。そこで、事業承継を成功へと導くホールディング経営のKFSとして次の3点に整理した。
①新たな成長エンジンの獲得
1つ目は、成長戦略としての新たな成長エンジンの獲得である。承継期を迎える企業は、事業そのものが〝レガシー化〟(陳腐化)していることも多い。事業ライフサイクルでいうところの「成熟期」「衰退期」に該当する事業を後継者が引き継ぐことになり、現状の事業の延長線では成長曲線を描くこと自体が難しい。
この状況を打破するためには、やはり新たな成長エンジンの獲得が必要不可欠だ。後継者は新たな経営ビジョンと合わせて、ビジョンを実現する新たな事業ポートフォリオを描かなければならない。そして、事業開発機能やM&A推進機能をホールディング組織のなかで構築・強化していくことがその実現につながるのだ。
②経営者のリーダーシップのあり方を進化させる
2つ目は、経営者自身のリーダーシップのあり方を進化させることである。先代社長と同じリーダーシップの発揮の仕方でうまくいくことは少ない。先代社長の多くは創業者、もしくは実質的な第2創業者であることが多く、自ら企業規模を拡大してきた経験を持つのに対して、後継者の多くはその拡大した状態の企業の経営の舵取りを任されることになる。そもそも避けようのない経験値不足というハンディキャップを抱えるのだ。
当然ながらリーダーシップの発揮の仕方は、経営者の固有の性格や、組織カルチャーなどによって最適解が変容するため、唯一の正解はない。ただし、承継における経営者の傾向として、リーダーが指示・命令を行い、部下がそれに従う形で成立するトップダウンの「伝統的リーダーシップ」は成立しにくいといえる。言い換えると、リーダーが部下の意見に積極的に耳を傾け、奉仕や支援をしながら組織の強みを引き出すいわゆる「サーバントリーダーシップ」が求められよう。
また、ホールディング経営は自律分権型の組織である。事業会社の舵取りは事業会社社長へ権限委譲をし、本社においては各機能(人事機能・財務機能・事業開発機能)について各専門人材へ権限委譲を進める。「手を放して目を離さない」というホールディング経営のスタイルを実行する際には、経営者のリーダーシップのあり方自体を見直すことが必要である。
③企業カルチャーの変革に挑戦する
3つ目は、企業カルチャーそのものの変革に挑戦することである。承継期を迎える企業の多くは、良くも悪くもカルチャーが出来上がっている。そのカルチャー自体が成長を阻害するものでなければよいが、実態は現状維持思考、近視眼的、部分最適などの病状を抱えていることが多い。組織は戦略に従うが、戦略は組織のなかで運営されてこそ成果となる。いくら素晴らしい戦略を描き、戦略に適した組織形態を選択したとしても、成功するとは限らないのだ。変化を実現するためには、組織は自由闊達に開発するカルチャーでなければならない。
(2)大きな枠組みのなかで承継を検討する
事業承継が企業のターニングポイントとすれば、その先には「成長」「現状維持」「衰退」という3つの道が続く。ただ、現状維持は衰退の始まりであるため、企業を存続させるためには常に成長を志向しなければならない。
国内市場は多くの領域で縮小しており、コモディティー化(日用品化)がきわめて進んだ現代においては、1つの事業へ経営資源を集中させていても成長は見込めない。持続的な成長を実現するためには、複数事業や機能を組み合わせてセグメントを拡大、あるいはバリューチェーンを最大化することで成長するという発想を持つことが必要不可欠となる。事業や機能が多岐にわたり、そこにエンパワーメント(権限委譲)が実現すると組織にダイナミズム(活力)が働く。この活力こそが企業の成長エンジンであり、逆境といえる環境下でも企業が成長する原動力となる。
事業承継には、経営者の世代交代に加え、組織体制の承継、資本(自社株)の承継など多様な側面がある。事業承継の主な目的は、企業の成長とともに複雑化していく経営体制を発展させ、長期的な存立基盤を築くことである。
「複雑化」とは、経営におけるさまざまな矛盾が錯綜する状態を指す。株価対策のための事業承継など、多様な側面の1つだけを切り取って承継対策を進めると、ほかの面で大きな経営リスクが発生することもある。
複雑化する承継をマネジメントするためには、大きな枠組みのなかでさまざまな矛盾のバランスを取りながら、すべての要素を発展に導くスタンスが求められる。その大きな枠組みこそが、「ホールディング経営体制の構築」である。
