人事コラム
人材育成

階層別研修の目的と設計手法

今の階層別研修は時流と自社の戦略にマッチしているか?
階層別研修の在り方を見直し、人材力の底上げを図る。

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階層別に人材ビジョンを定義し、戦略に即した人材育成を実現する

階層別研修の目的・実施するメリット

階層別研修の目的・実施するメリット

「階層別研修」とは、役職や勤続年数などの基準で社員を階層に分け、それぞれの階層で必要な知識・スキルを身に着けてもらう研修のことを指す。代表的なものに、新入社員研修や管理職研修などがあり、例えば新入社員であればビジネスマナー、管理職研修ならマネジメントスキルといった、その階層に応じて必要な研修テーマを設定する。

階層別研修では、階層ごとに全員で同じ内容を学び一定のスキルを身に着けるため、チームや組織全体の「底上げ」を図ることが可能となる。その一方で、個人に合わせたレベルの設定が難しく、会社側が「これだけは身に着けてほしい」といった最低限の内容に絞りコンパクトに実施するケースが多い。

階層別研修と似て非なるものに「選抜研修」がある。選抜研修は、ある階層から次の階層に上がるにあたり必要とされる知識やスキルを身に着けるための研修を指し、幹部候補など優秀な社員を「選抜」して集中的に学ばせるような内容である。こちらは「引き上げ」を目的としていることが階層別研修との大きな違いである。

階層別研修は全体の底上げを図りながら、受講対象者が階層ごとに求められている役割を認識し、早期活躍に繋がることや、同じ階層同士のコミュニケーション機会創出により組織の活性化を図ること、また実施側のメリットとしては階層ごと一斉に研修を実施することによるコスト削減が挙げられる。

階層別研修の実施内容・実施方法は、定期的に見直しを図るべき

階層別研修の実施内容・実施方法は、定期的に見直しを図るべき

階層別研修は、前述の通り多面的なメリットがあるため、以前から多くの企業が取り入れている教育手法である。しかし実態を見ると、教育体系構築時から研修内容が変わっておらず、形骸化している企業も少なくない。実際に人事担当者から「15年前から同じ内容で実施している」「実務とは乖離がある」といった話もよく聞く。

もちろん、企業理念のような普遍的な概念や知識・スキルも必要であるが、会社の方針や戦略は毎年変わるのに対し、社員が学んでいる内容は15年前と全く同じようであれば、果たして効果はあるだろうか?必然と会社の戦略や実務から乖離してしまう恐れがあることを認識しなければならない。

また、働き方に合わせた効率的な実施手法の検討も必要な視点である。例えば、テレワークの普及によりリモートで研修を実施し始めた会社は多いだろう。しかし、Web会議システムの特徴を踏まえて研修の内容も見直しをかけなければ、かえって受講者の負担は増加し、研修効果が半減してしまっている場合もある。

もしも今実施している研修が形骸化し「年間行事」に留まっていたり、見直しは図っているが今いち効果が実証されず現場の参加率も低いといった課題があるようであれば、階層別研修の抜本的な改革が必要だと言えるだろう。

時流と自社の戦略を踏まえた階層別研修を設計し、手法をデザインする

階層別研修を設計、または見直しを検討する際の実施手順は、下記の通りである。

1.階層ごとの人材ビジョン(期待する役割)と、必要な知識・スキルを明文化する
階層別研修の設計に最も重要なのが、各階層の期待する役割を定義することである。併せて、期待する役割を果たすために、「どのような知識・スキルが必要か、どのような職務姿勢で臨んでほしいか」を事業戦略と連動させて具体的に落とし込む。
これにより、学ばせるべき内容が階層ごとに体系化され、事業の発展に貢献する人材を着実に育成するための教育カリキュラムが構築できる。また、この人材ビジョンは社員にとって目指すべき指針・キャリアステップとなるため、社員に示すことで主体的に学ぶ環境の整備にも繋がる。

2.上記で設計した人材ビジョンを実現するための研修テーマを設計する
次に具体化された人材ビジョンと現状の実態を照らし合わせ、あるべき姿とのギャップを明確にする。このギャップを改善するための研修テーマを設計することが必要である。また、いきなり全ての階層に対し研修を実施することが難しければ、どの階層から着手するかを優先順位付けし、選択する必要がある。一般的には企業経営に関わるマネジメント層から実施することが望ましいとされているが、人材ビジョンとのギャップが最も大きい階層から実施することで、より大きな効果を得られることが期待できる。

3.研修テーマを効果的・効率的に学ぶための手法を設計する
研修の効果・効率を上げるために、研修の目的や内容に合わせた実施方法をデザインする。初めに考えるべきは「社内研修」か「社外研修」であるが、それぞれメリット・デメリットがあるため、ここを押さえて検討していただきたい。



