なぜ物流業のIT化が遅れているのか。IT化で得られるメリットを紹介。

コラム 2023.12.27
マネジメントDX 生産性向上 データ活用企業成長業務効率
なぜ物流業のIT化が遅れているのか。IT化で得られるメリットを紹介。
目次

1.物流の現状と課題

(1)物流業界の現状

世界的な物流で見ると最も規模が大きいのは海運です。つまり、コンテナを中心とする貨物船や天然資源輸送船など、海運による輸送の貿易が世界の経済を支えていると言えます。
しかし、国内に目を向けると営業収入が30兆円弱、就業者数は約2,257万人です。そのうち、トラック運送業の営業収入が一番多く全体の67.7%を占め、従業員数では全体の80%以上を占めています。つまり、日本の物流業はトラック事業によって支えられていると言っても過言ではありません。
一方で、海運事業は国内全体で約19.1%、外航海運業の規模も11.4%にとどまっています。また、着目したい点は大手企業の比率が低く、中小企業比率(資本金3億円以下または従業員300人以下)が全カテゴリーで高い点です。特にトラック運送事業が99.9%を占め、次いで内航海運事業の99.7%、倉庫業91%と物流業界は中小企業によって支えられていることが分かります。

経済産業省・国土交通省・農林水産省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」(2022年9月2日)P6にタナベコンサルティングが加筆
経済産業省・国土交通省・農林水産省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」(2022年9月2日)
P6にタナベコンサルティングが加筆

今後の物量の予測としてはGDPの伸びに対して鈍化しており、2025年度は2015年度比較で97.8%と減少予測にあります。しかし、営業トラック輸送量は増加が見込まれており、より一層トラック運送業の重要性が高まってきています。

出典:鉄道貨物協会「令和4年度 本部委員会報告書」(2023年5月)P52~P53
出典:鉄道貨物協会「令和4年度 本部委員会報告書」
(2023年5月)P52~P53 を基にタナベコンサルティング作成

(2)物流業界の課題

今後も経済が成長すれば、比例して物流業界も成長分野となります。しかし、多くの課題を抱え決して明るい成長業界として喜んでいられない環境にあり、経済成長のブレーキになりかねない危機的状態です。代表的な課題として下記4点が挙げられます。

①物流の「2024年問題」
②深刻な人手不足
③他業界と比較し「低生産性」
④立ち遅れているデジタル化

各課題のポイントを解説しその対策を後述します。

①物流の「2024年問題」
2018年に成立した「働き方改革関連法案」が順次施行されていますが、物流業界では猶予期間が設けられていました。この猶予期間が間もなく終了することから「物流の2024年問題」として、物流業界のみならず製造業やEC業界など多くの業界に影響が及ぶことが懸念されています。実際に、今年2023年の4月頃から多くの中小企業の働き方に影響しはじめています。法定割増賃金率が大手と同じ水準(月60時間超の時間外割増賃金率が25%から50%)に引き上げられたのに加え、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働に対して、罰則付きで上限規制(年960時間)が施行されました。

岡山県のとある製造会社では、これまで一台のトラックかつ一人のドライバーの運転で東京まで荷物を運んでいました。しかし、法改正によりこれが困難となるため途中で荷物を積み替えるか、ドライバー交代を余儀なくされる可能性が高くなり、対策を検討しています。つまり、今までは当たり前に届いていた荷物が届かなくなり、サプライチェーン全体の考え方を改めなければなりません。しかし、筆者が10年以上前にヨーロッパを訪れた際、現地では長距離トラックやバスに対して厳しい法的規制が既に施行されていました。連続運転時間や休憩時間、一日当たりの走行距離が決められており、高速道路などの検問で車のドライブレコーダーを調べることが日常的に行われていたのです。つまり、日本が直面している2024年問題は、世界に目を向けると10年以上前から発生しており、各国、各業者は既に対応し競争力を備えています。したがって日本の対策の遅れが見え隠れしているとも言えます。

②深刻な人手不足
前述の「物流の2024年問題」以前に、物流業界では人手不足が深刻な問題となっていました。過去には長距離ドライバーの収入が高いことから成り手も多かったものの、今では物流業界の賃金水準は全業界平均値よりも5~10%程度低い状態にあり成り手が減っています。
(経済産業省・国土交通省・農林水産省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」(2022年9月2日)P10)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sustainable_logistics/pdf/001_02_00.pdf

実際、トライバーの需要と供給予測では、2025年には供給が81.9%、76.3%と大幅な不足が予測され、前述のとおりトラック業界は成長予測であるものの、それを支えるドライバーが集まらない危機的な状態と言えます。

