人事コラム

コンサルタント一問一答人事制度・人事処遇制度

人事制度改定ロードマップ
半年で進める人事制度再構築スケジュール完全ガイド!

短期間スケジュールでの人事制度構築のポイントを押さえる

時間的制約がある中での人事制度見直しは容易なことではないが、現状の課題を的確に見極め、優先順位をつけて取り組むことで短期間でも着実に成果のある制度改定が可能となる。

人事制度の重要性

人事制度の重要性

人事制度とは、社員のキャリア形成、評価基準、賃金体系、昇格・昇給など、組織内での人材マネジメントに関するルールや仕組みを体系化したものである。単なる処遇のルールを定めるだけでなく、社員の能力向上や成長を促進し、企業の経営戦略を支える重要な役割を果たす。制度を通じて、「何を評価し、どのように処遇に反映させるか」を明確化し、会社の価値観や社員に求める姿勢を制度に一貫性を持たせることで、公正な評価と処遇を実現し、会社として目指している方向性(ビジョン)と個人が進む方向性のベクトル(キャリアや行動)を合わせることに繋がる。

近年、働き方の多様化、価値観の変化、技術革新、人材の流動化など、企業を取り巻く環境が急速に変化している。このような状況下では、従来の人事制度では企業の成長や社員の成長に対応しきれず、人事制度そのものが形骸化しているケースが増えている。また、社員の期待に応えられず、安定した人材の定着が難しくなる企業も少なくない。そのため、制度の見直しは「時代への適応」と「企業の持続的成長」を両立させ、多様な人材が活躍し成長できる組織づくりの第一歩として重要な取り組みである。

本コラムでは、このような背景を踏まえ、来期に向けた制度改定を進めるための設計ステップと成功のポイントについて解説する。

人事制度の見直しを検討すべき4つのタイミング

自社の人事制度が現在の組織の実態や従業員の働き方に合っているかどうかを見極めるためには、以下の4つの見直しが必要となるサイン(タイミング)に注目するとよい。


①企業の規模が急拡大、または事業方針が転換したとき

従業員数が急増し、従来の阿吽の呼吸や経営陣の主観だけで評価することが困難になった場合、また新規事業への進出やビジネスモデルの変革に伴って求める人材像・役割が変わったときは、制度の見直しが必要である。


②従業員から評価や報酬に対する不満が出ているとき

「なぜ自分がこの評価なのか基準がわからない」、「いくら成果を出しても給与に反映されない」といった不満が社内で燻っている、あるいはそれが原因で優秀な若手・中堅社員の離職率が高まっている場合は、評価制度の客観性や透明性が失われている危険信号である。


③法改正や労働環境(外部環境)が変化したとき

働き方改革関連法の施行や同一労働同一賃金(正社員と非正規雇用の不合理な待遇差解消)への適応など、法的な遵守義務を果たすための改定が必要である。また、リモートワークといった新しい労働環境における成果管理の仕組みづくりも求められる。


④経営陣の世代交代や企業ビジョンが刷新されたとき

事業承継によって新しいトップが就任した際や、第2創業期として企業ビジョン・パーパスを刷新したときは、全社に新しい価値観を浸透させ、社員の行動変容を促すために、評価・等級や基準そのものをリニューアルする最適な機会となる。

等級・評価・報酬の「三位一体」設計

人事制度の見直しを評価シートの項目を少し書き直すだけの部分的な変更で終わらせてはいけません。
人事制度は、以下の3つの要素が三位一体として相互に強く連動して初めて、その機能を発揮します。


①等級制度(役割・期待の定義)

会社としてどのような能力、役割、責任範囲を求めているかを明文化し、格付けする制度です。人事制度の土台(骨組み)となります。


②評価制度(成果・行動の測定)

等級ごとに定義された期待値に対して、実際のパフォーマンス(業績・能力・発揮された行動)がどうだったかを客観的に評価する仕組みです。


③報酬制度(貢献への処遇)

評価制度によって測定された結果に基づき、月例給与、諸手当、賞与(ボーナス)などへ適切に反映させるルールです。


この3つのうち、どこか1つでも連動が切れてしまうと(例:高く評価されているのに、等級や給与が上がらないなど)、不公平な制度として社員の納得感は一気に失われます。全体の一貫性を意識して設計することが絶対条件です。

人事制度改定ロードマップ

人事制度改定ロードマップ

半年間で人事制度を見直す際には、以下のステップで進めることを推奨する。
短期間で進める必要があるが、適切なプロセスを踏むことで効果的な制度改定が可能である。


(時間的余裕がある場合は1年間の検討期間で進めることを推奨する。)


