ホールディングス化における
株式移転を解説!
株式交換との違いやメリット、デメリットも
- ホールディング経営
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成熟した日本マーケットで更なる成長・持続的発展を目指すには、さまざまな価値観を融合させる経営体制を築いていかなければなりません。ホールディング経営は複数の事業をミックスさせたポートフォリオモデルへ変革できるため、多様化するニーズにワンストップで対応できる可能性を秘めています。経営環境の変化に組み合わせを柔軟に適応できるホールディングス化に向けたステップとして今回は「株式移転」「株式交換との違い」やメリット・デメリットについて解説いたします。
Ⅰ.株式移転と株式交換との違い
株式移転とは、完全子会社となる会社の株主が保有する株式を新たに設立する完全親会社に移転し、旧完全子会社の株主に完全親会社の株式を割り当てることにより親子関係を成立させます。(図1)
株式交換とは、二つの会社間で一方の会社を親会社とし、他方を100%(完全子会社)とする手法です。(図2)
そのため、株式交換では既存の会社を親会社にするのに対し、株式移転は既存の会社の上に新たな親会社をつくる手法です。
さらに詳しく言うと、株式交換は既存の企業が他の企業の株式を取得する際に用いる手法であり、通常は合併や買収の一環として行われます。一方、株式移転は新たに設立されたホールディング会社に対して株式を移転するため、既存の株主はそのままの株式を保有し続けることができます。
[図1]株式移転ステップ
[図2]株式交換ステップ
Ⅱ.株式移転のメリット・デメリット
1.メリット
(1)経営の効率化
株式移転を通じてホールディングス化を実施することで、各事業部門が独立した経営体として運営されるため、経営の効率化を図ることができます。各子会社は自らの経営戦略を立て、迅速な意思決定が可能となります。これにより、競争力の強化や市場の変化に柔軟に対応することができます。
(2)専門性の向上
ホールディングス化により、各事業が専門的な知識や技術を持つ人材を集めやすくなります。これにより、各事業の専門性が向上し、競争力が強化されます。また、専門性の高い人材が集まることで、イノベーションの促進や新しいビジネスチャンスの発見にもつながります。
(3)リスクの分散
株式移転を通じてホールディングス化を実施することで、企業全体のリスクが分散されます。例えば、ある事業が不調に陥った場合でも、他の事業が健全であれば、企業全体への影響を最小限に抑えることができます。これにより、企業の安定性が向上し、持続的な成長が期待できます。
(4)資本調達の柔軟性
ホールディングス化された事業は、独立した会社として資本市場から資金を調達することも可能です。これにより、各事業が必要な資金を迅速に調達し、成長戦略を実行することができます。また、親会社としても、ホールディングス化された事業の株式を売却することで資金を得ることもできます。
(5)買取資金が不要
株式移転時の対価として株主に新設会社の株式を交付するため、充分な資金が無い場合も実施できます。
(6)株主全員の同意が不要
株主総会の特別決議で3分の2以上の承認を得ることができれば、少数株主を強制的に排除し子会社化することもできます。
(7)労働契約・許認可等の手続きが不要
資本である株主の変動のみ生じ、主体事業の変更やそれに伴う財産の移転はないため、手続きは不要となります。
2.デメリット
(1)コストの増加
株式移転には、初期費用や運営コストがかかります。新しいホールディング会社を設立するための法的手続きや、独立した経営体としての運営に必要なシステムの構築など、さまざまなコストが発生します。これにより、短期的には企業全体のコストが増加する可能性があります。
(2)経営資源の分散
株式移転により、経営資源が分散されることがあります。ヒト・モノ・カネに加え技術・情報などの重要な経営資源が分散されることで、各事業の競争力が低下するリスクがあります。これにより、企業全体の成長が鈍化する可能性があります。
(3)統制の難しさ
株式移転により、各事業が独立した経営体として運営されるため、親会社としての統制が難しくなることがあります。特に、各事業が異なる経営戦略を持つ場合、全体としての一貫性を保つことが難しくなります。これにより、企業全体の方向性が不明確になるリスクがあります。
(4)ブランド価値の低下
株式移転により、企業全体のブランド価値が低下することがあります。特に、親会社のブランド力が強い場合、ホールディングス化された事業が独自のブランドを築くのに時間がかかることがあります。これにより、顧客からの信頼を失うリスクがあります。
(5)競争の激化
株式移転により、同じ市場で競争することになる場合があります。例えば、親会社とホールディングス化された事業が同じ市場で競争することになれば、内部での競争が激化し、企業全体の利益が減少する可能性があります。これにより、企業全体の成長が阻害されるリスクがあります。
(6)手続きが煩雑
下記スケジュールのように、各種手続きを踏む必要があります。
①親会社と子会社の条件合意・株式移転計画の策定
②取締役会の承認・株式移転契約の締結
③事前開示書類の作成と備置
④株主総会の招集通知・株主への株式移転の通知
⑤株主総会の特別決議による承認
⑥反対株主の株式買取請求への対応
⑦株券提出手続の実施
⑧効力発生および登記
⑨事後開示書類の作成と備置
Ⅲ.まとめ
ホールディングス化における株式移転は、経営の効率化や専門性の向上、リスクの分散など、多くのメリットをもたらす一方で、コストの増加や経営資源の分散、統制の難しさなどのデメリットも存在します。
これらのデメリットに対しては、ホールディング全体で中長期ビジョンを策定し、グループブランディング、グループガバナンスや経営機能のシェアード化などスケジュールを明確にしていくことで課題に対処することが可能になります。
今後、自社が長期的に社会にどのような価値を発揮し貢献するかを確立し、その経営体制を整える必要があります。そのためのいち手段として単なる税金対策にせず、自社の目的をしっかりともってホールディング化を進めることをおすすめします。
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