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2025.06.25

海外進出の方法とは?
実際の流れからその後の成長戦略までを網羅的に解説

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海外進出の方法とは?実際の流れからその後の成長戦略までを網羅的に解説

中小企業庁が発行している「中小企業白書(2025年度版)」では、海外展開が成長の柱の一つとして位置づけられています。一方で、弊社の調査により、海外進出のノウハウや現地の商習慣に関する知識の不足、さらに戦略を推進する人材の不在といった理由から、海外進出の意思決定や戦略の策定・推進に踏み出せていない企業が一定数存在することも明らかになりました。本記事では、海外進出を検討している日本企業の方に向けて「①海外進出の全体像」「②海外進出における戦略の構築」「③海外進出後の成長戦略」をご紹介します。

海外進出の全体像

海外進出の形態

「海外進出」と一口に言っても、その実務的な形態は多岐にわたります。新たに海外展開を検討する企業からは、「選択肢が多すぎて、どこから着手すればよいか分からない」といった声が多く寄せられています。こうした状況において、考え方を整理する枠組みの一つとして、「サプライチェーン(物の流れ)」「販売・マーケティング(販売先の特定)」「組織・経営(海外展開を推進する体制)」の3つの視点から捉えることを推奨いたします。
図1ではそれぞれの要素における形態を「業績インパクト」「財務・非財務投下資本」の規模でまとめています。3つの要素それぞれの形態が上位にいくほど海外事業のインパクトや求められる社内の資源が大きくなっていきます。自社の現状を当てはめていただき、「海外事業をもっと伸ばしたいと思った場合に次にどこを目指すのか」「推進にあたって社内の資源で強化・補充が必要な箇所はどこか」を考えていただくと、次のアクションが明確になるかと思います。
また、3つの要素は基本的には連動していきます(例えば、現地で生産・サービス提供をして販売するために、海外現地法人を設立し、近くのローカル企業に販売する)。ただし、連動性の大小は企業によって異なることに留意が必要です。

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⑴海外進出の形態

図1:タナベコンサルティング作成

サプライチェーン

一つ目の要素は「サプライチェーン」です。たとえば、日本国内で生産・納品された商品を顧客が海外に輸出するケースは「間接輸出」に該当します。この形態は、国内販売と流通経路がほぼ同一であるため、最も取り組みやすい海外進出の方法といえます。
一方で、現地で生産されている商品と比較すると、間接マージンや物流コストが上乗せされることから、価格競争力の面で不利になることが課題となります。
また、直接輸出や現地生産といった、より上位の進出形態を選択することで、現地化が進み、トータルコストの削減や市場対応力の向上が期待できます。しかしその反面、現地対応に必要な資本投下、人材の確保、組織マネジメントといったさまざまなコストが発生し、より大きな経営判断を求められることになります。

販売・マーケティング

二つ目の要素は「販売・マーケティング」です。たとえば、日本国内の日本企業に販売し、その販売先が海外へ輸出する場合、すでに顧客との関係性が構築されていることから、海外進出の初期段階としては比較的取り組みやすいテーマといえます(ただし、輸出先の国に応じた製品やサービスのカスタマイズは必要)。
なお、サプライチェーンにおいて述べた通り、間接輸出は最終顧客の支払価格が高くなり、競争力を損ないやすい点に加え、輸出の判断を販売先に委ねることになるため、意図したとおりに海外展開が進まない可能性がある点には注意が必要です。

一方、自社のリソースで海外顧客を開拓し、直接販売を行う形態では、初期段階の販路開拓や関係構築には相応の労力を要しますが、一度顧客との関係を築くことができれば、価格交渉や追加提案などを自社主導で行えるようになり、海外事業の成長スピードを一気に高めることが可能になります。

組織・経営

生産活動(サプライチェーン)、営業活動(販売・マーケティング)の戦略を推進するためには、適した組織設計が欠かせません。既存顧客・既存販路が活用できる段階であれば、国内営業担当・国内製造担当の兼務で対応できますが、海外顧客のフォローや海外輸出対応が必要になってくると、海外事業専任のチーム・人材配置が必要となります。
配置される人材に対しては、海外ビジネス(参入地域の事業環境、文化、言語等)を理解してもらうための教育施策が欠かせません。加えて、既存事業と比べて新しく取り組む海外事業にはより多くの判断や周囲を巻き込むコミュニケーション力が求められます。一般的に、日本企業が外国に社員を派遣する際、一般社員でもマネージャーポジションで派遣することが多くあります。海外事業に配置する人材には、リーダーシップ能力を発揮できるような教育・サポート体制も求められます。

2.海外進出の準備ステップ

海外進出の準備ステップ

そもそも、海外進出を通じて何を得たいのか(長期ビジョンの設計)?

