COLUMN

2023.02.07

パーパス経営の成功事例から見る
パーパスを浸透させるポイント

1.はじめに(パーパスを経営に取り入れる企業の背景)

近年、企業は利益の追求のみならず、社会的責任を果たすことが求められています。そのためESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)などの観点も含め、自社の存在意義・存在価値を「事業を通じて世界(社会)の持続的成長にどのように貢献するか」という「貢献価値」となる「パーパス」を経営に生かし、成長している企業が増えています。
以下に記載しているパーパスを経営に活かしている企業は、自社はどのような価値に最も重きを置くべきかを再定義し、貢献価値・パーパスをアップデートし、その上で創業精神や経営理念、ビジネスモデルや、バリューチェーンから見た強みといった自社の原点に立ち返り、自社の未来の課題を解決する"貢献価値"を明らかにし、経営戦略・人材戦略の両面から経営構造改革を進めています。

■図表:パーパスを経営に活かしている企業事例

ソニーグループ グループ全体の成長に向けて多様な個を生かすため、取組を体系化している。事業特性や課題に応じて迅速に人事運営を行えるように人事責任を各社CHRO(最高人事責任者)に委任した上で、グループ経営の「求心力」としてパーパスを定義し、エンゲージメント向上への責任は経営陣報酬に反映している。
SOMPO ホールディングス 社員を自律的なプロと捉え、会社主導の人事異動を実施しない運営へ移行している。ホールディングスの幹部職から全ポジションを公募制の対象とするなど、段階的かつ着実に変革を進めている。また、個人と社員のパーパスを定期的な1on1で擦り合わせ、エンゲージメントの向上を丹念に進めている。
東京海上ホールディングス 多様な人材の連帯を人材戦略と捉え、社員共通の土台となるパーパスを浸透すべく、あらゆる階層、社員間でのコミュニケーションのため、まじめな話を気楽にする対話(「マジきら会」)を実施している。

出所:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書/実践事例集」(2022年5月)
よりタナベコンサルティング作成

2.パーパス経営の成功事例

パーパス経営を生かし、経営構造改革を推進した企業事例としてソニーグループが挙げられます。ソニーグループの2022年3月期連結決算は、売上高が前期比10.3%増の9兆9215億円、営業利益は同25.9%増の1兆2023億円と、2桁台の増収増益となりました。営業利益率は同1.5ポイント上昇の12.1%。本業の利益を示す営業利益をはじめて1兆円を突破しました。
好調の要因は、「映画」「音楽」「エレクトロニクス」分野でした。セグメント別に売上高を見ると、「スパイダーマン」シリーズの新作がヒットした映画事業は前期比64.5%増の1兆2389億円、配信サービスが好調な音楽事業は同18.8%増の1兆1169億円、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(現在は「エンタテインメント・テクノロジー&サービス」に改称)事業も同13.1%増の2兆3392億円と大きく伸びました。
この起点となったのが、同社が2019年1月に発表した「Sony's Purpose & Values」(存在意義と価値観)です。同社は「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスの定義でした。

パーパス経営の成功事例

自社を「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニー」と位置付け、祖業であるエレクトロニクス事業の枠を超え、エンターテインメント・コンテンツ系事業を主力分野とするグループ経営にシフトしました。パーパス制定後の初年度(2019年度)業績は新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり減収減益となったが、翌期以降は増収増益に転じました。以降2 年間の好決算はパーパスが起点となっています。今後、同社をけん引するのはゲーム&ネットワークサービス(G&NS)や音楽、映画などエンタメ・コンテンツ系事業だ。これら事業の全売上高に占める構成比は2021年度に51%と半数を超え、22年度は54%に達する見通しです。

