現在の物流業界では、生産性の低さや2024年問題など対応すべき課題が様々存在します。本コラムではこれに対応するため我が国はどのような取り組みを行っているか、またそれに対応するため物流業者に求められるアクションをご紹介します。
物流業界における課題 ~低い生産性と物流の2024年問題~
現在の物流業界において、深刻な人手不足が大きな問題となっています。
この要因の一つに他業界の比べ著しく低い労働生産性があります。
これは、インターネット通販等のEC(電子商取引)市場の急拡大に伴うラストワンマイル(配送の最終拠点から注文した顧客に届くまでの区間)の配送ニーズが増加していることや、近年の消費者のニーズの多様化に伴う多品種・小ロット輸送の増加によってトラックの積載効率を低下させていることが要因として挙げられます。
実際に、物販系分野のBtoC-EC市場規模は2013年~2021年の8年間で2倍以上に増加しており、特にコロナ禍に突入した2019年~2020年の1年間では2割強に拡大しています。
また、貨物自動車の積載率は2019年から2020年にかけ向上しているものの、それでも40%以下の低い水準で推移しています。
経済産業省・国土交通省・農林水産省 『資料我が国の物流を取り巻く現状と取組状況』
EC市場規模の推移:P.11 貨物自動車の積載率の推移:P.12
さらにこのような生産性の低さに加え、日本の生産年齢人口減少に伴うトラックドライバーの高齢化や、2024年4月1日に施行される働き方改革関連法により時間外労働時間に上限が規制されることによるトラックドライバーの担い手不足(いわゆる「物流の2024年問題」)も課題として挙げられます。
このように、現在の物流業では、荷物があるのに運び手がいない「物流クライシス」の問題が目前に迫っています。
本コラムではこれらの課題への対応が喫緊に差し迫っている物流業者、特にトラック等の陸運業者およびそこに関わる倉庫業者におけるDXについてご紹介します。
物流業における課題への我が国の対応
『総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)』について
これらの物流業への課題に対し、国土交通省では『総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)』において、「①物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(簡素で滑らかな物流)」「②労働力不足対策と物流構造改革の推進(担い手にやさしい物流)」「③強靭で持続可能な物流ネットワークの構築(強くてしなやかな物流)」の3テーマを柱とし、対応策の検討・推進を掲げています。
具体的には、「物流デジタル化の推進」や「自動化・機械化への取組の推進」、「物流・商流データの基盤構築や物流MaaSの推進」「過疎地域におけるラストワンマイル配送の持続可能性の確保に向けた貨客混載やドローン物流の社会実装」「中継輸送の普及」等を掲げています。
スマート物流
これらのうち、特に「①物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(簡素で滑らかな物流)」を実現すべく、国土交通省では戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一貫として、「スマート物流サービス」を推進しています。
「スマート物流サービス」とは、「物流・商流データ基盤」を構築し、サプライチェーンにおける様々な企業の大量で多様なデータを収集・提供することで、サプライチェーン全体の最適化を図り、物流・小売等の業界における人手不足と低生産性の課題を解決するプロジェクトです。
具体的には、各運送事業者が物流・商流データ基盤へ運送能力情報を登録し、これとメーカーや卸・小売業の荷送人・荷受人によって登録されるデータをプラットフォーム内でマッチングさせます。これによりサプライチェーンの上流から下流までのデータが連携され、共同運送の場合は積載率向上や配車台数抑制、共同保管の場合は入庫日および受注曜日の統一、要員配備の最小化、メーカー間の障壁排除といった生産性向上が期待されます。
戦略的イノベーション創造プログラム(国土交通省)
『戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 「スマート物流サービス 」最終成果報告書(概要)』 P.4、5
このデータ基盤を活用することでサプライチェーン全体の最適化を図り、「サスティナブルな物流・商流」「廃棄ロス削減」「フィジカルインターネット」「省力化・省人化」「商品の安全・安心の提供」といった新たな価値創造を目指しています。
このうちフィジカルインターネットは、インターネットにおいて通信データがパケットごとに分割され、パケットのやりとりを行うための交換規約(プロトコル)を定めることにより、回線を共有した不特定多数での通信を実現する考え方を物流にも適用しようという考え方です。これにより物流リソースを共有化してモノのやりとりが可能となり、トラックの積載効率向上など生産性向上が期待されます。
この実現のためには、輸送容器の標準化やハブ施設での効率的な積替作業の他、トラックやハブのキャパシティ等の供給情報、貨物の量や行き先等の需要情報を適時物流・商流プラットフォーム上で共有することが必要です。
国の施策に対して、物流事業者が取り組むべきこと
物流業者が生き残るためには営業活動によってお客様を探すのではなく、プラットフォーム上でお客様から選択される事業者になることが求められます。
では、この実装に向けて、我々物流業者はどのような準備に取り組むべきでしょうか。