海外進出を検討する際に最も重要となるのが、「海外進出によって何を達成したいのか」という問いへの明確な回答です。海外市場には大きな成長機会がある一方で、競合他社との激しい競争や異文化ゆえの予期せぬトラブルなど、多くの困難が伴います。そうした状況の中で事業が順調に進まない局面に直面したとき、拠り所となるのが、進出当初に掲げた大きな目的です。
この目的が不明確なまま海外展開を進めてしまうと、一時的な損失に耐えきれず撤退を余儀なくされたり、逆に適切な撤退判断ができず、経営全体に悪影響を及ぼすリスクがあります。
したがって、この想いを5年後・10年後といった中長期的なスパンで達成すべき目標(定性的・定量的の両面)として具体化することが重要です。目標を明確にすることで、「この目標を達成するために必要な戦略・アプローチは何か」といった、より実践的かつ詳細な戦略設計につなげることが可能となります。

事前調査

大きな目標ができたところで、進出を判断する前の調査・分析を行います。進出を検討している土地の環境(人口動態・経済・政治・社会情勢)や市場環境(該当製品の市場規模・競合他社)などの外部環境の調査と、それぞれの地域における自社の強みや優位性の内部要因を調査し、進出検討を進めるマーケットを決定します。
これは日本国内取引(間接輸出)でも同じであり、ターゲット地域に強い日本企業にアプローチするにあたって、輸出先地域での自社製品・サービスの強みを認識しておくことは非常に重要です。
調査段階で海外で強みを活かせない・日本国内市場に取り組むべき成長トリガーがあると分かった場合には、ここで海外検討を取りやめて国内市場に向けた戦略策定に集中することも選択肢の一つです。
調査の方法に関しては、文献調査等のデスクトップリサーチに限らず、進出している企業や取引先へのヒアリングなども含まれます。実際に海外の企業に連絡して現地へ赴くことで、市場の期待値や実現可能性をよりリアルに感じることができます。

戦略骨子策定

事前調査の結果に基づき選定した市場に参入するステップを戦略骨子では策定します。この中には、投資計画やアクションプラン、目標数値(売上金額・数量等)の設定が含まれます。売上目標と大まかな単価が決まってくると、この売上を達成するために必要な人員数や財務的な投資規模など大まかな中期損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書を作成することができます。

戦略の実行・推進

戦略骨子に基づいてアクションプランを推進します。最初の障壁として立ちふさがるのが現地パートナー・顧客の開拓とネットワーク構築ですが、事前の調査段階で現地顧客へのヒアリングなどを行い、現地のネットワークを築いていた場合、この実行・推進フェーズがよりスムーズになります。
弊社では、海外顧客の販路拡大支援として、参入市場におけるターゲット企業選定だけではなく、初回接点の確保や面談取次ぎなどの推進フェーズのお手伝いも可能です。

成長ステージにおける注意点

実際にターゲット市場における取引が始まって拡大フェーズに入った際、特に注意していただきたいのが組織における海外事業推進体制の見直しと人材育成です。往々にして、進出直後の売上が小さい段階では経営層と社長直轄のプロジェクトチームだけで推進することが多いですが、拡大フェーズの際にはより多くの社員の協力が必要になります。協力を仰ぐときに、海外事業の意義や取り組み状況が社員に伝わっていないと、社員に意図が伝わらず成長のボトルネックになってしまうケースがあります。
海外事業推進初期から、海外事業を含めた会社の進むべき方向性(ビジョン)を社員と共有し、社員の海外事業への不安や抵抗感を払拭するためにも教育計画の中にグローバル教育を織り込むことが有効な改善方法です。管理職には現地拠点のマネジメント方法や現地を巻き込んだグローバルプロジェクト推進のためのリーダーシップ研修、一般社員には海外事業の意義や現地法人の窓口となる社員と円滑な連携が図れるような異文化教育等、階層や期待する役割に応じて教育計画を策定することをお勧めします。

まとめ

まとめ

本記事では海外事業の形態や海外進出のプロセスの全体像をご紹介しました。海外事業を考える際に「この国でこれは売れそう」という局所的な見込みから検討を始められるパターンが多いと感じていますが、実際に進出を決断する時には、国内事業を含めた事業目標との整合性等の大きな目標を策定してから、詳細の戦略設計に落とし込むことが重要です。
タナベコンサルティングでは事業者の方の海外進出への関心を、ビジョン策定から分析に基づく成長戦略・アクションプランへの落とし込み・推進まで、想いの具現化・実現を一気通貫でお手伝いすることが可能です。

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング
コンサルタント

長塚 勝

化学繊維メーカーで営業、販売管理、営業チームマネジメントに従事。中国への海外赴任を経て、グローバルチームでの営業戦略立案や東南アジア市場開拓を推進。当社入社後は、ビジョン策定など、クライアントの継続的な成長を支えるコンサルティングに携わる。「企業を通じて地域を明るく」すべく、クライアントと伴走するコンサルティングを信条としている。

長塚 勝

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