  2017年度 2020年度 2025年度 2028年度
需要量 1,090,701人 1,127,246人 1,154,004人 1,174,508人
供給量 987,458人 983,188人 945,568人 896,436人
不足 △103,243人 △144,058人 △208,436人 △278,072人

出典:鉄道貨物協会「令和4年度 本部委員会報告書」(2023年5月)P54

③他業界と比較し「低生産性」
「物流の2024年問題」と言われ人手不足が深刻な状態にあるのにも関わらず、労働生産性は著しく低い状態です。
低生産性を招いている要因として、積載率の低下と付加価値業務といった運転以外の荷待ちや付帯業務等の割合が多いことが挙げられます。実際の積載率も2020年に改善されましたが、トレンドとしては低下しており積載可能容量に対して半分も荷物を運んでいない状態です。つまり、積載率が下がると一回の運行あたりで運ぶ貨物量が減り、付加価値を生んでいない空気を運んでいるようなものとなり陸送ではこのようなことが頻繁に発生しています。一方で、海上輸送のコンテナでは積載率が100%近くの非常に高い状態まで積むことで生産性を上げています。

経済産業省・国土交通省・農林水産省『我が国の物流を取り巻く現状と取組状況』
出典:経済産業省・国土交通省・農林水産省『我が国の物流を取り巻く現状と取組状況』(2022年9月2日)P12

トラック輸送ではドライバーが運転している業務以外に荷物の積み下ろしを行うための荷待ち時間が発生したり、荷物を降ろしたりなどの付加価値が稼げない労働時間なども発生します。労働時間が法的に制限される中、これらの時間が長時間になるほど運転に割り当てられる時間と輸送距離が短くなります。

国土交通省「トラック輸送状況の実態調査結果(概要版)」(令和3年)P12
出典:国土交通省「トラック輸送状況の実態調査結果(概要版)」(令和3年)P12

④立ち遅れているデジタル化
2021年には政府が「デジタル庁」を創設し、マイナンバーカードの利活用の促進や行政手続きをオンライン上で行える仕組みづくりを進めるなど、政府のデジタル化を推進しています。実際、コロナ禍で各企業がテレワークやDX化を推進しています。しかし、スイスのビジネススクール国際開発研究所(IMD)が発表している2023年世界デジタル競争力ランキング(https://www.imd.org/centers/wcc/world-competitiveness-center/rankings/world-digital-competitiveness-ranking/)では、調査対象の64か国中でも32位にとどまっています。つまり、デジタル化の立ち遅れは物流業界だけでなく日本が世界的に遅れている状態にあると言えます。

加えて、前述したとおり物流業におけるデジタル化・DXへの取り組みの遅れも深刻です。帝国データバンクの調べによると、「DX」と言う言葉の意味を理解し取り組んでいる運輸・倉庫会社は、14%にとどまっています。DXに取り組んでいる企業の実施内容を見ると「オンライン会議設備の導入」が最も多く、次いで「ペーパーレス化」、「テレワークなどリモート設備の導入」「アナログ・物理データのデジタルデータ化」などが続きます。いずれもDX初期段階の取り組みでバックオフィス系の投資が中心であり物流に対する付加価値を生むための投資が見られません。(帝国データバンク「DX推進に関する企業の意識調査」(2022年1月))https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p220105.pdf

2.IT化で得られるメリットと具体策

これまで述べてきたとおり物流業の生産性は低く、それらを改革し生産性向上を図ることが急務と言えます。過去からの延長線上で経営を行っている企業は、前述の課題で示したような人手不足などの要因で倒産に追い込まれるケースも今後増えると予想されています。企業を安定的に継続させるためにもIT化推進が必須となります。

(1)2024年問題対策と人手不足対策

人手問題と言ってもアプローチ方法は多岐にわたります。その一例をご紹介します。

①倉庫ロケーション管理
各製品にバーコードを貼り付け、さらに置き場のロケーション管理を取り入れ入出庫をIT管理することで、繁忙期でも残業がほぼゼロとなり誤出荷も大幅に削減が可能です。

②積載効率の向上
液体で重量が重い荷物と重量が軽い異業種の荷物を事前にシステム等でマッチングすることで積載効率の向上が図れます。自社だけではできない領域ですが、帰り便のマッチングシステムと同様に重量と容積を登録することで協業配送が可能となります。

<異業種との混載の考え方例>

<異業種との混載の考え方例>
出典:厚生労働省「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」

③荷役時間の短縮
引き取り便の事前登録とナンバープレートの自動読込することによって適切なルートでバースまで誘導します。省人化を図るシステムやバースの混雑具合予測等の情報を共有することで最適化を図ることができます。

