DX戦略を活用した製造業のパフォーマンス向上

コラム 2024.08.19
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DX戦略を活用した製造業のパフォーマンス向上
目次

1. はじめに

(1)製造業を取り巻く環境

世界に目を向けると、ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエル・ガザ紛争、米中問題といった経済状況に影響を与える事態が勃発し、急速な円安が進む中で、輸入に頼る原材料やエネルギー価格の高騰だけでなく、部品不足や物流の混乱が起こっています。これにより、日本の製造業においても事業戦略の見直しを迫られている企業が多く発生しています。

また、日本国内では人手不足に加え、働き方改革により労働時間に関する規制が厳しくなり、受注があっても対応が追いつかない企業が散見される状況です。

さらに、観光立国を目指している日本では、サービス業がGDPの3割を超えていますが、製造業は減少傾向にあるとはいえ、雇用の約2割、GDPの約2割を担っており、日本経済の屋台骨であることは紛れもない事実です。

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令和4年度ものづくり基盤技術の振興
出典:令和4年度ものづくり基盤技術の振興(20P)

生産性に視点を移すと、日本の時間当たり労働生産性(=GDP/就業時間)は、1990年代には世界でもトップクラスでしたが、横ばい傾向が続き、OECD加盟国の平均値以下となりました。
2022年のデータでは、OECD加盟国38か国中30位まで低下し、世界の多くの国と比べて生産性が向上せず、非常に低迷した結果となっています。生産性の改善が急務と言えます。
出典:公益財団法人日本生産性本部 労働生産性の国際比較

(2) DX戦略とは?

① DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?
DXは、Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略で、スウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した概念と言われています。DXとは、広義で、デジタル技術を人々の生活に浸透させ、生活をよりよいものへと変革することを指します。つまり、デジタル技術を取り入れることで、改革を推進し、新たなビジネスモデルを創出することです。

② IT化との違い
デジタル化を推進する中でよく使われる言葉に「IT化」があります。ITは、Information Technologyの略で、日本語では「情報技術」と訳され、コンピューターやネットワークなどを使った技術を指します。IT化とは、「従来のアナログ業務をデジタル化して生産性を向上させる」ことです。DXが新たなビジネスモデルの創出を目的としているのに対し、IT化は既存業務の効率化を目的としており、大きな違いがあります。言い換えると、IT化はDX推進の一つのツールとも言えます。

③ デジタイゼーション、デジタライゼーションとの違い
DXに似通った言葉として、「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」があります。共に「デジタル化」を指していますが、それぞれの意味は異なります。デジタイゼーション(Digitization)は、特定業務のデジタル化、アナログ・物理データのデジタルデータ化のことです。デジタライゼーション(Digitalization)は、個別の業務・製造プロセスのデジタル化を指し、生産性向上のために業務フロー全体をデジタル化することを目指します。DXは、その上位にある戦略を指すもので、この関連性を理解することが重要です。

(3) DX戦略の視点が重要

今、ネックとなる工程のデジタイゼーション(IT化)を積み重ねるのではなく、目指すべきDXビジョンを持ち、デジタライゼーションやデジタイゼーションを進めるためにデジタル技術を導入するステップを踏むことが重要です。DX戦略を策定し、それを実現するためにデジタイゼーションで全体を押さえ、個別課題を解決するためにデジタライゼーションをデジタルツールを活用して実践する必要があります。

(4) 日本の製造業の生き残り策

前述の通り、日本の生産性は低下しており、世界的に見ても低い状況に加え、高齢者社会や若年層の製造業離れが進む中で、従来の考えを捨て、生産性の向上策と付加価値の確保が必須となっています。デジタル技術を活用して付加価値を創造し、生産性を向上させることが重要です。そのためにも、製造業ではDX推進が今後の成長のカギとなります。

2.製造業におけるDXとスマートファクトリーの違い

製造業としてDX推進で生産性を向上させるカギですが、類似した言葉にスマートファクトリーという言葉があります。

(1)製造業におけるDX(Factory DX)とは?

製造業におけるDXとは、AIなどのデジタル・ツールを駆使して生産性の向上を図り、社会や消費者が必要とするものを、高品質で提供できる体制を構築するために、業務プロセスや製品、ビジネスモデルを変革し優位性を確立して、より豊かな社会・生活を提案することと言っても過言ではありません。
従来は、属人的な知識や経験に依存していたものが、デジタル技術を活用することで、製造工程全般をデジタルデータで一元管理することが可能になり、既存のノウハウや属人化していた技術を標準化し、可視化することで、人に頼らない生産現場を実現できるようになってきました。
それにより、企業内のデータや情報の共有化が図れることで、日々変動する社会ニーズに対して、柔軟に素早く対応できる体質の構築が可能となりました。
これは、製造現場だけでなく開発プロセスも同様で、過去の開発実験のデータを積み上げることで、従来と比較して短時間での対応が可能となり、新たな製品開発に留まることなく、新たなビジネスチャンスを生み出すことができる環境を整えることができます。
これらを実現するためにも製造業におけるDX化導入が求められていると言えます。

(2)スマートファクトリー

ファクトリー・オートメーション(Factory Automation:FA)で製造工程の自動化を推進することですが、スマートファクトリーでは、製造工程だけでなく工場全体管理の効率化を推進することです。

