人事コラム

コンサルタント一問一答人的資本経営・戦略人事

採用戦略構築の基本ステップ

本コラムは、ダイヤモンド社発行の「戦略起点の人材マネジメント」の第4章の抜粋記事です。

現在、ほぼすべての企業が採用に課題を抱えている。そこで多種多様な企業向けの採用支援サービスが生まれている。こうした業界は参入障壁が低いため、新しいサービスが日々リリースされ続けており、乱立状態になっている。そうした状況では、企業が採用戦略を考える際に「どの採用サービスを利用すべきか」にフォーカスしがちで、その選択が採用戦略だと勘違いしている企業も少なくない。
しかし、利用するサービスを選ぶだけでは、期待する成果が得られない。たまたま求める人材が採れたとしても、継続して同じような成果が得られるという保証はない。外部に依存した採用では、成功要因も失敗要因の分析も不明確になってしまうため、不安定で手探り状態の採用を続けることになってしまう。
したがって、自社独自の「採用戦略」を構築する必要がある。求める人材を安定的に確保できる企業は、確固たる採用戦略を持っている。採用で成功を収めるには、自社の成長戦略に沿って採用目的を整理し、戦略的に採用を考えて実践しなければならない【図表4‒3】。

採用戦略構築の基本ステップ

 

(1)採用活動の準備

採用戦略構築の第1ステップは、「採用活動の準備」である。その第1歩は、これまでの採用活動の振り返りである。どのような人材に対し、どんなメッセージを発信したのか。それによって確保できた人数・質・定着率など、少なくとも過去3年分の取り組みを整理する。
次に、全社戦略の再確認である。ビジョン・成長戦略を踏まえ、あらためて求める人材像を明文化していく。その具体的手法として、人材ポートフォリオ分析を推奨する。人材ポートフォリオ分析とは、社員1人ひとりの特性や実績を整理し、どのような人材がどこに配置されているのかを見る手法である。
基本的な人材ポートフォリオは、業務特性(定型・非定型)と実施形態(組織・個人)の2軸で4象限に分類する。その他にも要員計画を立てるために雇用形態で分類したり、戦略を推進する人的資本を整理・分析するために市場での競争優位性と企業内での独自性の2軸で分類したりするなど、さまざまな形がある。
例えば、全社の成長戦略を実現するために必要な人材ポートフォリオと現状を比較することで、今の組織に不足する人材を特定することができる。事業領域や事業所、グループ体制であれば子会社など、組織単位ごとに確認すると把握しやすい。分析を通じて不足する人材が特定できても、すぐに採用を考えるのではなく、まずは既存社員の育成や配置転換でカバーすることを優先すべきである。売り手市場の環境下ではすぐに人材が確保できないかもしれず、社風や自社への理解がある既存社員のほうが定着しやすいためである。
既存社員で不足を補うのが難しいと判断したとき、初めて外部人材の採用という選択肢を検討するのが原則である。そのうえで、外部から人材を採用すると意思決定したら、中期的な要員計画を立て、「いつ、どのような人材を、どれだけ確保するか」を検討する。
この段階でのポイントは、求める人材像の解像度を上げることである。「積極的でコミュニケーション力の高い人材」などといった漫然としたレベルではなく、経験値・素養・求める行動パターン・性格・価値観・資格・働く企業に求めることなど、さまざまな観点から可能な限り具体化し、ターゲット人材のペルソナ(採用したい人物像)を設定するのである。

 

(2)戦略・計画の構築

採用戦略の第2ステップは、求める人材を確保するための「戦略・計画の構築」である。ターゲット人材が企業に求める「魅力」を、価値観や得られる経験、雇用条件などの観点から想定する。それに対し、自社がPRできるポイント(自社の魅力)と重なる部分が採用戦略の軸となる【図表4‒4】。

採用戦略の軸

 

①自社の魅力の明確化

自社の魅力が言語化できていない場合は、既存社員へのインタビューやアンケートを行うとそのポイントが見えてくる。なぜ、自社で働いているのか。社員はそれぞれ自社に何かの魅力を感じているから働いているのだ。その理由を、インタビューやアンケートから見つけ出していくのである。タナベコンサルティングでは、自社の魅力を探すポイントとして10の観点を提唱している【図表4‒5】。このフレームを参考に自社の魅力を見直していただきたい。

自社魅力検討のポイント

 

