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近年、注目を浴びている「パーパス経営」。パーパス経営が注目されている背景には、どのようなことがあるでしょうか。
また具体的にどのようにして成果につなげればよいのか。
本コラムではメリットや実践する手順、日本企業の事例までご紹介します。
パーパス経営とは意義を掲げる経営
パーパス(purpose)とは「目的」や、存在する「意義」「理由」を意味する言葉です。
パーパス経営は、企業が自らの存在意義や目的を言語化し、ステークホルダーや社会に示しつつ事業を行うとともに、社会や地球環境のさまざまな課題の解決に取り組む経営手法です。
ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)との違い
パーパスと似た概念としてMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)があります。
パーパスは主に企業の目的や存在意義を表すものですが、MVVには以下の目的があります。
1. ミッション:企業の使命 → 何をなすべきか
2. ビジョン:企業の方向性・将来像 → どうなりたいか
3. バリュー:企業の価値 → 何を大切にするか・どう表現するか
MVVは、企業が社会に提供するものを3つの指針で表した、企業と顧客との関係を中心とする企業理念であるといえます。
一方、パーパスは社会における企業の存在意義を1つのステートメントで表現したもので、社会的な意味を強く持った概念となっています。
パーパス・ブランディングの考え方
パーパス・ブランディングとは、ブランディングにおける一つの考え方です。
ブランディングの要は「差別化」であり、通常は他社と比較して、あるいは業界内でどのように優位なのかを印象付けることです。
しかしパーパス・ブランディングは、社会から見てどのような価値を持った事業なのか、社会的な企業の存在意義を印象付ける必要があります。
社会を構成する人々の願いに叶った活動をすることで、人々(消費者)の共感と信頼を得ることで差別化を行うという概念です。
パーパス経営が注目されている3つの理由
パーパス経営が注目されている要因として、いくつかの社会的背景があります。
さらに前提としては、情報化や社会の成熟化もあるでしょう。
ここでは、パーパスが注目される3つの理由を挙げて解説します。
①VUCA時代である
VUCAとは以下の単語から頭文字を取った言葉です。
● Volatility(不安定)
● Uncertainty(不確実)
● Complexity(複雑)
● Ambiguity(不透明)
それぞれ現代の状況を表しており、混沌とした時代を表現しています。
異常気象や国際情勢の変化、感染症の蔓延・エネルギー政策の転換・資源や食料・人口の問題など、社会・経済にとって複合的なマイナス要因があります。
そのため将来予測が難しく、企業が存在する前提を覆す事実が起こる可能性もあるのです。
想像力を持って社会的課題を解決することが、企業に求められる時代です。
②SDGsが求められている
持続可能な開発目標 SDGs(Sustainable Development Goals)は2015年に国連サミットで採択され、2030年までに達成すべき17の目標が定められています。
SDGsの達成は企業にも求められており、SDGsの目標を企業のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)に落とし込むためのパーパスが必要です。
SDGsの17の目標や、それぞれのターゲットとされている取り組みから、自社に関わるものを積極的に取り入れ、その課題を解決するために行動することに企業の存在意義があるのです。
③ESG投資が注目されている
ESGとは、以下の単語の頭文字を取った略語で、ESG投資とはこれらの課題解決に取り組む企業(事業)に投資することを表しています。
● Environment(環境)
● Social(社会)
● Governance(企業統治)
これまで、投資家や企業は利益の追求に重点を置き、企業活動が環境や社会に与える問題を軽視していました。
現在はすでに、持続可能性の追求のためにESGへの取り組みが必要とされ、ESGへの投資が投資家に求められています。
パーパス経営における6つのメリット
パーパス経営は直接的に利益に作用しません。企業活動の社会的意義を浸透させて、人的資源を活性化させます。
ここからは、パーパス経営のメリットを紹介します。
①意思決定の統一化
パーパスを社内で共有することで従業員が企業と同じ方向を見て活動をすることができます。