つまり、AIやIoT技術、デジタル・ツールなどを活用して、製造工程も含めた工場全体の業務管理の効率化を指します。
スマートファクトリーでは、工場全体をデジタル技術で自動化、効率化するため、IoT技術を駆使して生産機器やラインのデータを収集し、AIを活用して最適化されたデータ分析を行うことにより、ラインの稼働状況や製品品質の改善、設備の予防保全などを行うことで、生産性の向上を図ることができます。

加えて、環境問題やエネルギーの効率化、省エネにも寄与することが可能で、社会問題に対する取り組みとしても注目されています。
製造業におけるDXとスマートファクトリーの違いは、DXが社会全体を豊かにするために企業のビジネスモデルを変革し、競争優位性を高めることを目的としているのに対し、スマートファクトリーは工場全体の業務管理を効率化することで、生産性を向上させることを目的としています。これらは相互に補完関係にあるとも言えます。

3.製造業のDX取組状況

独立行政法人 中小企業基盤整備機構の2022年と2023年の調べによると、DXに対する理解度は、「理解している」と「ある程度理解している」の割合が42.2%から54.0%と17ポイント以上増加し、浸透してきていると言えます。
また、理解度だけでなく、取組み状況も10.6%から17.4%と7ポイント近く増加しているが、「必要だと思うが取組めていない」または、「取組む予定はない」と答えた企業が減少はしているが、64.4%あり、DX導入が遅れていると言わざるを得ない状況です。

令和4年度ものづくり基盤技術の振興
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 中小企業のDX推進に関する調査(2023年)

4.製造業でDXが進まない理由

今まで、多くの製造業のご支援をしてきましたが、基本的に変化を好まない職場の一つと言えます。
製造現場の変革には大きな投資が伴うことが多く、現場の職人は、今あるものに工夫を加えて生産性向上に挑戦することが多く、現状の延長線上での改善に留まることが多いです。
そのため、製造業でDXが進まない理由として、下記が考えられます。
(1)現場の属人化
(2)変化を好まない風土
(3)DX知識を有する人材不足

5.製造業でのDX推進方法

タナベコンサルティングは、企業経営研究をし続けて65年。製造業の自社の経営にフィットしたFactory DXをワンストップ支援策として『Factory DX戦略策定コンサルティング』をご提案しており、ご紹介させていただきます。

(1)特徴

①現場研究で培ったオリジナルチェックリストを用いて、課題を網羅的に総点検(フィット&ギャップ分析)
②構想の大方針であるビジョンから計画策定までのDXプランニングを実施(経営との整合を外さない)
③アジャイル型で運用・検証・改善のサイクルを行うことでの実装支援、推進体制、人材育成を実施
④DX戦略構築でありながら、デジタル化に特化することなく、アナログの特性を活かした『デジタルとアナログの融合』の視点で、より効率的な企業経営を実現します。

(2)コンサルティングの基本ステップ

「現状分析」、「構想」、「設計」、「意思決定」、「実行運用」の5つのステップを想定し、社会課題や生産現場課題をAX(アナログ)&DX(デジタル)の両面から解決するためのDXビジョン~ロードマップを作成します。

タナベコンサルティングでは、第一ボタンの掛け間違えや、判断ミスを防ぐ意味からも、正しく現状を把握することに重きを置いており、PQCDMSの切り口で、現状のDX推進レベルを調査するところから始めます。

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製造業でのDX推進方法
出典:タナベコンサルティングにて作成

チェックリストのよる現状分析をベースにヒアリングやデータ分析を重ね、現状の課題を抽出し、目指すべきビジョンを設定することで、進むべき方向性を明確にします。
その上でビジョンを実現するための戦略をバックキャスティングで策定し、具体策へと展開していきます。

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製造業でのDX推進方法
出典:タナベコンサルティングにて作成

(3)成果物の『アクションプラン』の具体策イメージ

デジタルとアナログの両方に精通した専門コンサルタントがご支援するため、全体最適でのデジタルとアナログを融合させた最適なソリューションを工場全般に展開します。

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製造業でのDX推進方法
出典:タナベコンサルティングにて作成

6.最後に

前述の通り、日本の製造業は、将来が安泰と言い切れない状態にあり、人材不足などの社会環境から、製造現場でのIT化に留まることなく、生産管理のデジタル化を推進し、製造業の生産性向上を図り、スマートファクトリーを目指すとともに、視野を高く持ち、新たなビジネスモデルを構築するためにも製造業としてDX戦略からのバックキャスティングでアクションプランを策定することが重要となってきていることをご理解いただきたいです。

関連資料
AUTHOR著者
デジタルコンサルティング事業部
マネジメントDX チーフマネジャー
小谷 俊徳

現場のモラールにも着眼し、現場と一体で、自然とできる改善をモットーとしている。仕入れから生産管理・品質管理出荷までのトータル・マネジメント・システム構築を数多く経験。製造現場が納得のいく具体的な方法で改善を進め、コストダウンを中心に企業の収益改善に取り組む。現場のデジタル化やシステム導入支援の経験も豊富に有する。

小谷 俊徳
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