STEP1:現状診断・ギャップ分析(所要期間:2ヶ月)

制度設計の第一歩は、現状を正確に把握することである。人事制度を通じて「会社が目指す姿」「社員に期待する行動や成果」を明確にすることが重要である。現行制度がどのように機能しているか、社員の満足度や課題感、経営層の期待値などを多角的に分析し、現状と理想の間にあるギャップを洗い出す。このプロセスを丁寧に行うことで、具体的かつ現実的な制度設計が可能になる。


STEP2:優先順位の明確化(所要期間:1ヶ月未満)

現状分析をもとに、制度改定のゴールを設定する。「どのような人材を育成したいのか」「どのような行動を評価したいのか」といった具体的な目標を定めることで、制度設計の方向性が明確になる。また、短期間での改定を成功させるためには、すべてを一度に見直すのではなく、優先順位をつけることが重要である。


STEP3:設計コンセプト策定(所要期間:1ヶ月未満)

次に、制度改定の「軸」となる設計コンセプトを策定する。経営理念や経営戦略と制度を結び付けることで、制度全体に一貫性を持たせることができる。たとえば、「挑戦を評価する文化を醸成する」「成果とプロセスの両方を重視する」といった方向性を明確にすることで、あるべき姿に向けた制度を構築できる。


STEP4:制度構築(所要期間:2ヶ月)

ここから、具体的な制度設計に入る。評価制度、賃金制度の要素を設計していく。
短期間での改定を行う場合は、全てを変更するのではなくSTEP2で整理した優先順位に絞って進めることを前提とする。


STEP5:新制度導入シミュレーション(所要期間:1ヶ月)

設計した制度をそのまま導入するのではなく、事前にシミュレーションを行い、運用上の課題を洗い出す。たとえば、評価制度であれば、実際の社員データを用いて評価結果を試算し、処遇への影響を確認する。これにより、制度の実効性を検証し、必要に応じて修正を加えることができる。

短期間での人事制度再構築を成功に導くためのポイント

短期間での人事制度再構築を成功に導くためのポイント

短期間での制度改定を成功させるには、プロセスそのものを効率的かつ効果的に進めることが重要である。
そのために、以下の3つの観点から、人事制度再構築を成功に導くための具体的なポイントを解説する。


1.円滑な意思決定

意思決定のスピードと質が制度改定プロジェクトの成否を左右するといっても過言ではない。特に、経営層との合意形成が遅れてしまうと、スケジュール全体に影響を及ぼす。このような事態を避けるために、まずは経営層と人事部が初期段階からゴールを共有し、判断基準の目線を合わせておくことがとても重要である。そのためには、誰がどの段階で意思決定を行うのかといったフローを明確にし、正確かつ迅速な判断が不可欠である。また、経営層と定期的なミーティングの機会を設定し、進捗状況の共有を行うことが必要となる。

関係者間での認識のズレを最小限に抑え、一つ一つを迷わずに丁寧に進めることが成功への近道であると認識いただきたい。


2.現場の巻き込み方

制度は、運用されて初めて機能し、運用してから見えてくる課題や改善点は少なくない。現場の声を反映しない制度は形骸化しやすく、社員のモチベーション低下を招く恐れがある。現場の社員がその制度をいかに納得しているか、実践することができるかが、制度の浸透・定着に大きく影響する。そのため、現場を早い段階から巻き込み、制度設計に参画してもらうことが重要である。

具体的には、各部門の管理職や影響力のある社員などのキーパーソンを制度検討のプロジェクトメンバーに参加してもらい、「現場への伝達者」を担ってもらう。また、現状分析の段階で現場の管理職や社員にヒアリングを行い、現行制度の課題や新制度に期待することを把握し、現場の実態や課題感を制度設計に反映させることが必要である。


3.社内コミュニケーション

制度を設計するだけでなく、いかに丁寧に伝えるかが、構築における成果を左右する。
背景や目的を丁寧に説明し、社員への疑問や不安に応える対話を重ね、社員全員が意図を正しく理解し納得することが不可欠である。特に、短期間の改定となる場合、このタイミングで制度を見直す意味や新制度になって何に影響するのかを社員が理解していなければ、制度に対して不満や抵抗感を抱く可能性がある。

