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新規事業立ち上げのセオリーは理解しているものの、事例がないとイメージしにくいと感じている経営者やリーダーは多いでしょう。
この記事では、大手企業と中堅企業の新規事業で成功した事例を紹介するとともに、成功事例に共通するポイントを解説します。自社の戦略を照らし合わせる事例としても参考になるでしょう。
【大手企業】新規事業の成功事例4選
ここでは、大手企業が手がける新規事業の成功事例を紹介します。
資本力のある企業なら簡単に既存の事業とは無関係な事業を起こせるわけではなく、自社のリソースが十分活用できる新規事業で成功を納めている企業が目立ちます。
日本郵政×Yper株式会社
宅配の配達先が不在の場合の業務負荷を軽減するため「置き配」が生まれましたが、戸建て住宅に宅配ボックスを設置するコストが高いことから普及が進まない状況がありました。
そこで日本郵政は、置き配バッグ「OKIPPA」を開発する物流系ITベンチャーのYperと手を組み、戸建て住宅での置き配利用を促進するサービスを開始しています。
OKIPPAは折りたたんで玄関ドアノブに簡単に設置でき、配達時に広げて荷物を収納できる盗難防止機能付きのバッグです。購入しやすい価格と、専用アプリで大手各社の配送状況を確認できるシステムにより、置き配の普及を後押ししています。
本田技研工業株式会社
自動車・オートバイを製造するHondaは、空を移動できるモビリティを開発すべく1986年に航空機の開発に着手しました。
その後、約29年を経て2015年に小型ビジネスジェット機「HondaJet」の供給を開始。エンジンの構成から機体まで独自の技術を投入し、他社をしのぐ高性能と低価格を両立させて世界に衝撃を与えました。
同クラス最高の供給数を記録した理由には、コロナ禍でのソーシャルディスタンスを確保した移動手段として注目されたことも背景にあるでしょう。
三井物産株式会社
三井物産は社内ベンチャー「ボイスタート」を設立し、音声AIスピーカーを活用したシニア向けサービス・アプリを開発しました。音声AIスピーカーは従来、若者向けのサービスに利用されていましたが、その使い方にヒントを得たアイデアです。高齢者向けの健康情報の配信や、利用状況をLINEで家族に送付するなどのサービスが行われています。
シニアが音声AIを利用することで地域社会とつながることは、社会課題の解決につながります。
その後、ボイスタートの事業は株式会社NTTデータに引き継がれ、現在も多くのメディアで紹介されています。
ヤマト運輸株式会社
ヤマト運輸株式会社には、社内ベンチャーの組織風土があります。2009年には独居高齢者を見守るサービス「まごころ宅急便」を立ち上げ、その後は家電修理サービスにも乗り出しました。
家電品のユーザーは従来、機器が故障すると販売店やメーカーに連絡して修理依頼をし、発送のために自身で梱包する必要がありました。
ヤマトはこの点に着目し、故障した家電品の回収から返却までをワンストップで行うサービスを提供し、家電ユーザーに利便性を提供しています。
「まごころ宅急便」のサービスは終了しましたが、2024年現在も全国の自治体や関係機関と見守りに関する協定を結んでいます。
【中堅企業】新規事業の成功事例4選
ここでは、中堅企業が手がける新規事業の成功事例を紹介します。
自社が持つ技術を展開したり、経営理念を受け継いで新たな事業に参入したりなど、企業の特徴・強みを活かした成功例であるといえるでしょう。
ラクスル株式会社
ラクスル株式会社は2009年に設立され、印刷業界に革命をもたらした企業です。
ラクスルの意味は「楽に刷る」であり、ミッションは「はたらく人をラクにするカスタマイズECプラットフォームをつくる」ことです。
従来の印刷発注の難しさや印刷プロセスの非効率性を、ITで解決することを目指して発注・デザイン・印刷媒体選択・決済・データ入稿・印刷発注・商品発送までの全工程をシステム化しました。
各工程でAIを含む自動化を実現し、オペレーターの負担軽減とUX向上を両立させて成果を上げています。
株式会社タニタ
体重計・体脂肪計などの健康計測機器メーカーであるタニタは、社員食堂がNHKに取材されたことをきっかけにレシピ本を出版しベストセラーになりました。
本の反響で社員食堂が注目されたことを受けて、「丸の内タニタ食堂」を初出店。飲食サービス業に参入しています。現在では全国にタニタと提携した店舗が展開されているほか、よりターゲットを広げたタニタカフェをオープンしました。また、マルコメとのコラボによる無添加の粒みそなど、健康に配慮した食品の販売を手がけています。
