COLUMN

2023.07.14

組織再編に伴う税務上以外に
注意するポイントとは

  • ホールディング経営

組織再編に伴う税務上以外に注意するポイントとは

ホールディング・グループ経営など組織再編を検討するうえで、税務上の留意点について事前に対策を行う企業は多いように感じます。しかしながら、実務上においては税務以外にも多くの留意点があります。組織再編を行うことによる生じるリスクや懸念点、起こりうる問題点にて説明いたします。

間接部門の配置と従業員の異動手続き

ホールディングスを含む組織再編を行う際、会社分割、株式移転など、会社を新たに増やす手法が多く、結果としてグループ会社の数が増える傾向にあります。
グループ会社の数が増えてくると、必然的にグループ会社が独自で様々なことに対して意思決定を行う必要があり、それに伴い間接部門も自前で持つかどうか検討する必要があります。
組織再編前までは同じ社内に依頼できていた総務業務、経理業務、採用業務などを、自社内である程度完結させる必要が生じるため、グループ会社の増加に比例して、間接部門および間接業務も増加してくることが思料されます。

そうなると現在の人員では足らず、間接部門に新たな人員を採用することや、また新たな社内システムなどを導入する必要が生じ、思わぬコスト増となる可能性があります。
間接部門の増加とともに、グループ全体の管理部門をどの会社に置くのか、総務経理機能を各社に置くのか、親会社が全体を見る体制にするのか、各社の管理体制をどのようにしていくのか、そして、グループ企業全体の間接業務の効率化をどう図っていくのか、そちらも併せて組織再編の実行前に検討する必要があります。


また、組織再編を行う際には従業員への配慮も必要です。合併や会社分割で従業員が移転する場合、原則として労働契約が自動的に承継されるため特別な手続きは必要ありませんが、組織再編後の人員配置や、労働条件(給与や退職金、労働時間、福利厚生など両社が異なる場合、どのように統一するか)を検討の上、従業員へ丁寧に説明し、理解と協力を得ることが重要となります。また中小企業退職金共済制度や厚生年金基金、確定拠出年金など外部の退職金制度を導入している場合は問題なく移管できるかどうか、事前に調べておく必要があります。

従業員が転籍する場合の会社の退職金制度については、転籍前の会社を退職したことになるため、転籍時に退職金の支出を行うか、転籍後の退職時に支出を行うか、各社の負担をどのように算出するかなどを検討する必要があります。転籍前・転籍後の会社にとっての課税の取扱いが異なるほか、従業員にとっても勤続年数が通算されるかどうかによって退職所得の課税が異なるといったこともあるためです。

許認可問題

組織再編で事業移転を実行する際には許認可にも気を付けなければなりません。
特に建設業や派遣業のように、許認可がないと事業が行えない業種の会社が組織再編を実施する場合には、それぞれの許認可を主管する行政機関等に事前に問い合わせておく必要があります。
新たに設立する会社へ事業を移転させたいというニーズがあったとして、会社分割により新会社を設立し、事業に対応する資産負債はスムーズに移転ができたものの、その事業に関する許認可の取得が間に合わず、事業開始は数か月先といったこととなると当初の計画からは大きく外れ、今後の事業計画に大きな支障をきたす能性があります。

会社分割による許認可の承継の可否は主に以下3つのタイプに分かれます。
①所定の手続きを取れば自動的に承継されるもの(理美容業、飲食業など)
②行政庁の承認が必要なもの(ホテル・旅館業、パチンコ店など)
③再申請の必要があるもの(建設業、宅建業など)


会社分割では、分割会社から承継会社へ事業を分割する際、所定の届出のみで行政の承認が不要なケース、承認が必要なケース、再度取得しなければならないケースの3つがあります。
その組織再編行為が新設分割であるのか、吸収分割であるのかに加え、許認可の種類によって承継できるか否かが異なってきます。
会社法上は全ての権利義務を承継することになっていても、許認可は行政上定められているものであり、法律体系が異なります。そのため、組織再編により自動的に移転しない許認可が多く、建設業関連、酒税関係、運輸関係、医薬品関係、自動車整備関係など、許認可の移転手続きに数か月から1年以上かかるケースもあります。
許認可の承継は会社分割後に事業をスムーズにスタートできるかどうかを分ける重要なポイントになります。

債権者保護手続き

合併や会社分割を行う際は債権者保護手続きが必要となります。債権者保護手続きには、個別催告と公告があります。
個別催告は、組織再編を行う前からすでに取引のある金融機関や仕入先といった債権者に対して、組織再編を行うことを個別に知らせます。これにより、外部の債権者が組織再編を行うことを事前に知ることができ、債権者自身が不利益を被ることがないかどうかを判断することができます。
公告は、官報や日刊新聞紙、電子媒体を通じて組織再編を行うことを公に知らせることをいいます。会社法では、債権者による異議申し立ての機会が損なわれないように、原則として官報による公告と個別催告の二重の手続きによって債権者保護を図っています。

特に借入金が移転する会社分割では、この債権者保護手続きがスムーズに進むように、分割対象債権について、債権の債権者が分割承継会社もしくは新設分割設立会社とともに、もともとの債務者である分割会社に対しても請求できるようにするかどうかの検討も重要です。不動産の担保についても、債務者等の変更登記が必要となります。
組織再編に伴い金融機関からの融資が発生する場合などは、組織再編後の事業規模や業績が組織再編前に意図したとおりであり、組織再編前と比較し、業績悪化などマイナス要素がないことを示す必要があり、事業計画書の作成が必要となってくるケースもあります。融資を実行する金融機関は、その事業計画書に基づいて、組織再編後の事業の達成状況を数値で読み取り、収益弁済の実行可能性、融資実行可否の判断を行います。

ガバナンスの整備

株式交換や株式移転によるホールディングス化を行う場合には、税務面、法務面のみならず従業員の意識にも注意する必要があります。今までは資本関係は並列、つまり、兄弟会社の従業員同士、という共通認識があり、お互いに切磋琢磨できる環境であったものが、資本政策の一環でホールディングス化した際に、子会社の従業員が「将来的に自社はM&Aの対象となってしまうのではないか」「親会社の従業員の方が待遇がいいのではないか、出世が早いのではないか」といった疑惑を持たれてしまう恐れがあります。
更には、グループ経営にあたっては、人員体制の状況によっては上記のような出向や転籍といったことも行う可能性も出てきます。

そのような状態の中で、「自分や子会社に左遷された」「出世競争から外れてしまった」などといった従業員のモチベーション低下にも気を配る必要があります。
グループ企業全体が成長し続けるには親会社と子会社の間で健全な関係を築けるか否かも重要な要素です。そしてこのような健全な関係をグループ全体で築いていくことができるかどうかは、親会社の姿勢や行動次第ともいえます。
資本関係だけに依存した体制のみではいずれグループ経営の限界がやってきます。親会社の従業員の気持ちのみならず、子会社の従業員の気持ちを理解し、支援し、導いていくためにもグループ全体の状況を把握する経営陣の能力が必要となります。

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