そうすることで、日々の業務において従業員の意思決定の判断基準が統一されるでしょう。
また、会社としても組織全体の意思決定の判断基準が統一されることで、理念に反した活動や非効率な業務の抑制につながります。
②ステークホルダーからの信頼獲得
トップが企業の方向性や熱意を従業員と共有し、顧客や社会に知らせることで、ステークホルダーは安心し信頼・投資を得られます。それにより企業の社会的意義に共感し、支援者や商品・サービスの愛好者が増えるでしょう。
③従業員エンゲージメントの向上
パーパスが社内に浸透していない場合、従業員は企業の意義や方向性がわかりません。
企業の意義や方向性を理解できていないことで、仕事を行う意義ややりがいがわからなくなってしまうこともあります。
パーパスが浸透することで、従業員は進むべき道を改めて理解できます。
仕事のモチベーションややりがいの向上に繋がり、より積極的に会社への貢献をしてくれるでしょう。
④ブランドイメージの向上
パーパス経営は、企業の信頼性を高めるとも言えます。消費者や投資家、従業員は、社会的使命を持って、環境保護や社会貢献活動に積極的な企業を「責任ある企業」として認識し、その企業の信頼感が高まります。
また、市場には多くの競合が存在する中、企業が独自のパーパスを掲げ、それに基づいた活動を実施し、それらを発信することで、競合他社との差別化を図ることができ、ブランドイメージの向上に繋がります。
⑤優秀な人材の確保
パーパス経営を実践する企業は、明確な社会的使命や価値を持ち、それを実現するための具体的な取り組みを行っています。
特に「ミレニアル世代」と呼ばれる一般的に1980年代から1990年代初頭に生まれた人々は、自己実現や社会貢献を重視する考えを持っているといわれており、環境保護や社会的平等、地域社会への貢献など具体的な目標を掲げて活動する企業は、ミレニアル世代からの共感を特に得やすく、彼らにとって魅力的な職場環境を提供することによって、優秀な人材の確保と保持に大きく寄与すると言われています。
⑥サステナビリティの実現
サステナビリティ(Sustainability)とは「持続可能性」を意味します。自然環境や経済・社会あるいは健康などの状態を将来にわたって維持できることを言います。
サステナブルな価値を生み出すには本質を追求する取り組みが必要です。それはすなわち企業の存在意義を見出すこと、すなわちパーパスにつながります。
パーパス経営でESG(環境・社会・ガバナンス)の課題に向き合うことは、企業と社会のサステナビリティに大きく貢献します。
企業がパーパス経営に取り組む際、求められるもの
上述していきたように昨今のビジネス環境では、単に利益を追求するだけではなく、「パーパス経営」が重要視されています。
企業が社会に対してどのような価値を提供し、どのような役割を果たすべきかという視点を持ち、これを実現するために、株主だけでなく、社会全体に対する責任を考慮し、実際の行動に移すことが求められます。
企業がパーパス経営に取り組む際、まず重要なのはその「パーパス」を明確にすることです。
パーパスは企業の存在意義であり、社員はじめ、関わるステークホルダーに共感を産む力を持っています。
次に、そのパーパスを社内に浸透させ、戦略や意思決定の基盤とすることが必要です。
日本企業におけるパーパス経営の成功事例6選
企業においてパーパス経営は、どのように行われているのでしょうか。
組織の大きな企業であるほど、マネジメント層の結束やパーパスの全社への浸透には経営者の強い決意が必要となるでしょう。
よく知られている大手企業の事例を挙げて、企業の取り組みを見ていきましょう。
事例①三井住友トラスト・ホールディングス
三井住友トラスト・ホールディングスは「信託の力で、新たな価値を創造し、お客さまや社会の豊かな未来を花開かせる」と、パーパスを掲げています。
三井住友トラスト・ホールディングスは、多くの事業を抱えてしまい、投資や運用面での方向性が定まらない状況がありました。そのため、原点回帰という意味でパーパスを策定し、組織の共通認識を作り出すことに注力しました。
同社はトップのメッセージとして、将来への投資をリードして投資家と社会課題を共有、ステークホルダーの利益を生むという流れを作ると明言しています。
事例②味の素
味の素のパーパスは「食と健康の課題解決」とされ、グループビジョンとして「アミノ酸のはたらきで食習慣や高齢化に伴う食と健康の課題を解決し、人びとのウェルネスを共創します」を掲げています。
味の素は、CSV(共有価値の創造)をもとにした独自のASVという大きな取り組みを行っています。
パーパスの策定にあたってはトップと経営幹部が議論を重ね、従業員との対話を経て組織と個人の目標を設定。