上記に示した通り、物流事業者は正確な配車や積載、運送を実現するためには、物流・商流データプラットフォームへ車両の位置情報や運送能力情報を常にアップロードし続ける必要があります。また、出荷場所や荷届先、荷姿情報等のお客様からの運送依頼情報をプラットフォーム上で授受できる体制を整備することが求められます。そのためにはまず、TMS(配送管理システム)の導入などにより、これらに関連する情報のデータ化と、そのデータをプラットフォームへ連携するための体制構築が必要です。
例えば下記4点が挙げられます。
1.運送依頼情報のデータを受領するための顧客情報やオンライン受注体制の構築
2.スムーズな配車手配のためのオンライン上での配車手続きと運送情報管理
3.ドライバーの納品完了情報
4.車両台帳等のマスターデータの整備および配送用トラックへのGPS設置による位置情報の取得
一方、倉庫事業者側に求められることはハブ施設でのスムーズな荷積み・荷下ろし作業です。これを実現するためにはWMS(倉庫管理システム)の導入等により、倉庫内の在庫管理や入出荷管理をシステム上でタイムリーに管理することが必要となるでしょう。さらにバース予約サービスシステムの導入により、トラック到着前に積載荷物を準備が可能となりドライバーの待機時間や接車時間の短縮が期待されます。また、AIによる荷物データ自動収集や、自動荷下ろし技術の活用によりスムーズな荷積み/荷下ろしが可能となるでしょう。
倉庫事業者においてはこのようなシステム化・データ化と同時に、パレットの標準化などアナログ分野の改善による効率化も重要です。
このように、物流業者が選ばれ生き残るためには、サプライチェーンの一部として溶け込み、全体最適な経営体制の構築が求められます。
物流の効率化の事例
ここからは、「運行管理や伝票管理のアナログ管理からシステム管理へのシフトにより効率化に成功したエースカーゴの事例」と「グループ全体最適でサプライチェーンマネジメントを構築したイオングループの事例」、現在実証実験段階ではありますが「トラックの荷積み・荷下ろし作業の自動化により、効率化を実現する豊田自動織機の事例」の3つの事例をご紹介します。
運行管理や伝票管理のアナログ管理からシステム管理へのシフトにより効率化に成功したエースカーゴの事例
小規模運輸業を運営するエースカーゴ株式会社では、人手不足の最中、運行管理や伝票管理は手書き等アナログあり、その帳票も統一されていなかったため、業務効率化が急がれる状況でした。
そこで同社は社内帳票フォーマットの統一し、また、荷主・事務所・倉庫・配送先等をクラウド上で共有することでリアルタイムで状況把握ができる環境を構築しました。
この取り組みにより作業効率の向上や不要な確認作業の削減が達成されたのみでなく、積荷情報がリアルタイムで確認できるようになったことによる積み忘れの解消や、運行管理が見える化されたことで取引先の配車からエリアごとの配車に切り替えたことによるトラックの稼働率向上も図ることができました。
厚生労働省 自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト トラック運転者の改善事例
グループ全体最適のサプライチェーンマネジメントを構築したイオングループの事例
全世界で20,008の店舗数(2023年5月現在)を誇るイオングループでは、サプライチェーンに関わるグループ会社としてイオングローバルSCM、イオン九州、イオントップバリュ、イオン商品調達の4社を中心に2000年代前半よりグループ全社最適のためのサプライチェーンマネジメント改革を実施してきました。
WMSはTMS(配送管理システム)とも連携されており、配送車両に積載された商品の荷受け・荷下ろし情報を管理管理しています。また、コネクティッド基盤を通じて車両の走行データを蓄積し、最適なルート設計に活用しています。
さらにイオングループでは、このようなシステム管理・データ管理のみに限らず、積載率効率化のためにパレットの取っ手の位置まで見直すなど、改善検討を行っています。
これらの取り組みの結果、局所的ではあるものの、運送車両の総走行距離が10%~15%削減されるなど、大きな効果が現れています。
【書籍】日本経済新聞出版『物流革命2023』P.43 日立評論『ロジスティクスソリューションの最前線ーイオン株式会社、アスクル株式会社における先進事例-』
トラックの荷積み・荷下ろし作業の自動化により、効率化を目指すトヨタL&F(豊田自動織機)の事例
トヨタL&F(豊田自動織機)ではこれまで難しいとされてきたトラックへの荷積み・荷下ろし作業の自動化に取り組んでいます。
自動アンローディング/ローディングロボット「ULTRA Blue」は、画像処理でケースの輪郭を認識し、ケースサイズに応じて、縦積み/横積みの最適な方式を選択し、コンテナ内に積込みます。アンローディングでは、画像処理でケースの輪郭を認識し、積込み状況を検出する。画像認識後、最適な荷下ろし順序を決定し、荷下ろしを行うことができます。この技術で最大毎時1,000ケースの処理が可能となりました。これにより、ピッキング作業の効率化が図られ、更なる物流の円滑化に貢献されるものと期待されるでしょう。
国土交通省 『物流・配送会社のための 物流DX導入事例集 ~中小物流事業者の自動化・機械化やデジタル化の推進に向けて~』 P.11
商品カタログ
現在の物流業界では、担い手不足への対策や生産性向上のための施策が急がれるなか、サプライチェーンの全体最適のため、「スマート物流サービス」を推進しています。これからは物流・商流データプラットフォームの中で商取引を行うことが求められ、これに対応できない物流業者は淘汰されてしまう懸念もあります。
自社の経営効率化や業務効率化を図るのみでなく、これからの物流業界で生き残り、選ばれる業者になるためにもDX推進を検討してみてはいかがでしょうか。