中堅企業が実装すべき財務戦略
~グループ経営とは~
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本コラムは、ダイヤモンド社発行の「コーポレートファイナンス戦略」の第4章の抜粋記事です。
以前の日本の会計制度は、親会社の単体決算を重視する「個別決算中心主義」が採られていたが、2000年3月期決算以降、親会社と資本関係(支配従属関係)のある関係会社を含めたグループ全体の経営状態を把握する「連結決算中心主義」に転換し、上場・大手企業の間でグループ経営が重視されるようになった。中小企業(資本金5億円未満)に連結決算を行う義務はないが、連結決算を行う中小企業も増えている。海外子会社がある場合、グループ全体の経営状態の実態把握や透明性の確保による信頼性向上などのメリットがあるからだ。
日本は人口減少に伴う経済成長の鈍化とデジタル情報社会の加速、また製品・サービスのライフサイクルの短命化が進行しており、一業一社で生き残るにはあまりにも厳しい時代に入った。企業は、時代の変化に対応しながら持続的成長を目指す必要があるとはいえ、経営環境は常に逆風である。時代の波と流行の風に乗って成長するベンチャー企業は例外かもしれないが、この経営環境下で順風満帆に事が運んでいる企業を見ることはあまりない。
そうしたなかで成長を続けるためには、M&Aや新事業開発などの多角化戦略を前提とした「グループ経営」が不可欠となっている。本章では、前述したホールディング経営を含めた、これからのグループ経営の姿について述べていく。
(1)グループシナジーが生み出す7つの価値
グループ経営とは、親会社と資本関係のある複数の企業(事業)が、1つの経営体として活動して競争力を高める経営スタイルである。グループ経営の目的は、親会社の繁栄でも、特定事業の儲けでもなく、「グループ利益の最大化」だ。外部環境が急激に変化したとしても、逆境下で耐え得る経営を行うためには、グループ各社(各事業)の方向性を一致させ、単純和ではなく、一体としての相乗効果(グループシナジー)を最大化することが重要である。
そのグループシナジーとしては、主に次の7つがある【図表4-1】。
①規模の経済
いわゆる「スケールメリット」である。具体的には、大量生産・大量仕入れによるコスト削減(収益改善)効果を指す。生産・販売の増減にかかわらず固定費は一定して発生するため、メーカーは生産量が増えるごとに製品1個当たりの固定費が下がり、利益率は向上する。その一方、仕入れ側はメーカーに大量発注することで単価の引き下げ交渉の余地が生まれる。例えば、原材料・間接材(工具・消耗品・燃料など)や定番商品などをグループ各社が共同して一括発注・集中購買すれば、調達コストの削減が見込める。また何度も集中購買を繰り返すことで、メーカーに対する影響力が強まってさらなる値下げや便益を期待できる。
②ブランドの共有
企業は意識しているかどうかにかかわらず、さまざまなブランドを保有している。コーポレートブランド、技術ブランド、店舗ブランド、事業ブランド、商品ブランドなどである。こうしたブランドは個々にブランディングするよりも、グループ各社で相互共有して多様な事業で展開したほうが、ステークホルダーに対するイメージアップや売上げの増加など、より大きなブランドバリューを享受しやすい。複数のブランドによるシナジーで企業価値向上を図ることを「ブランドポートフォリオ戦略」と呼ぶ。
③ノウハウの共有
グループ各社がそれぞれ保有・蓄積・収集したノウハウやナレッジなどを共有することで、これまでにない業務の効率化や技術革新を狙うものである。特定の事業プロセスや機能上の専門知識、固有技術など属人化・暗黙知化した〝見えない知的資産〟をグループ内で相互活用することが利益の創出につながる。例えば、グループ各社の全社員が参加するノウハウプレゼン大会を開催したり、社内報を活用して社内周知を図ったり、社内システムに過去の成功事例を蓄積して誰もが簡単に参照できるようにしたりして、ノウハウ・ナレッジの情報公開を進めるといったことである。
④経営インフラの共有