個人目標発表会を開催し、ベストプラクティスを表彰するASVアワードなど、会社全体がどの方向に向かうのかを全従業員が知れる機会を創作しています。
事例③東京海上ホールディングス
東京海上ホールディングスのパーパスは、創業当時からのビジョンでもある「お客様や地域社会の"いざ"をお守りすること」とされています。
東京海上ホールディングスは、全世界のCEO会議を開催して対話を行い、自社の価値についての共通認識を持つ場を設けています。
真面目な議論を気楽な雰囲気のなかで実施する「マジきら会」を開催し、社員同士の闊達な意見交換によって社会課題の解決策を模索するとともに、全社的な一体感を醸成しています。
事例④富士通
富士通は「わたしたちのパーパスは、イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくことです。」と掲げています。
富士通は、2021年に評価制度「Connect」を導入し、マネジメント層が描くビジョンをメンバーに想いを伝え、どれだけのインパクトを社内外で発揮されたのか。また、個人がパーパスを起点として、どれだけ成長したかを評価する仕組みを導入しました。
会社と社員のパーパスをすり合わせて仕事を「自分ごと」にすることで、社員の自発的な行動を促しています。
事例⑤LIXIL
LIXILはパーパスを「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」としています。
さらに「3つの行動」として以下を掲げ、実践しています。
● 正しいことをする
● 敬意を持って働く
● 実験し、学ぶ
これらの目的のもと、リクシルは持続的な成長に向け、アジャイルで起業家精神にあふれた企業になるための、組織開発・製品開発・収益改善などの取り組みを継続します。
またESG説明会を開催し、投資家・ステークホルダーとの意識共有を行っています。
事例⑥ネスレジャパン
ネスレジャパンのパーパスは「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」です。
さらに「ネスレの価値観」として「敬意」に着目した理念として、下記を掲げています。
● 自分自身に対する敬意
● 他者に対する敬意
● 多様性に対する敬意
● 未来に対する敬意
これらの目的のもと、ネスレジャパンはSDGsの取り組みを推進しています。
● 個人と家族のために
● コミュニティのために
● 地球のために
医療機関への寄贈や、環境負荷を低減するパッケージの開発など、積極的な活動を行っている企業です。
パーパス経営を実践する手順
パーパス経営を実践する手順について解説します。
1.ステークホルダーと自社の調査・分析
実践する手順としてまず、関わるステークホルダーと自社の調査・分析を行います。そうすることで、自社の現状を把握できパーパスを検討しやすくなります。
その上で、企業のパーパス、存在意義の再定義を行います。
従業員や顧客、社会全体に対して企業がどのような価値を提供するのかを深く掘り下げ、経営理念やミッションステートメントに反映させることが重要です。
2.社内浸透
次に、パーパスを社内に浸透させることが重要です。
その為に、自社のパーパスを言語化し、全ての従業員が企業のパーパスを理解、日々の業務において体現できるようになること、社内浸透することを目指します。
3.戦略の統合
パーパスを経営戦略に統合し、事業活動全体で体現することが重要です。パーパスに基づいた目標設定やKPIの策定が必要となります。
4.コミュニケーションの強化
社内外にパーパスを伝え、理解と共感を得るためには、効果的なコミュニケーションが不可欠です。定期的な報告、透明性のある情報共有を心掛けることで、信頼関係を築きます。
5.継続的な評価と改善
パーパス経営は一過性の取り組みではなく、継続的な評価と改善が求められます。定期的に成果を測定し、必要に応じて戦略を見直すことで、パーパス経営をさらに推進していくことができます。
企業のパーパスを成果につなげるために
自社の強みを社会課題の解決につなげるため、トップから各部署の社員まで一体となり、アイデアを出して議論を行い、パーパスを明確にします。
パーパスはシンプルな声明(パーパスステートメント)にします。
社員をはじめ、ステークホルダーの誰もがいつでも参照できるようにし、すべての活動でパーパスをもとにして組織・個人双方の目標を定めましょう。
実行した取り組みは達成度を確認し、内容の評価・改善を継続的に行うことが重要です。
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