④位置情報等の活用でスケジュールの最適化
運送会社の多くは配送スケジュールをボード等に書いて可視化していますが、これはアナログな可視化でありIT化とは言えません。今後の配送予定もIT化して、最適なスケジュールを組むだけでなくリアルの位置情報の区分もすることによって、より一層緻密なスケジュール管理が可能となります。

⑤AIを活用した不在予測
個人配送では玄関まで行ってインターホンを鳴らさないと不在かどうかの判断がつきません。AIを活用することで不在配送の削減が期待できます。

(2)物流企業としての付加価値向上

①業界別のIT活用
各業界でニーズが違うためそれぞれに特化する必要がありますが、荷主にとってメリットの大きいサービスをIT活用によって付加価値を高めることも可能です。実際、航空エンジンを製造している企業では、修理に必要な部品がどの空港にあって、どのタイミングでメンテナンスを掛けるかなどの管理においてITを活用しています。機械部品メーカー、アパレルメーカーなどそれぞれの企業に対して、かゆいところに手が届くサービス展開をIT活用によって実現すれば今後の発展が期待できます。

②配送方法の最適化
倉庫内の搬送では、人が運ぶのではなくロボットで運ぶことによって、省人化を図るとともに、自動倉庫やロボットによる搬入搬出も可能となります。人が運ぶ場合、探す手間や時間の無駄が発生しますが、ITとロボットを駆使し受注から発送までの時間を大幅に短縮が可能です。実際のコンサルティング事例として、今までは当日出荷が午前11時カットしていたものが午後2時まで受付可能となり企業価値は飛躍的に向上しました。

③無人宅配
ドローンによる無人配送の実験も多くの地域や企業で行われています。この領域は官民連携でないと実現は難しいですが、物流の考え方を変える革命でもあります。

3.物流業でIT化を進める際のポイント

IT化を進めるためのステップを紹介します。

ステップ1:IT化ビジョンの策定
IT化を進めるにしても目的を明確にする必要がありますが、3年、5年後にどのような姿になっていたいのかのIT化ビジョンを確立することがスタートとなります。

ステップ2:IT化スケジュールの策定
何をいつまでにするのか、何が優先すべきことなのかを慎重に検討し、導入に向けたスケジュールを策定します。

ステップ3:ベンダー選定
多くの企業であれば自社ですべてのIT化を進めることは不可能です。物流業界を理解し、サプライチェーンも理解しているベンダーとの連携が不可欠となります。

ステップ4:進捗管理
ステップ2で策定したスケジュールに対する進捗は、プロジェクトを組んで管理し、各工程での責任者を明確にして進めなければいつの間にか遅れが発生します。

これらのステップを踏まなければ場当たり的なIT化の導入となり、結果的に非効率な業務となり、本来求めるべき生産性の向上や付加価値向上にならない可能性が高くなり注意が必要です。

4.最後に

現場のIT化推進に伴って、今導入されている基幹システムがそれに対応できているか確認も必要です。また、外部環境の変化が著しくかつ予測不可能な状況の中、経営には一層のスピードが求められています。適宜適切に持続的な成長を実現する経営判断を下すためには、リアルタイムの情報把握とデータ活用が必須です。"スピード経営"を実現するためにはまずシステム(ERP)を活用することで、一元管理されたデータから機動的な業績把握・事業変革への対応を全社視点から行える体制の構築も必要です。

タナベコンサルティングでは、物流業DX Cloud 経営プラットフォームコンサルティングをご提案しています。DX実現に向けたファーストステップとして、解決可能なパッケージシステムの運用を前提とした、効率的で標準的な業務プロセスの構築をご支援いたします。また、システム導入の前段で業務改革コンサルティングを実施することによって、業務の効率化・省力化を実現したうえでシステムの基盤を導入し、パッケージシステムの導入効果を最大限に引き出すご支援も可能です。物流業として、基幹システムからの見直しを行う際は、全社最適の視点からシステム(ERP)導入も一度、ご検討してみてはいかがでしょうか。

※当サービスは「ロジスティード株式会社」と「株式会社タナベコンサルティング」と「グローウィン・パートナーズ株式会社」が共同開発いたしました。
※当サービスは「ロジスティード株式会社」と「株式会社タナベコンサルティング」と「グローウィン・パートナーズ株式会社」が共同開発いたしました。
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AUTHOR著者
デジタルコンサルティング事業部
マネジメントDX チーフマネジャー
小谷 俊徳

現場のモラールにも着眼し、現場と一体で、自然とできる改善をモットーとしている。仕入れから生産管理・品質管理出荷までのトータル・マネジメント・システム構築を数多く経験。製造現場が納得のいく具体的な方法で改善を進め、コストダウンを中心に企業の収益改善に取り組む。現場のデジタル化やシステム導入支援の経験も豊富に有する。

小谷 俊徳
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