シェアードサービスや情報ネットワーク基盤など、経営インフラをグループ企業で共有化することで、業務集約化や標準化を一気に加速させるものである。日本企業は往々にして、グループ各社や各部門が別々のシステムやソフトウエアを導入し、グループ全体でデータの連携ができないケースも多い。また、親会社の子会社に対する支配従属関係の意識が強い場合、グループ各社へのインフラ投資が後回しにされ、親子間で明確な格差が存在しているケースも珍しくない。こうなると、シナジーどころか「アナジー(事業間の相互マイナス効果)」が生じて事業の足を引っ張る原因になってしまう。
⑤バリューチェーンの強化
「バリューチェーン」とは、製品・サービスの創出から顧客に提供するまでの価値創造プロセスをいう。グループ各社の機能が1本のチェーン(連鎖)としてそろうことにより、コストの削減や販売機会の獲得につながる。近年、主力事業とのシナジーを狙ってスタートアップ企業を買収したものの、思うような成果を出せていないケースは多い。また、以前はグループシナジーを発揮していた子会社が、グループ事業と関連性の薄い新規の派生事業が急成長し、グループ全体の既存事業との方向性との齟齬が顕在化したため、事業の売却に至った事例も散見される。
⑥人員の配置
グループ内の人員を再配置し、〝適材・適時・適所〟によって、各社のスキル不足の解消やワークフォース(労働力)の補完を図る。職場でのコミュニケーション促進や社員のモチベーション(仕事への意欲)とエンゲージメント(会社への愛着心)の向上で、「1人+1人=3人以上」の能力を発揮してもらうことが可能である。人材の再配置が生み出す組織のシナジーを高めるには、持続的な人材育成投資に加え、組織横断型プロジェクトなど協力・連携体制の構築、適正な人事評価などが必要である。
⑦最適資源配分
グループ内の資金移動により、余剰資金の有効利用や不足資金の補完などが可能となるほか、生産設備や研究所、オフィススペースなどの物的資産を共有することで、設備の稼働率向上やコスト削減につながる。いうまでもなく経営資源は有限である。限りある経営資源をどのように振り分けるか。その差配する技術によって、企業が享受するシナジーは大きく異なるのである。
「グループ利益の最大化」は、言い換えれば「グループシナジーの最大化」を実現することである。そのためには、グループとしてどのようなシナジーを実現するのかを明確に定め、グループ全体に浸透させることが大切だ。「なぜ、資本関係のない個別の企業として生きていくのではなく、同じグループにいるのか」をしっかりと考え、答えを共有することこそが「グループ経営」の出発点となる。
(2)「分社経営」と「グループ経営」の違い
グループ経営を推進するなかで、「陥りやすい罠」というものがある。それは、カーブアウト(事業の切り出し)やM&Aでグループ会社(事業会社)の数を増やすこと自体が〝目的〟になってしまうことだ。当初はグループ各社のシナジーやガバナンス強化に積極的に取り組んでいたものの、いつの間にかグループ連結売上高の増加に満足し、経営をないがしろにして規模の拡大だけを推し進めてしまう例が中堅企業で散見される。
当然ながら、子会社の数を増やすことがグループ経営ではない。資本や人のつながりだけでなく、本当の意味でグループ経営を実践していくうえでは、グループ会社をコントロールするための経営システム導入が必要となる。特に、海外子会社を有している企業や上場企業レベルの体制構築を目指す企業には不可欠となる。
TCGでは、グループ経営体制を敷いていない企業集団のスタイルを「分社経営」と呼び、グループ経営とは明確に分けている【図表4-2】。外見上は同じようなものであっても、分社経営は同じビジネスを共働する組織同士、一方のグループ経営は同じベクトル(価値判断基準)を共有する仲間同志と、両者は似て非なるものである。
グループ経営は、特に海外展開やM&Aで成長・拡大を目指す企業にとって不可欠なスタイルとなっている。国内の事業会社だけにとどまらず、海外事業の管理レベルを上げ、グループ全体のシナジーを効率的に高めることが求められる。また、グループ全体に関わる意思決定のスピードアップも重要だ。グループ全体の理念やビジョンを掲げて、経営企画機能を確立することがグループ企業の競争力の源泉になる。
グループ経営を実現するには、グループの本社機能をつかさどるHDC(ホールディング会社)がポイントとなる。すなわち、グループ経営のプラットフォームとしてホールディング経営をデザインしていくのである。
