人事コラム

コンサルタント一問一答人的資本経営・戦略人事

人材採用を取り巻く環境

本コラムは、ダイヤモンド社発行の「戦略起点の人材マネジメント」の第4章の抜粋記事です。

人材採用を取り巻く環境

ある地方都市に本社を構える会社のコンサルティング事例を紹介する。その会社は数年にわたって業績が低迷し、その影響で組織の活力がどことなく停滞気味であった。そうした状況が新卒者にも伝わってか、人材採用でも苦戦が続き、人手不足の現場は業務が回らず、社員は忙殺されるだけで収益が伸び悩み、結果的に処遇も上げられないという、まさしく「負のスパイラル」の状態に陥っていた。
そんななか、この会社は採用活動に重点的に力を入れた。全社員が採用活動にかかわるという方針を打ち出したところ、事態が好転して人材を確保できるようになった。業績が厳しいなかでも、人材採用という「将来に向けた」活動に全社を挙げて取り組んだことで、社員の言動も前向きなものに変化した。若手社員へどんどんと仕事を任せることで、徐々に職場の雰囲気が明るくなり、業績も回復していった。
現在は、人が人を呼ぶという流れができ、次年度の新卒採用が活性化するという好循環を生み出しているとのことである。その会社の経営者は、「『企業は人なり』という原則をあらためて実感しました」と話す。
この事例からもわかるように、企業における人材採用の課題は、経営課題そのものだということである。
環境変化のスピードが速く、不規則に変化する「VUCA時代」といわれる現在において、働く人々を取り巻く環境もまた急速に変化している。本章では、人材を取り巻く社会環境のインパクトポイント(強く影響を受ける急所)について押さえたうえで、企業はどのような採用活動を行うべきかを考察する。

(1)労働力人口の減少

人材採用のインパクトポイントの1点目は、少子化に伴う労働力人口(15歳以上人口のうち就業者と完全失業者を合わせた人口)の減少である。政府は女性や高齢者の就業促進、副業・兼業の解禁などの対策を講じ、2012年以降の労働力人口が増加基調へ転じるなど(コロナ禍の2020~2022年を除く)一定の成果を見せている。しかし、今後は総人口の減少の加速とともに労働力人口も減る見通しである【図表4‒1】。労働力の供給が先細りになれば、それだけ企業間の人材獲得競争は激しさを増していくことになる。
採用の場面においては、こうした前提を踏まえて求職者から選ばれるための施策を講じる必要がある。併せて、ただ選ばれるだけでなく、入社した人材を確実に戦力化することが重要だ。そのためには自社とのマッチングの精度をいかに高められるかが大事である。採用後のオンボーディング(新人の職場順応を促進する取り組み)を含めた、育成・活躍・定着の仕組みをバランス良く強化すべきである。

労働力人口の推移

 

(2)働く人の価値観の多様化

インパクトポイントの2点目は、働く人の価値観の多様化である。家族形態の変化やインターネットの発達によるコミュニケーションの変化、大規模な自然災害の多発、またコロナ禍によって多くの企業でリモートワークが導入され、仕事のやり方が大きく変化したことも影響している。
さらに、政府が進める「働き方改革」を背景に転職や副業・兼業への関心が高まり、新入社員のキャリア意識も変化した。東京商工会議所の「新入社員意識調査」によると、「就職先の会社でいつまで働きたいか」との問いに対し「チャンスがあれば転職」と答える新入社員の割合が増加傾向にあり、2024年度は17年ぶりに「定年まで」の割合を逆転するなど、近年は安定志向の低下と転職志向の高まりが顕著である【図表4‒2】。また、新卒入社の決め手として「社内教育プログラムの充実」を挙げる就活生が増え、入社後にどのようなスキルが身に付くのかを明示できない企業には人が集まらない時代になってきた。
こうした動きは、企業が社員や求職者に発信するメッセージにも大きな変化を迫る。つまり、今まで企業が求職者に魅力があると思われていた情報が〝刺さらない〟ことにもなりかねないということである。現在の価値観の変化を踏まえ、画一的な発信ではなく、それぞれの価値観を把握し、表現方法や活用ツールを変えていくことが企業に求められる。

 

(3)デジタル技術の革新

インパクトポイントの3点目は、技術革新による変化である。高速通信やAIなどの技術革新は私たちの生活を便利にするとともに、仕事においても先端技術を用いた合理化の進展が想定される。特にAIはパターン化できる仕事を得意としており、タクシーや電車などの運転士やコンビニエンスストアの店員、一般事務職などは将来的にAIが代替する可能性の高い職種とされている。その他、マーケティングや広告、法律、人事などの領域でも今後活用が可能になるとされている。
AIに仕事を奪われる「AI失業」への危機感が募る一方で、人的リソースの最適化が進む期待もある。労働力人口の減少が避けられない日本では、不足する労働力を補う方法として企業規模を問わず積極的な活用を検討すべきである。ここで重要なのは、人間にしかできない仕事と、機械やソフトウエアで代替できる仕事を明確に区別することである。
例えば、付加価値の高い接客や、新たな製品・サービスの開発、起業などは、人間にしかできない仕事といわれている。生成AIが日常的に活用できるツールとなった今、手頃な価格で利用できる企業向けのサービスも増えている。AIを用いた既存業務の効率化は遠い未来の話ではなく、今すぐ使える課題解決の手段であると捉え、自社の業務の在り方と人的リソースの配分を見直していく必要がある。そうしたなかで、採用活動においてもAI技術の活用は今後ますます進んでいくことが予想される。

 

採用におけるインパクトポイント

  • 労働力人口の減少を見据え、人に選ばれる企業にならなければならない
  • 働く人の価値観の多様化を考慮した、新たな対策を検討する必要がある
  • 急激に進歩するデジタル技術の革新を踏まえた必要人材の再定義が必要
人事制度・教育制度の無料相談会開催中!

人事制度・教育制度の
無料相談会開催中!

戦略・専門コンサルタントが
その場でアドバイス

詳細・お申込みはこちら

この課題を解決したコンサルタント

立入 俊介

タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部
ゼネラルマネジャー

立入 俊介

総合人材サービス会社にて、大手~中堅・中小企業の新卒採用・人材育成支援に従事し、プレイングマネジャーとして組織マネジメントを担い、社内外両面の組織改革の経験後、当社へ入社。採用領域での知見を活かし、「社員が生き生きと働き、周囲に薦めたくなる組織づくり」の信条のもと、顧客の理念・ビジョン・企業風土・採用競争力・制度設計・グループ人事まで、多面的要素から戦略的な人事コンサルティングを行っている。

ABOUT TANABE CONSULTING

タナベコンサルティンググループとは

タナベコンサルティンググループは「日本には企業を救う仕事が必要だ」という志を掲げた1957年の創業以来
68年間で大企業から中堅企業まで約200業種、18,900社以上に経営コンサルティングを実施してまいりました。
企業を救い、元気にする。私たちが皆さまに提供する価値と貫き通す流儀をお伝えします。

創業

業種


社以上