人事コラム

コンサルタント一問一答人事制度・人事処遇制度

中堅・中小企業における賃金制度の設計ステップ:
5つのステップと見直し時の注意点

働き方改革や人材確保競争が激化する今、事業戦略を実現し企業成長を加速させる賃金制度への転換を

働き方改革や社員確保のために、中堅・中小企業では賃金制度の変更・更新が求められている。
本コラムは人事・総務担当者を対象として、賃金設計の際に参考になる賃金設計ステップと失敗例を明示することで、制度への理解を促進する内容となっている。

賃金制度は、単なる「給与の支払いルール」ではない。
事業戦略や経営戦略を実現するための「仕組み」として設計することが重要である。

中堅・中小企業が「今」賃金制度を見直すべき理由

中堅・中小企業が「今」賃金制度を見直すべき理由

近年、中堅・中小企業を取り巻く外部環境は大きく変化しています。

最低賃金の引上げ、同一労働同一賃金の法的要請、リスキリング促進策など、賃金制度を取り巻く規制や社会的要請が次々とアップデートされています。

一方で、採用難が常態化し、人材の流動性が高まる中、社員エンゲージメントを高める公正かつ納得性の高い賃金制度の有無が、優秀な人材の定着・確保を左右する重要な要素となっています。

また、企業は「環境適応業」であり、外部環境の変化に合わせて事業戦略や経営戦略を柔軟に変える必要があります。

そして、変わりゆく事業戦略や経営戦略に応じて、賃金制度をはじめとする人事制度全般を変革しなければ、「戦略」を「実行」に移すことは困難です。

なぜなら、戦略を実現するのは「人」であり、「人」をマネジメントするのが各種人事制度だからです。
では、戦略の変更に伴い賃金制度を見直す際には、どのようなステップを踏むべきなのでしょうか。
本コラムでは、賃金制度設計に必要な5つのステップと、陥りがちな3つの落とし穴について解説します。

賃金制度設計の5ステップ

賃金制度を設計する際には、現状の課題を把握したうえで、事業戦略との整合性や等級・評価制度との連動性を考慮する必要があります。
以下に、賃金制度設計の5つのステップを具体的に解説します。

賃金制度設計の5ステップ

Step1 現状分析と課題抽出

現行の賃金データを分析し、自社の賃金制度の傾向や課題を明確にします。
以下のポイントに着目して、データを基に課題を洗い出しましょう。

①事業戦略が反映されているか
例:価値の高い職種に対して適切な賃金が設定されているか。
②等級や役割と賃金の整合性
例:役割や等級と賃金が逆転していないか。
③市場水準との比較
例:同業他社と比較して、賃金が高すぎる、または低すぎる部分はないか。
④不要な手当の有無
例:形骸化している手当や、目的を果たしていない手当が存在しないか。
これらの分析を通じて、自社賃金制度における課題を明らかにしていきましょう。

Step2 ポリシーの策定と数値への落とし込み

Step1で明らかとなった自社の課題を踏まえ、賃金制度の基本方針を再策定します。
この際、以下の要素に一貫性を持たせて設計することが重要です。

①経営理念や事業戦略との整合性
例:価値の高い人材に報いる仕組みを明確化する。
②基本給と変動給のバランス
例:基本給を安定的に支給しつつ、成果に応じた変動給を導入する。
③賃金カーブや人件費率の設定
例:年齢や等級に応じた賃金カーブを設計し、全体の人件費率を管理可能な範囲に収める。
具体的な数値に落とし込むことで、実現可能な賃金制度を構築します。

Step3 等級・評価制度との連動設計

賃金制度が等級制度や評価制度と適切に連動しているかを確認します。
等級・評価との連動性が不十分であると、社員の勤務・昇進に対するモチベーション低下につながるため、慎重に設計を行いましょう。

Step4 モデル賃金表の作成とシミュレーション

Step3と並行して、等級や評価ランクごとに、最小・中央値・最大値を示す賃金レンジ表を作成します。
この表を基に、以下のシミュレーションを行います。

①人件費全体の増減
例:新制度導入後の人件費が、目標とする人件費率に収まるかを確認。
②特定層の賃金変動
例:採用・定着させたい人材層の賃金が適切に設定されているかを確認。
「思ったよりも人件費が上昇してしまった」「思ったよりも評価・等級に応じたメリハリがついていない」
といったケースが発生する可能性があります。そのような場合にはStep2・Step3に戻って基準を再検討する必要があります。

Step5 更新プロセスの設計

賃金制度の改定後、運用をスムーズに進めるためのプロセスを設計します。以下の手順を参考にしてください。

①労働者代表者へのヒアリング
例:社員の意見を反映し、合意形成を図る。
②新制度の説明会開催
例:社員に対して新制度の趣旨や内容を丁寧に説明する。
③不利益変更への対応
例:必要に応じて弁護士や社労士と相談し、法的リスクを回避する。
④給与計算システムの検討
例:新制度に対応しやすい給与支払システムへと変更検討を行う。

よくある3つの落とし穴と回避策

制度改定時において実際に運用していくうちに気付くエラーは少なくないですが、特に注意すべきポイントを押さえておくことで、その可能性を減らすことができます。
ここでは3つの落とし穴と回避策を紹介します。

よくある3つの落とし穴と回避策

① 評価と賃金の連動不足と社員の理解不足

評価や等級が上がっても賃金が上昇しない場合、社員の不満が高まります。
特に、制度次第で、変更以前より給与が低下する社員も出てくるでしょう。
対策として変更後のシミュレーションを徹底し給与の増減を把握しておくこと、そして更新段階では、事前に合意形成を図ることが大事です。

② 不要な手当の温存による人件費の膨張

不要な手当を見直さないと、人件費が予想以上に膨らむ可能性があります。
手当を棚卸しし、成果連動型のインセンティブに置き換えるなどの対応が必要です。

③ 事業戦略との不整合

賃金制度が事業戦略と連動していない場合、期待する成果が得られません。
例えば中長期的に強化していきたい職種の給与が低ければ、採用・定着は難しくなります。
設計前に、事業戦略を明確化し、それに基づいた賃金制度を構築しましょう。

さいごに

賃金制度は、社員のモチベーションや生産性に影響を与える、企業経営において欠かせない重要な仕組みです。その設計が適切であれば、社員のやる気を引き出し、能力を十分に発揮させることができ、結果として企業全体の生産性向上や成長につながります。賃金制度は単なる報酬の仕組みではなく、企業が発展するための基盤として機能するものなのです。本コラムをご参考に、自社の賃金制度を作成―運用―更新するステップを明確にしていただけますと幸いです。

この課題を解決したコンサルタント

桑島 凜

タナベコンサルティング
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桑島 凜

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