パーパス経営の成功事例

また、「ソニーの進化」をテーマに掲げる第四次中期経営計画(2021~2023年度)でも、決定・実行済みの戦略投資約1兆600億円(2022年4 月末時点)のうち、7割を音楽、映画、ゲーム関連の買収案件が占めています。同社のテクノロジーは、これまではエレクトロニクス事業の製品開発のためだけに活用されていましたが、現在は同社が展開する6 つの事業を結び付け、シナジーを発揮させる役割を果たしています。
例えば、アニメ制作において人間がボディースーツを着て動き、モーションキャプチャー技術によって3次元で測定してアニメ化しています。この半導体技術の「イメージセンシング」は同社の得意分野です。つまり、技術部門とコンテンツ部門が連携し、新しい感動を生み出していくことが、同社の目指す「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニー」と言えます。
同社は2021年4月、現社名への商号変更とともに大幅な経営機構改革を実施しました。改革の目的は、パーパスの実現に適した経営体制の構築です。具体的には、本社が有していたエレクトロニクス事業の間接機能を子会社(ソニーエレクトロニクス)に移管し、祖業を本社から完全に分離しました。グループ本社は全社統括機能に特化し、グループ内の連携強化に向けて全ての事業と等距離で関わる役割を果たしていくことになります。また、従来からの「ソニー」の名は、ソニーエレクトロニクスに引き継がれました。
電機メーカーを中心とした事業ポートフォリオから、ゲーム・アニメ・音楽などクリエイティブなエンターテインメントを中心とした事業ポートフォリオに再設計を図ったことが分かります。同社共同創業者の井深大氏は、東京通信工業(ソニーグループの前身)の設立趣意書で、「会社創立の目的」の一つとして「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」を掲げています。同社が策定したパーパスは、その延長にあると言えます。

パーパス経営の成功事例

3.パーパス経営を社内浸透させるには対話が求められる

企業はアフターコロナを見据えながら、環境変化に対処しなければなりません。そのためにも、パーパスに基づく経営戦略を自社のビジョンに組み込み、「会社として何を目指しているのか」「社員一人ひとりはどのような行動をすべきなのか」を明確にすることが必要です。それによって社内で価値観が統一され、社員一人ひとりが同じ目標を持つことができるようになります。また、経営戦略に合わせる形で人的資本戦略(人材戦略)を策定します。

その結果、自律的に行動できる社員が増え、共感した人材を集めることができます。また、経営構造改革を実現するためには、企業文化なくして実現しません。企業文化は日々の活動や取り組みを通じて醸成されるものです。この企業文化を醸成するためには、経営トップ自らがパーパスやミッション・ビジョンを発信していくとともに、企業文化の浸透に関する適切なKPIを設定し、検証するマネジメントが求められます。
パーパスを設定したが、社内外に浸透していない企業は"対話"を行っていません。パーパスを通じて、社内外のステークホルダーと積極的に"対話"を行うことが求められます。

まず従業員に対しては、会社の経営戦略の実現と、社会課題の解決がどのように繋がっているのか。そして社会課題の解決に対し、自分自身が社業を通じて貢献することによって、会社が顧客を獲得して利益を上げ、企業価値が向上するという関係性を理解してもらう。従業員自身の納得感の醸成にとどまらず、転職希望者や就活生をも自社に引き付けることになります。

従業員以外のステークホルダー(顧客・取引先・金融機関・投資家など)との関係においては、自社の経営戦略が絵に描いた餅ではなく、実現可能であることの説明責任を果たすことにも繋がります。経営陣が率先して経営戦略の実現性、企業価値の持続的向上について対外的に情報発信をすることが重要です。そのためにもパーパス、ビジョン、戦略、企業文化がどのように連動しているのか、戦略の進捗状況はどうなっているのか、といった情報の見える化が必要となります。
リモートワークの定着やダイバーシティーが進む時代において、社員一人一人が孤立することなく、経営理念やパーパスを軸に価値観を共有し、ビジョン・戦略を理解することが大切な時代です。何のために働くのか、社会にどのような貢献価値を提供できるのか、企業と同じ方向を向いて日々の業務に取り組める環境をつくることが重要です。

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部
ゼネラルパートナー
ヘルスケアビジネス成長戦略研究会リーダー

藤原 将彦

IT業界でシステム開発業務・プロジェクト運営を経て当社入社。企業の原点である「ミッションの確立」や、未来に向けた「ビジョン・戦略の構築」を得意とする。また、新規事業・新商品開発やDX実装支援など、クライアント企業の成長エンジンづくりに数多くの実績を持つ。クライアント視点を大切に、前向きに情熱を持って取り組むコンサルティング展開で多くのクライアントから高い信頼を集めている。

藤原 将彦

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