そのため、制度改定の目的や進捗を定期的に共有することや、導入前に説明会を実施し社員の疑問や不安に耳を傾けるといった透明性の高いコミュニケーションを意識していただきたい。透明性の高い情報提供と社員の意見を受け止めることが、限られた期間で安心して導入できる制度改定に繋がると言える。

人事制度見直しでよくある3つの失敗例と実践的な対策

タイトなスケジュールで進める改定だからこそ、よくある失敗を先回りして回避することが極めて重要です。ここでは代表的な3つの失敗例と、その具体的な対策を解説します。


失敗例①:評価項目が細かく、複雑すぎる

状態:公平性を求めすぎて評価項目が数十個に及び、評価者が基準を理解できなくなるケースです。結果として評価者の負担が激増し、形骸化を招きます。
対策:評価項目は経営戦略に直結する最重要の5〜7項目に厳密に絞り込みます。評価者が自信を持ってブレずに説明できるシンプルな評価のほうが、従業員の納得感は高まります。


失敗例②:評価基準が曖昧で、評価者の主観に偏る

状態:評価シートに積極的に業務に取り組んだかといった抽象的な項目しかない場合、評価者個人の主観によるエラーが発生し、社員の不信感を招きます。
対策:各項目に対してどのような行動、あるいはどの数値水準を達成すれば3点(普通)、4点(期待以上)なのかを具体化した行動基準を定め、合わせて継続的な評価者研修を実施して評価のブレを最小限に抑えます。


失敗例③:移行時の不利益変更への配慮不足による労使トラブル

状態:成果主義の導入などにより一部のベテラン従業員の給与が突然、急激に下がってしまい、労使間トラブルや優秀な人材の離職に繋がるケースです。
対策:移行前に個人別の給与シミュレーションを重ね、大幅な減給が発生する対象者には数年間の経過措置(激変緩和のための調整給支給など)を設け、納得性を高めるための個別説明を丁寧に行います。

さいごに

人事制度は、社員のキャリアを支え、企業の成長を後押しする重要な基盤システムである。
制度の見直しは容易なことではないが、現状の課題を的確に見極め、優先順位をつけて取り組むことで短期間でも着実に成果のある制度改定が可能である。
また、スピード感のある意思決定や現場の巻き込みは新制度の浸透・定着の向上に繋がる。
限られた時間の中で、焦点を絞って進めることこそが、短期間スケジュールで人事制度再構築を実現する最大の鍵となる。
人事制度を「会社の未来を描く仕組み」と捉え、現場で生きる制度設計を目指していただきたい。

よくある質問

人事制度の見直し(改定)には、一般的にどのくらいの検討期間が必要ですか?
全面的に制度を刷新する場合、企業規模にもよりますが通常は1年程度の準備期間を確保することが推奨されます。しかし、最優先課題に焦点を絞って改定を行う場合は、半年(6ヶ月)という期間でも再構築スケジュールを組むことが可能です。
人事制度の見直しを検討すべき最適なタイミング(きっかけ)は何ですか?
主に①組織規模の急拡大や事業方針・戦略の大きな変更、②従業員の評価や報酬に対する不満の顕在化・離職率の上昇、③労働関連法(働き方改革関連法や同一労働同一賃金)の改正への適応、④経営陣の世代交代や企業ビジョン・価値観の刷新が生じたときが最適なタイミングです。
人事制度はどのような要素で構成され、何から手をつけるべきですか?
人事制度は、一般的に等級制度、評価制度、報酬制度の3つの要素で構成されています。見直しの手順としては、等級制度(役割や期待の格付け)の設計、評価制度の基準、および結果に報いる報酬制度の連動ルールを一貫性を持ってスムーズに設計できるようになります。
人事制度の見直しで最も多い失敗例(トラブル)と、その防ぎ方は?
最も多い失敗は、公平性を追求するあまり、評価項目やルールを複雑にしすぎることです。これにより評価者の作業負担が膨らみ、制度が形骸化してしまいます。これを防ぐには、評価項目を経営戦略上極めて重要な5〜7項目に厳密に絞り込むことが有効です。
新しく作った制度を形骸化させず、社内や現場に正しく定着させるコツはありますか?
定着を成功させる最大のコツは、継続的な評価者研修(訓練)の実施と設計フェーズからの現場メンバーの巻き込みです。
人事制度を適切に見直すことで、企業が得られるメリットや効果は何ですか?
人事制度をビジョン・経営戦略と連動させて見直すことで定量的効果と定性的効果のメリットが得られます。

この課題を解決したコンサルタント

馬場 未優奈

タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部
コンサルタント

馬場 未優奈

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