タニタは「はかる」から「たべる」に事業範囲を広げ、健康総合企業に発展しました。
ANA NEO(アナ・ニーオ)株式会社
ANA NEOはANAホールディングスの子会社として設立され、スマホ向けメタバース旅行プラットフォーム「SKY WHALE」を開発した企業です。
2023年に正式名称を「ANA GranWhale」としてローンチした同サービスは、ユーザーがアバターを操作して旅行やショッピングを体験できます。またマイレージクラブとの連携で、ANAのマイル交換が可能です。
現在は金融・人材系企業との提携や、京都府・北海道などの自治体との連携を行い、メタバースでのビジネス展開を広げています。
KIYOラーニング株式会社
社会人向けの教育コンテンツを提供していたKIYOラーニング株式会社は、2017年よりスマートフォンやタブレットから利用できる社会人教育・研修サービスである「AirCourse」を開始しました。もともと資格取得支援のeラーニングサービスが主業務でしたが、そのノウハウを社員教育の分野に活かした形です。
現在では教育コンテンツの配信にとどまらず、組織・グループ単位での教育進捗管理を行っています。
新規事業の成功事例に共通する4つのポイント
新規事業の成功事例には、共通するポイントがあります。
システム化とDXは前提であり、そのうえで次のような手法・施策がカギとなるでしょう。
①的確なターゲット設定
新規事業の立ち上げには、事業の対象となるユーザー層を特定することが最も重要です。また、ユーザー層が存在する市場で自社がどのような立ち位置、役割を担うかを明確にしなければなりません。
考えやすいフレームワークとして、STP分析があります。次の3つの側面から、市場と自社の関係を明確にできるでしょう。
● S:セグメンテーション:市場の細分化
● T:ターゲティング:ユーザー層と市場の特定
● P:ポジショニング:ターゲット市場内の自社の立ち位置を明確化
発想のきっかけとして、日常の業務で出会った特定の顧客からターゲットが決まる場合もあります。
②新規事業に合った人材の育成・投入
すべての事業において人材が大きなポイントになることは、いうまでもありません。特に新規事業のような未経験の分野に対応できる人材は、通常の評価では見つけられないこともあるでしょう。従来分野で優秀だと評価される従業員が、新分野で力を発揮できるかどうかは不明です。
専門性の高い人材、マネジメント能力に長ける人材、臨機応変に対応できる柔軟な人材など新規事業の要素を個別に分析し、それぞれに最適な人材を充てる必要があります。
また、チームとしての協力関係や総合力も重要なポイントです。
③リーンスタートアップでリスク軽減
新規事業は成功させなければなりませんが、思うように成果が上がらないことや、失敗することもあります。また、最初から大規模に展開しても十分にマネジメントできないおそれがあります。
小規模な投資で小さな組織から始める、「リーンスタートアップ」が基本となるでしょう。
自社の強みが最大限に活かせる分野や新規事業のコアの部分で足固めを行い、組織体制を確立してから次のステップに進めば、その後の展開が容易になります。
仮にコアを形成できないと判断すれば、撤退もあり得ます。
④迅速な検証と改善
戦略の実行には、検証と改善が欠かせません。戦略どおりの結果を得られているかを定期的に検証しましょう。何か不自然な動きがあったときにも、立ち止まって状況を確認することが重要です。速いサイクルで検証と改善を実施することで、誤った方向性が定着することを防げるでしょう。
参入当初は市場も株主も注目しています。極端な例を挙げれば、「ロゴマークの印象が悪い」だけでも致命的になることがあります。
コンセプトを念頭に置きつつ、悪い結果は早期に修正してアップデートしましょう。
まとめ
この記事では、大手企業や中堅企業による新規事業の成功事例を紹介しました。
近年は社内ベンチャーを立ち上げる動きや、従業員の起業意識を高める組織体制を持った企業が見られます。日常の業務で発生するエピソードから、新規事業の発想が生まれることもあります。
従業員が自社の価値を自覚し、新しい局面に活かせるような組織風土の醸成を図る必要があるでしょう。
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