②採用フローと応募者とのコミュニケーションの設計

採用の軸を見つけたら、これを起点に採用フローと応募者とのコミュニケーションを設計する。採用フローにおいては、求める人材とのマッチングを見極める方法を洗い出し、採用ステップごとに設定していく。提出書類、面談・面接、グループワーク(ディスカッション)、既存社員との対話、適性試験など、それぞれのフェーズで見極めることと、その基準を決める。
ポイントは、1度にすべてを見極めようとしないことである。各段階で何を見るのかを決め、1つずつ確実に押さえていくことがポイントである。また、その判断基準を、選考に当たる社員と共有することが重要である。これを怠ると選考の基準がそろわず、それぞれが思うままに選考してしまい、結果的に自社が求める人材とのミスマッチや選考者の好き嫌いによる格差が生じてしまう。
採用活動において、特に中堅・中小企業の場合は応募者の見極めだけでなく、動機付けも行う「ジャッジ&フォロー」の目線も重要である。応募者にとって中堅・中小企業は、大手企業と比べ、応募者が選考前に得られる企業情報は限られているからである。したがって、選考の過程で自社に関する情報を補いながら、応募者の志望意欲を上げていく必要がある。
具体的には、応募者の自社に対する理解度を慎重に確認し、不足情報があれば、丁寧に説明しながら補っていく。次に、その情報が求職者にとってどのようなメリットにつながるかを伝えていく。そのために、応募者が企業を選ぶ際に重視していることを事前に押さえておく。
例えば、自身が成長できる環境を重要視しているのであれば、自社の教育制度や得られる経験値などを紹介する。加えて、それが他社では得にくいものであることを伝えていくことである。
志望動機を高めるには、自社でなければならない理由をどれだけ積み上げられるかがポイントである。応募者の価値観別に自社のどの点を伝えていけばよいかを一覧化し、採用マニュアルとして整理しておくと、初めて採用にかかわる社員も迷わない状態が整備できる。そのうえで、各社員の自分の意見も加えることで、それぞれの色が出た応募者とのコミュニケーションが実現する。このように、応募者1人ひとりに対する丁寧な対応が他社との差別化につながっていく。

 

(3)採用戦略を推進する体制づくり

①選考段階ごとの体制づくり

採用戦略を実現するために重要なのが、採用を行う体制づくりだ。採用は全社的な取り組みである。全社員が「採用の重要性」「自社の採用戦略」「自社の特長」などを認識したうえで、選考の過程で誰がどのような手法で候補者を見極めるのか、どのような情報を発信していくのかを決め、それぞれの役割に徹することが重要である。先行段階ごとの情報発信と役割分担の一例を【図表4‒6】に載せているので、参考にしていただきたい。

選考段階ごとの情報発信と役割分担の例

 

②全社採用体制を構築するポイント

応募者の特性に合わせて、誰が接点を持つのかを丁寧に決めていきたい。応募者の特性、価値観、知りたいこと、適性試験の結果などを踏まえ、可能な限り応募者と価値観の近い社員を選ぶのがポイントである。実際には、活躍する社員を採用活動に動員したがらない部門長と、それに遠慮してしまう採用担当者をよく見かけるが、そのような場合は経営層から各部門長に対し、採用は全社で取り組むべきものだという認識を明確に発信する必要がある。
採用に全社を巻き込む仕組みとして、中心となる社員に対して任命式を開催する会社や、採用活動への貢献にインセンティブを設定する会社もある。このように明確なメッセージを発信することで、全部署が取り組むべきだと認識でき、連携もスムーズになる。
採用のプロジェクトチームを立ち上げるのも有効だ。その場合は、チームの役割と責任範囲を明確にし、どこまでの権限を持つのか明確にすべきである。例えば、採用における広報ツールの候補選定レベルなのか、実際に選考にかかわるのかでは責任の重みや準備時間が異なる。この点は、経営者が明確にしたうえでチームを組成すべきである。

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この課題を解決したコンサルタント

立入 俊介

タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部
ゼネラルマネジャー

立入 俊介

総合人材サービス会社にて、大手~中堅・中小企業の新卒採用・人材育成支援に従事し、プレイングマネジャーとして組織マネジメントを担い、社内外両面の組織改革の経験後、当社へ入社。採用領域での知見を活かし、「社員が生き生きと働き、周囲に薦めたくなる組織づくり」の信条のもと、顧客の理念・ビジョン・企業風土・採用競争力・制度設計・グループ人事まで、多面的要素から戦略的な人事コンサルティングを行っている。

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タナベコンサルティンググループは「日本には企業を救う仕事が必要だ」という志を掲げた1957年の創業以来
68年間で大企業から中堅企業まで約200業種、18,900社以上に経営コンサルティングを実施してまいりました。
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