上述した通り、社外研修は受講者が刺激を受けられるといったメリットがあり、一般的な内容であるマナー研修やアカウント知識(ビジネス計数)やマーケティングなどのビジネススキルは社外研修を上手く活用することで効率的に教育体系を構築するこができる。
しかし自社のビジネスモデルや実務に即した内容を実施する場合や、参加対象者が多い場合には社内で実施することが一般的だといえる。
社内で実施する際に気を付けたいのは、研修をインプットのみで終わらせないことである。具体的に言うと講義の後には必ずグループワークや実践(体験)を通して、学んだ内容を実務へと紐づけ、参加者が腹落ちするよう誘導することが重要である。次に、実施する内容を踏まえ、Webによるリモートか、温度感が伝わり易い集合研修かといった研修環境を検討する。ここで述べている手法や環境についてもメリット・デメリットがあるため、研修の目的・内容に合わせて検討する必要がある。



4.学んだ内容を実務で活かすための仕組みを構築する
どんなに素晴らしい研修を実施しても、やりっぱなしになってしまっては研修の効果は薄れてしまう。参加者の実務における変化を確認し、研修の効果を測るまでが教育担当者に求められる役割である。そのための施策として研修の中でアクションプランを策定し、定期的に実施状況を確認したり、階層別のスキルマップを用いて研修前と研修後の成果を確認したりなど、現場で効果を測れる仕組みを導入するで研修の効果を高めることが可能となる。

主な階層別研修と実施テーマの着眼

ここからは、代表的な階層別研修に対し、主な内容とトレンドとして取り入れるべきポイントを記載していく。
これから新しく階層別研修を取り入れる企業はもちろんのこと、見直しを検討している企業も参考にしていただきたい。

■新入社員研修
実施するべきポイントは学生気分を払拭し社会人としての意識改革を行うことである。入社時の教育は、その後の成長スピードや定着率に大きく影響するため、社外教育も活用しながら丁寧に実施していくことが求められる。経営理念の理解や一般的なビジネスマナーの習得は当然必要不可欠だが、今の時代に求められる新入社員としてのリーダーシップ(主体的な報連相)や論理的思考力、また実務を遂行する上での必要知識・スキルなど、アウトプット重視の幅広いカリキュラムによって主体性を育むことが重要である。

■若手社員研修
様々な企業の課題として挙げられる「入社5年以内の離職」の大きな要因は、若手社員が自身のキャリアプランを見通せていないことにあるという。言い換えればキャリアに対する自身の意思を込めることができていない現状があると言える。この課題を乗り越えるために、会社から若手社員に「組織への貢献」と「自己実現」の両方を追い求めていくための考え方や能力を身に着ける機会を提供することで、若手社員の定着・活躍を促進することに求められる。また、この年代にOJT教育担当者を任せるための研修を行うことで、新入社員の指導を通じて責任感が醸成され、自身の成長にも繋がることが期待できる。

■チームリーダー研修(中堅社員研修)
新入社員と管理職に対する研修はほとんどの企業で実施されているが、チームリーダー(中堅)の層に対する研修を実施している企業は実は少ない。そのため、中堅社員はチームリーダーを担いながらも一般のプレイヤー視点から脱却できず、役割遂行が上手くいかずに悩んでいるケースが多い。中堅社員がリーダーとして力を発揮するためには、まず会社がどのような成果を求めているのかといった役割認識が必要である。そのうえで、目標達成の意識をもって積極的に問題解決に立ち向かい、そして会社の方針をチームに落とし込んで動力に変えていく力を身に着けていく必要がある。当然、プレイングマネージャーとしてのスキルやフォロワーシップは必須である。

■管理職研修・役員研修
現代の厳しい経営環境では、顧客価値を基軸に「変化を経営する会社」であることが企業存続において重要であり、これを支えるために管理職は臨機応変な意思決定と判断力を行うための「経営のバランス感覚」が求められている。経営のバランスとは、経営資源であるヒト・モノ・カネの最適配置と有効活用を行う「経営センス」と、事業において高収益・高成長を実現する「事業センス」の2つで成り立っており、この両面をバランス良く磨くことが重要である。また、近年の働き方改革や法令における最新情報を常にインプットさせ、会社を正しく導くよう指導することが重要である。

ここでは一般的な内容を記載しているが、重要なのは事業戦略や現場の課題を教育カリキュラムに反映することである。そのためには定期的に現場の意見をヒアリングし、現場とのギャップが生じないよう研修内容を設計することが必要である。

この課題を解決したコンサルタント

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