資本政策実施の手順とポイントについて
- 資本政策・財務戦略
閉じる
「資本政策」とは企業経営において耳する場面はあるものの、具体的にどのような内容を検討し、どのように進めるのかイメージしにくい方も多いのではないでしょうか。今回は「資本政策」を進めるにあたっての手順とポイントについて考えていきます。
資本政策とは
そもそも資本とは、広義の意味では「ヒト・モト・カネなどを含み、財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本などに区分される事業活動に必要な要素」と定義されます。また、狭義の意味では「株式会社が株主から集めるいわゆる「資本金」であり、事業を行うのに必要な長期の資金」と定義されます。今回は狭義の意味での資本について考えていきます。
資本政策とは、株主から資金をどう集め、どのように活用していくかを決める財務戦略の一部のことを指します。企業経営に必要な資金、経営支配権等を、事業戦略や経営戦略に合わせて総合的に考える必要があります。
資本政策は主に3つの要素から構成されます。1つ目は、株主構成です。会社法に従い、経営支配権をどう確保していくかを決める必要があります。株主構成は、企業の方針決定に影響する議決権に関わるため、事業運営において理想とする株主構成を計画した上で検討する必要があります。2つ目は、資金調達です。事業の成長を加速させるために、どのタイミングでいくらの資金が必要なのかを計画を立て、準備する必要があります。3つ目は、キャピタルゲイン(創業者利潤)です。株式上場時等に経営株主がキャピタルゲインを得ることを指し、会社経営における創業者利益の確保が経営株主自身のインセンティブとなります。
非上場企業の資本政策に関しては、IPOを目指すか否かで考え方が分かれます。IPOを目指す場合は、株式上場に向けての成長を加速化させるために、外部投資家の資金を積極的に活用することを検討します。その際、外部投資家が株式を保有することにより、株主構成が変わることから、保有株主割合の状況次第では企業の意思決定に影響を及ぼすことに留意する必要があります。一方でIPOを目指さない場合は、株式を固定化することを優先すると、資本を活用した資金調達の必要性は乏しくなります。
資本政策実施の手順について
資本政策は目的の実現に向けて、次の7つのステップで進めていきます。
1.現状把握
資本政策を実施する前に、企業の現状を正しく認識する必要があります。その際のポイントは以下3点です。
(1)貸借対照表の分析
自己資本比率や流動比率等の確認を行い、財務基盤の安定性を評価します。
(2)損益計算書の分析
各段階での利益率を確認して、収益性を評価します。
(3)キャッシュフロー計算書の分析
営業活動、投資活動、財務活動の各段階のキャッシュフローを確認して資金の流れを把握します。
以上をもとに財務の観点で抱えている自社の課題を把握します。
2.目標設定
資本政策の目的(例:成長資金の調達、財務健全性の向上、資本コストの最小化)を明確にした上で目標を設定することが重要です。具体的な目標を設定することで、資本政策の方向性が定まり、進むべき方向が明確になります。また、株式発行数や調達金額を設定した場合は、期限を設けることで推進力が高まります。
3.資金調達方法の選定
資本政策を実行に移すためには、資金調達方法の検討が不可欠です。主な方法として、株式の発行(株主割当増資や第三者割当増資ほか)、債券発行、銀行借入が挙げられます。株式発行は、自己資本を増加させることができますが、株主の希薄化が懸念されます。債券発行は、利息の支払いが必要ですが、株主の希薄化を避けることができます。銀行借入は、金利や返済条件を考慮する必要があります。手法に応じて、一長一短がありますので、自社の現状の課題を踏まえた目標設定に照らしてシミュレーションを実施し、最適な方法を検討していくこととなります。
4.計画策定
資金調達方法が決まると、実行へ向けた具体的な推進内容を検討することとなります。前記、シミュレーションの検討結果を踏まえて検討することとなります。いくら資金調達をするのか、市場環境や企業の状況に応じてどのタイミングで資金調達をするのか、どのような条件で資金調達をするのか等を詳細に検討していきます。
5.社内外の承認
上記計画に関しまして取締役会の承認を得ます。また、実施事項によっては株主総会の承認を得ることが必要な場合もあります。また、条件面等を金融機関(証券会社や銀行)と調整していくことも並行して進めていきます。
6.実行
計画に基づき、資金調達を実行します。その際に必要な法的な手続きや必要に応じた市場への情報開示等を忘れることがないよう注意が必要です。
7.フォローアップ
資金調達後は資金使途の管理を行い、計画通りに進んでいるか進捗管理を実施します。市場や経営方針の変化によって、打つべき手が変わる可能性があります。あくまで目標達成のための手段であることから前提条件に変化があった場合は柔軟な対応変化が求められます。
成功に向けたポイントについて
資本政策の実施は、企業の成長スピードや財務基盤、経営の意思決定の安定性に大きな影響を与えるため、慎重に計画し、自社の目的達成のために最も適した方法を検討して十分なシミュレーションを実施した上で実行することが重要です。現状分析から始まり、目標設定、資金調達方法の選定、計画策定、承認、実行、フォローアップまでの一連のプロセスを通じて、企業は資本政策を効果的に実行することができます。
資本政策の成功に向けたポイントは、①金利リスクや市場リスク等のリスク管理や②調達コストの最小化、③資本価値を損なわないようにした株主価値への考慮、④金融商品取引法や会社法等の関連法令を遵守した取り組み、⑤ステークホルダーとのコミュニケーションを通じて透明性の確保を重視することが、資本政策の成功に繋がります。企業は、これらの手順とポイントを踏まえた上で、持続可能な成長を目指すことが大切になります。
関連記事
-
-
非財務戦略とは?注目される背景や導入のメリットを解説
- 企業価値向上
-
高収益を実現するための組織戦略のポイント
- 企業価値向上
-
-
製造業の高収益体質への取り組み方は?
- 企業価値向上
-
-
収益力を高める5つの条件とは?企業が実践すべき対策
- 企業価値向上
-
株式移転、株式交換とは?デメリットや留意点も解説
- 企業価値向上