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SDGs、ESG、CSR、CSV などのワードを見聞きしない日は無いほどに、社会課題解決と企業経営は切っても切れない関係性となっています。各ワードの違いを歴史的変遷を踏まえ解説します。
4つのワードを取り巻く「3つの価値」の歴史的変遷
「3つの価値」は分散型から階層型へ
「3つの価値」とは経済価値・社会価値・環境価値を指します。これらは時代の変遷によって関係性が大きく異なってきました。時には特定の価値が優位に立ち、時には共生関係にあるなど。この価値の変遷が4つのワード(SDGs/ESG/CSR/CSV)を形成してきました。したがって、4つのワードの意味を理解するには「3つの価値」の歴史的な構造理解が必要不可欠です。まずは図1をご覧ください。
■分散型(~1980年代:経済価値優位)
~1980年代までは経済価値が優位に立っており、経済的利益が環境・社会に還元されるという構造でした。顕著な例として高度経済成長期を思い浮かべて頂くと捉えやすいと思料します。この分散型期では、経済的利益ありきの社会貢献活動が中心でした。
■共創型(1990年代~2010年代:3つの価値が相関関係(※但し、一部分に限定))
日本ではバブル崩壊を象徴として、社会の構造的変化が生まれてきました。3つの価値の関係も、経済価値至上主義の分散型から、(一部分に限定されますが)相関関係つまり共創型へと変化してきました。具体的には工場の排水問題や労働安全衛生の観点が強く叫ばれるようになり、環境に配慮した経営活動がごく一部で求められるようになってきました。先述の「一部分に限定」とは第一次産業の中でも特定領域のみに相関関係が生じてきたと言えます。
■階層型(2010年代~:環境価値優位)
そして階層型(2010年代~)では、上下関係が明確となり環境(第1層)が社会(第2層)を支え、さらに経済(第3層)を支えるという様相を呈しています。つまり企業をはじめとした経済活動は社会・環境と一蓮托生でなければもはや成立し得ないという考え方です。今の自社を想像してみてください。例えば、経済性を最優先とした製品製造はどうでしょうか?原材料仕入や物流・顧客との関係は維持できるでしょうか?また、社員の方のワークライフバランスを無視した働き方を強いているとした場合、社員の方は継続して自社で働いてくれるでしょうか?
このように振り返ると分散型の時代とはまさに真逆の構造になっています。
言い換えればまさに「私たちは"水(環境)"なくして生きてはいけない魚(企業/経済)」の状態なのです。
SDGs ESG CSR CSVの違いとは?
4つのワードを2つの視点で捉える
上述の通り、3つの価値の変遷が4つのワードを生み出してきました。図2をご覧ください。
■2つの視点
この4つのワードは2つの視点に大別されます。
一つは「国・地域・企業」の視点、そしてもう一つは「投資家」の視点です。つまり、主体が異なるという点で大別できるということです。
前者に含まれるのは、CSR、CSV、SDGsです。そして後者に含まれるのはESGとなります。
タナベコンサルティング作成
CSRとは何か?
CSRとは、「企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)」と直訳されます。日本においては経産省が企業の社会的責任とは、「企業が社会や環境と共存し、持続可能な成長を図るため、その活動の影響について責任をとる企業行動であり、企業を取り巻くさまざまなステークホルダーからの信頼を得るための企業のあり方」であると定義しています。
概念自体は古く、1956年に経済同友会がCSR決議を行ったことが始まりとされています。本格的に企業活動に使われ始めたのは1990年代後半から「環境経営」が強く叫ばれ、2003年以降でCSR室が大手企業で相次いで新設されたことから2003年をCSR元年とする考え方もあります。
CSVとは何か?
CSVとは、「共通価値の創造(Creating Shared Value)」と直訳されます。2011年ハーバード大学ビジネススクールのマイケル・ポーター教授が提唱したことで知られています。中小企業庁によれば、CSVは「企業の事業を通じて社会的な課題を解決することから生まれる「社会価値」と「企業価値」を両立させようとする経営フレームワーク」であると定義しています。CSVを解説する上で外せないのが「ポーターCSV3つのアプローチ」です。ポーターはCSVの解釈について、社会性と経済性を両立させ、社会課題解決を自社の強みに変えるいわば差別化戦略の一つであるとしたうえで、3つのアプローチを以下のように定義(図3)しています。
CSVはCSRの発展形態であるとの解釈が度々なされますが、結論を言えば全く異なる性質のものであると言えます。CSRは社会的責任を果たすことが目的であり、CSVは社会価値(環境価値)と経済価値を両立させ、企業の新たな強みへと変革することが目的です。いわば、CSRは守り、CSVは攻めの役割を果たしているのです。
ESGとは何か?
ESGとは、「Environment(環境) Social(社会) Governance(ガバナンス)」の頭文字を取った今後の企業の持続的成長に必須な領域を指します。厳密にはESG投資という表現で使用されるケースが多く、投資家が企業のESG領域に対する取り組みに対し、持続的成長への期待(=投資)であると解釈できます。歴史的には、2006年4月、投資実務にESG課題が影響を大きく及ぼすことを危惧した国際的機関投資家が「責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)」を国連に提言・採択に至ったことに端を発しています。日本においては年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年にPRIに署名したことを受け、ESG投資が広がっています。
投資額の視点(図4)でみると、2021年の日本のESG投資残高は約514兆円と、2016年からの直近5年で約9倍にまで拡大しています。
Source :JSIF「サステナブル投資残高調査」を基にタナベコンサルティング作成
SDGsとは
2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」は、国際社会全体の開発目標として、2030年を期限とする包括的な 17の目標を設定しています。本目標は、社会的課題の解決に向けて全ての関係者(ステークホルダー)の役割を重視しており、企業への期待も明確に示されています。
CSR・CSVとの明確な違いとして、主体が企業ではなく企業を含んだ「国・地域」であることを覚える必要があります。したがって、広い解釈でとらえるならば、SDGsの概念の中にCSR・CSVが内包されていると言えます。
これまで見てきた通り、4つのワードは似て非なるものであるとご理解いただけたでしょうか。企業としてサステナビリティへの取り組みを社内へ浸透させるにあたっては、曖昧な理解で言葉を使わずに各ワードの適切な理解から始め、社員一人一人が言葉の違いを説明できることが肝要であると言えます。
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