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2023年5月からの新型コロナウイルス感染症の5類感染症への移行に伴い、各企業の経営者との会話の中では、自社の成長に向けて攻めに転じていこうとする前向きな姿勢が見受けられます。
タナベコンサルティング調査による企業経営アンケート(【図表1】)から、事業戦略における取り組むべき課題は、上位の項目と下位の項目の差が顕著に出る結果となりました。
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【図表1】出所:タナベコンサルティング「2023年度企業経営に関するアンケート」
その中でも「新商品・サービス開発」37.7%、「事業ポートフォリオ戦略策定・転換」35.2%、「新事業開発」34.3%の3項目に加え、「ビジネスモデル変革」29.5%が上位にあがるなど、事業戦略における上流工程への着手が目立つことが分かります。企業としてはコロナ禍で疲弊した既存事業の収益改善と、次なる事業の柱としての新規事業の立ち上げおよび投資、つまりは両利きが求められているのです。
新規事業開発の全体の流れ
新規事業は「千三つ」と言われますが、経済産業省の調べでは新規事業の成功確率は約29%であることが分かっています。したがって、正しいプロセスを踏んだ新規事業開発が極めて重要であることが言えます。
【図表2】は新規事業開発の全体像です。新規事業計画書の策定までの期間を少なくとも6ヵ月間は確保したいところです。
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【図表2】出所:タナベコンサルティングにて作成
Pre:事前準備
新規事業の定義を「会社の未来をつくる新たな事業」と考えると、5年先10年先に活躍する人材を中心としたプロジェクトチームにより、新規事業を立ち上げることが望ましいでしょう。アイデアを創出しやすいプロジェクト人数は一般的に7~8名と言われています。またアイデアや視野が限定されないように、各事業部や各部門より横断型にて人選することも一つのポイントです。
新規事業開発プロジェクトとしてスタートするにあたっては、経営層と全プロジェクトメンバーが一堂に会し、経営層よりプロジェクトメンバーへの期待の伝達、さらには新規事業に対する想い、方向性を示唆することが望ましいでしょう。
PhaseⅠ:分析・新規事業オプション策定
PhaseⅠのゴールは新規事業案の創出です。事業は「市場」×「固有技術」の掛け合わせにより成立します。新規事業開発の成功確率を高めるためには、新規事業のビジネスモデル自体に差別化要素を持たせることです。したがって、精度の高い外部環境と内部環境の分析が新規事業開発の第一ボタンと言えます。
外部環境分析において有効なことは、「既存事業の市場」→「既存事業の隣接市場」→「周辺市場」→「新規市場」と、徐々にその範囲を広げ、参入すべき成長市場のあたりを付けていくことです。内部環境分析では強みを抽出することが重要ですが、強みとは「保有する強み」→「優位性のある強み」→「独自性のある強み」の順で磨かれていきます。特に優位性のある強み(ナンバーワンの強み)、独自性のある強み(オンリーワンの強み)を見出すことがポイントです。
以上の分析より、前述の「市場」×「固有技術」の組み合わせにより、初期段階では多くの新規事業アイデアを創出することが望ましいでしょう。創出された新規事業アイデアは、市場性、優位性、収益性、実現可能性等の観点からスクリーニングすることで、最終は5案程度に、そしてその5案を経営層に答申することにより、次フェーズに進めるべき新規事業アイデアを固めていきます。
PhaseⅡ:新規事業計画策定
PhaseⅡでは、最終的に新規事業計画書への落とし込みを行います。机上のみで検討された新規事業が成功することは先ずないでしょう。検討している新規事業が社会や顧客から求められているのか、その評価や検証を実践的に行うフィジビリティスタディが有効です。
その最たる手法は顧客へのインタビューであり、顧客の声や評価を収集することで、新規事業の軌道修正をはかることができ、かつ顧客の声を反映した現実的な新規事業となります。
新規事業計画は【図表2】にある10の着眼で総合的に検討を進めていきます。なおPhaseⅡ終了後は、いよいよローンチに向けたアクションとなりますが、投資余力の無い企業においては、全てを自前で推進しないという決断も重要なポイントです。
したがって、新規事業計画の立案と並行して新規事業を推し進めるパートナーやアライアンス先の調査を検討する必要があります。
最終は「新規事業計画書」としてまとめることになりますが、【図表3】がその参考になります。
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【図表3】出所:タナベコンサルティングにて作成
企業実例から見る新規事業のパターン(15の類型)
タナベコンサルティングでは新規事業を15の類型に分け定義しています(【図表4】)。
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【図表4】出所:タナベコンサルティングにて作成
近年ではスタートアップ企業による6つ目の「プラットフォーム型」の台頭が目立ちます。新規事業の立ち上げに際し、この類型を学び、何を選択すればビジネスモデルが差別化されるかを検討することも重要な要素です。
新規事業立ち上げで重要なこととは?
新規事業の立ち上げを検討するにあたり、重要なことは3点あります。
①経営環境の掌握
まず第一に重要なことは、10年単位で起こっている経営環境の変化を正しく理解することです。自社が置かれている状況を認識し、なぜ事業を変革させる必要があるのかを理解することで、新規事業立ち上げへの想いを確固たるものとし、組織およびチームで共有する必要があります。
②社会・顧客から選ばれる
次に重要なことは、経営環境の変化によって事業構造そのものをどう変革していくのか、本質を捉えることです。新型コロナウイルス感染症により、社会および顧客の価値観が変容し、結果として多くの産業において構造変化が生じています。したがって、事業に対する評価のものさしが変化していることを正しく認識し、社会および顧客から真に求められる新規事業を立上げていく必要があります。
③事例から学ぶ
日本の新規事業の多くは、欧米で成功するビジネスモデルの模倣と言われています。その意味では、国内外問わず幅広い業界の様々な事例から学ぶことも重要です。デジタル化の進展により業界の垣根はさらに低くなっています。競争優位性を構築するうえで、異業種の競争や協業は重要で、多様な業界の動きを知ることは自社のアクションを考えるきっかけにもなります。
【図表4】に示すような着眼で、あらゆる企業より事例を整理することも一つの有効な手段であり、プロジェクトメンバーの視座を高め、より高い精度での新規事業計画に直結することでしょう。
新規事業立ち上げに役立つ助成金制度
政府では2022年をスタートアップ創出元年に位置づけており、「経済財政運営と改革の基本方針2022」では重点投資分野として「スタートアップ(新規創業)への投資」が盛り込まれています。スタートアップ育成5ヵ年改革が策定され、5年間で10倍増の目標を打ち立てています。
資金力が限られる企業では、新規事業立ち上げに際して各種助成金や補助金を活用することも有効です。
助成金、補助金を活用するメリットは、返済不要で資金計画が立てやすい、国や自治体の方針を理解した新規事業立ち上げが出来る、新規事業計画の精度が向上し成功確率が高まる、といったことがあります。以下は代表的な助成金精度です。
①ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)
②小規模事業者持続化補助金
③事業再構築補助金
④IT導入補助金
⑤事業承継・引継ぎ補助金
⑥JAPANブランド育成支援事業
助成金、補助金の種類や内容は年度によって変化があります。都度、新しい情報を入手することが必要です。
助成金や補助金を上手く活用して資金調達することで、新規事業立ち上げの成功に一歩近づくはずです。
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