ここでは、ホールディング経営における3つの〝両立〟を通じて、長期的な存立基盤を構築するための事業承継の手法を紹介する。
①「親族内承継」と「親族外承継」の両立
世代交代を控えた経営者は、必ず「企業を親族内で承継すべきか、親族外に承継すべきか」という分岐点に立たされる。日本には、古来より「家を継ぐ」という独自の文化があり、企業経営も家を継ぐ過程で承継されてきたという歴史がある。いわゆる「ファミリービジネス」であるが、その文化こそが日本に長寿企業が多く存在する所以といわれている。
一方、近年では親族外承継が親族内承継を上回る傾向が顕著だ。経営者には卓越したマネジメントスキルが求められるため、承継者を親族だけに限定せず、優秀な幹部社員や外部のキャリア人材まで広げるという発想である。特に、社員から経営者を生み出す体制の構築は、中堅・若手社員のモチベーションにも良い影響を及ぼす。
親族内承継か、親族外承継かという選択に唯一の正解はない。また、必ずしもどちらかを選ばなければならないという決まりもない。それぞれにメリット・デメリットがあるが、双方のメリットを追求する「所有と経営の分離」という選択肢もある。それを実現するのが、ホールディング経営にほかならない。HDCを創業家が引き継ぎ、長期的な存立基盤を確立しながら、実際の経営はグループ事業会社に優秀な幹部社員を配属し、任せていくという方法である。
売上の拡大に伴って事業を多角化する企業も少なくない。その場合、事業ごとに会社を分割して、複数の親族外経営者にそれぞれの経営を任せる体制を整えることができれば、事業も社内も再活性化し、持続的成長に向けた基盤となる。
②「権限委譲」と「コーポレート機能強化」の両立
複数の事業会社を親族外経営者に任せる体制を築いても、正しく権限を委譲しなければ本来の目的は達成されない。ホールディング経営の組織的な目的は、「適切な権限委譲により意思決定スピードを高めること」である。ここが不十分だと確認の階層が増えてしまい、かえって意思決定スピードの鈍化を招く。経営環境の不確実性が高まる現在の経済環境において、事業会社は変化に柔軟に対応できるようにしておかなければならず、そのためにも事業会社の一社一社を自立させておく必要がある。
一方、事業会社の自立が原因でグループ組織がバラバラになるような事態は避けなければならない。大きなビジョンに向かって事業会社が相互にシナジーを発揮させることもホールディング経営の目的の一つであり、そのためにグループ本社機能も強化しておくことが重要だ。
これまで、日本の中堅・中小企業の経営は現場主体のイメージが強く、人的リソースを本社機能に重点配分していなかった。現場主体の経営は、経営環境が上昇基調のときは最大限に力を発揮できるが、下降基調になると向かうべき方向が定まらず弱さが露呈する。今後は、本社の戦略(コーポレート)機能にも優秀な人材を重点配分し、グループとして進むべき方向性を定めていく必要がある。
HDCに戦略機能を配置し、事業会社は権限委譲により自立性を高める。双方のメリットをバランス良く発揮させ、グループとして進化していくのだ。
③「企業成長」と「株価対策」の両立
非上場のオーナー企業にとって、事業承継のなかで避けられない重要課題が「自社株の承継」であろう。日本の税制、特に相続税・贈与税では、企業価値が高まるほど株価は上昇し、税負担が多大になりオーナー経営者を苦しめる構図になっている。この状況は、「三代で財産がなくなる」と表現されることもある。
事業承継の目的は企業の長期的存続にあるが、ホールディング経営においては、企業成長と株価対策を両立させる効果もあり、副次的な目的として検討に値するといえる。
しかし、ここで留意しなければならないのは、株価対策はホールディング経営に取り組む主目的にはなり得ないということである。世の中には、相続税対策としてホールディング経営に取り組むケースが多く見受けられるが、あくまで「経営体制としてあるべき姿を構築したうえで、結果として税務的なメリットも享受される場合もある」くらいの認識でとどめていただきたい。このテーマに関しては、自社の顧問税理士の判断を仰ぎながら進めていく必要があることはいうまでもないだろう。
事業承継は、経営者が一生に1度は経験する重要な経営課題だ。長期的かつ大局的・総合的な目線で自社を捉え、複数の対立する要素がバランス良く両立するように経営をデザインすることが重要である。
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