(3)求心力と遠心力をバランスさせるグループ経営
「建て増し型のグループ組織」ともいえるホールディング経営は、企業規模の拡大とともにマーケットに近いラインへ権限を委譲していく「分権型」の経営スタイルである。以前のホールディング経営は、オーナー経営の非上場企業による相続税対策の側面が強かった。だが、近年はオーナー企業でも「自社を成長させたい」「経営者人材を多く育てたい」など本質的な目的を持ってホールディング経営に移行する企業が増えている。
事業会社が柔軟な発想で自立性の高い経営を行いつつ、HDCはグループ全体の大きな方向付けと事業に必要な経営資源の供給、そしてグループガバナンスに徹する。このホールディング経営をベースとしたグループ経営のスタイルを、TCGでは「プラットフォーム型ホールディングス」と呼んでいる。
ホールディング経営を絵に描くと、HDCを中心に複数の事業会社が並ぶという親子の支配関係に似た構図になりがちである。特に老舗企業や成熟企業は、頂点に君臨する親会社を子会社が下から支える三角形のヒエラルキー構造であることが多い。だが、プラットフォーム型ホールディングスで描くグループ経営のイメージは、そのようなトップダウン型ではなく、HDCが土台(プラットフォーム)となって主役の事業会社を支え、事業会社に必要なヒト・モノ・カネ・情報・ブランド・ノウハウといった経営資源を供給する。各社はグループ理念に基づいて事業プランを練り、主体的に事業活動を展開する構図である。
事業会社がマーケットニーズに即応しつつ、HDCは外部環境の変化に応じて新事業開発やM&Aに投資し、事業ポートフォリオを柔軟に組み換えていくことが重要となる。その際は、事業と同じ数だけ経営者人材も必要になる。次代の経営を担う多様な人材が生き生きと活躍できるような環境づくりのため、HDCが事業会社の間接業務をバックアップしていくことが望ましい。また、事業会社がグループのレギュレーションから逸脱しないようなガバナンス体制の構築も外せない。
ただ、事業戦略の策定やマネジメントの権限の多くをHDCが保持していたり、HDCと事業会社の社長を同一人物が兼任していたり、事業会社の現場レベルの人事権までHDCが掌握していたりするなど、事業会社が自立しているとはいいがたいホールディンググループもまだ多く見受けられる。
グループ経営のキーワードは「求心力」と「遠心力」である。求心力は、グループの結束を固める理念を示し、社員の心を引き付ける力のことをいう。それがグループ経営としての一体感やカルチャー、モチベーションを生み出し、社員が生き生きと活躍する。一方、遠心力とは、事業会社に権限委譲を進め、求心力をばねにそれぞれが自立性・柔軟性を発揮して成長する力をいう。この二つの原動力をバランス良く両立させる土台(本社)が必要なのである。
HDCを活用したグループ経営の事例として、建設会社E社を紹介したい。E社は2代目の後継者が承継したものの、長年〝ゼロ成長〟が続いており業績が頭打ちになっていた。新社長は現状を打開するため、まずHDCを設立し、工種の幅を広げる目的で同業の建設会社F社を買収した。業績は上向いたが、建設業の構造的な課題ともいえる人手不足に直面した。
そこで新社長は人材斡旋会社であるG社を買収。G社は建設業の職人の雇用に強く、国内だけではなく海外人材の雇用にも力を入れていた。そのG社を傘下に引き入れ、グループ内に職業訓練校を設立。海外から雇用した人材を職人として自社で育成し、グループ内で活躍してもらうという流れをつくり、今ではグループ連結で300人を超える規模となっている。また、活躍人材を元請けのゼネコンなどにも派遣し、人材の雇用→育成→活躍→供給という人材のバリューチェーンを構築した。複数事業をつなげることで新たな価値を生み出した好事例である。
プラットフォーム型ホールディングスによるグループ経営は、1つ1つの事業会社が成熟事業でも、ほかの事業と組み合わせることで新しい価値を生み出すことができる。また権限委譲による分権スタイルで、従前の価値よりも次元の高いレベルに進化させることが可能である。グループ全体で多くの社会課題の解決に取り組むことで、企業としてさらに進化・成長するという善循環が成長戦略の新たなセオリーになっている。
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