中小企業におけるガバナンス強化のポイント
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昨今、企業にとって不正や情報漏洩は致命的なリスクとなります。それらを未然に防ぐために必要なのが、ガバナンスです。2015年にはコーポレートガバナンス・コードが制定され、上場企業にとってガバナンス強化は避けられない課題として注目を集めております。中小企業においても例外ではなく、ガバナンスを強化することで様々なメリットを享受できます。本コラムでは、中小企業がガバナンスを強化するための具体的なポイントについて考察します。
ガバナンスの基本理解と意識向上
まずはガバナンスの基本的な概念を理解し、組織全体で重要性を共有することが必要です。
ガバナンスが効いている組織とは、ステークホルダーとともに目的に向かって持続可能な成長を実現している状態を指します。つまり、決して一方的に権力を行使している状態ではないということです。よく誤解されがちなのは、会社を所有する誰かがいて、その誰かに支配されるようなイメージを持たれていることが多くあります。単に内部統制の整備や運用状況に不備があるという意味だけではないと理解しておくことがガバナンス強化における第一歩といえます。
また、基本的な概念を理解したうえで、経営陣や従業員全体にガバナンスの重要性を共有する必要があります。その際、ガバナンスを徹底することによるメリットを改めて理解しておく必要があります。
ガバナンス体制を強化することによるメリットは大きく4点あります。
1点目はリスク管理の向上です。違法行為や不正行為などは企業にとって大きな損失となります。リスクを早期に発見し、適切に対処することで企業の持続可能性が高まります。
2点目は経営効率の向上です。不確実性が高く変化の激しい現代において、限られた経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)を適切にマネジメントすることは非常に困難になりました。ガバナンスを仕組みとして確立させることで、経営の意思決定が迅速かつ効果的に行われるようになり、経営資源の最適な配分が可能となります。
3点目は資金調達の容易化です。ガバナンス体制が整備されていることは、投資家や金融機関からの信頼向上へとつながります。長期的に見て企業価値が向上しやすく、持続可能な成長と利益の確保に寄与すると言えます。
4点目は従業員のモチベーション向上です。透明性が高く、公正な経営が行われている企業では、従業員のモチベーションも高まりやすく、生産性が向上します。
組織構造の明確化
中小企業では、組織構造が曖昧であることが多く、これがガバナンスの弱点となります。役割と責任を明確にし、組織全体を体系的に整備していく必要があります。経営陣、取締役会、監査役などの機能を適切に配置し、不正や誤りを防ぐための仕組みを確立することが重要です。特に、取締役会において独立した取締役が適切に配置されていることは、企業ガバナンスの健全性を高めるために非常に重要です。独立した取締役は、企業の経営陣から独立しており、客観的かつ公正な視点から企業の意思決定に関与する役割を果たします。
基本的な内部統制システムを構築することで、不正や誤りの防止が可能です。特に中小企業において必要な要素は3点です。
1点目は業務の分離です。企業内での不正行為やエラーを防止し、業務の効率化を図るため、特定の業務プロセスを複数の担当者に分担させることが重要です。例えば、取引の承認、実行、記録をそれぞれ異なる担当者が行うことで、一人の担当者が全てのプロセスを管理することによるリスクを軽減します。
2点目は承認プロセスの明確化です。これは、企業内での意思決定や取引に関する承認手続きを明確に定義し、文書化することを指します。具体的には、誰がどの段階で承認を行うのか、どのような基準や条件で承認が必要かを明示します。これにより、業務の透明性が向上し、不正行為やエラーのリスクが軽減されます。また、承認プロセスの明確化は、業務の効率化にも寄与し、迅速かつ適切な意思決定をサポートします。従業員が一貫した手続きを遵守することで、企業全体のコンプライアンス遵守が強化されます。
3点目は定期的な監査の実施です。定期的な監査とは、企業の業務プロセスや財務報告、内部統制の有効性を定期的に評価・検証する活動を指します。これにより、不正行為やエラーの早期発見、リスク管理の強化が図られます。また、内部監査と外部監査の両方があり、内部監査は企業内部の監査部門が行い、外部監査は独立した第三者機関が実施します。
デジタル化の推進
デジタル化は、ガバナンス強化においても重要な役割を果たします。中小企業においては、リソース不足や技術的な知識の欠如により、進展にはまだまだ課題が残ります。デジタルツールを活用することで、業務プロセスの効率化や情報の一元管理が可能となり、ガバナンスの質を向上させることができます。例えば、クラウドベースの会計ソフトやプロジェクト管理ツールを導入することで、リアルタイムでの情報共有や監視が可能となります。
デジタルツールやシステムを活用することで、業務プロセスの自動化やデータのリアルタイム監視が可能となり、意思決定の迅速化と正確性が向上します。例えば、ERP(Enterprise Resource Planning)システムやBI(Business Intelligence)ツールを導入することで、財務データや業務データの一元管理が実現し、経営陣はリアルタイムで企業の状況を把握できます。
デジタル化により内部統制の強化も図れます。例えば、電子承認システムを導入することで、承認プロセスの透明性が向上し、不正行為のリスクが低減されます。さらに、デジタル監査ツールを活用することで、定期的な監査が効率化され、監査の精度が向上します。
また、デジタル化はコンプライアンス遵守の強化にも寄与します。法令や規制の変更に迅速に対応できるシステムを導入することで、企業は常に最新の法令に準拠した運営が可能となります。これにより、企業の信頼性が向上し、ステークホルダーからの信頼も得られます。
総じて、デジタル化の推進はガバナンス強化に不可欠であり、企業の持続的な成長と競争力の向上に寄与すると言えます。
継続的な改善と学習
最後に、ガバナンスの強化は一度で完了するものではなく、継続的な改善と学習が必要です。定期的にガバナンス体制を見直し、改善点を洗い出して対応することが求められます。必要に応じて外部の専門家やコンサルタントの意見を取り入れることで、最新の手法や自分たちでは見えなかった課題を明確にすることができます。
各社で、その会社独自の良さがあり、社風があります。常に「身の丈に合ったガバナンス」を探求し続けることが必要です。ガバナンスはあくまでそこで働くヒトのためにあります。かけがえのない人的資本を守るためにあるものだということを念頭に置いて強化・改善に努める必要があります。
VUCAと呼ばれる現代において、中小企業でもどれだけヒトを巻き込み、自律的な組織をつくれるかは競争力を左右する大きな要因となります。そのため、ガバナンス強化は必要不可欠な要素といえます。
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