人事コラム
退職金制度構築のメリット徹底解説
企業と社員の双方にとって有益となる、自社にマッチした退職金制度の構築ポイント
退職金制度とは、退職する際に会社から退職者に支給される金銭の総称である。
法律上、退職金の支払いは企業に義務付けられたものではないが、終身雇用が根付いてきた日本では約8割の会社が導入している制度である。
退職金制度には様々な種類があるが、企業と社員の双方にとってのメリットを得るためには自社に適した手法を選択することが重要。
退職金制度とは
退職金制度とは、退職する際に会社から退職者に支給される金銭の総称である。
法律上、退職金の支払いは企業に義務付けられたものではないが、終身雇用が根付いている日本では約8割の会社が導入している制度である。導入することの目的は主に3点ある。
1. 社員の生活支援とモチベーション向上
退職金制度は、社員に対して将来の経済的な安心感を提供する。これにより、社員は長期的に企業に貢献しようとする意欲が高まり、業務へのコミットメントが強化される。
2. 優秀な人材の確保と定着
競争が激しい人材市場において、魅力的な退職金制度は優秀な人材を引き寄せる要因となる。また、退職金制度があることで、社員は長く働くことを選びやすくなり、離職率の低下に繋がる。
3. 企業のブランド価値向上
退職金制度は企業が社員に対して責任を持つ姿勢を示すものであり、企業の社会的責任(CSR)を果たす一環としても重要な役割を持つ。退職金制度が充実している企業は、企業イメージ向上が図られ、採用活動や取引先との関係にも好影響を与える可能性が高まる。
これらの目的を踏まえた退職金制度の導入は、企業と社員の双方にとって有益な結果をもたらすことが期待できる。退職金制度の導入・再構築を検討する企業は、まずは自社としての退職金の目的は何かを明確にすることが必要である。
退職金制度の主な種類
退職金制度には様々な種類があるが、社員視点で見ると「一時金として支払われる退職金」と「年金として支払われる退職金」の2つに分類することができる。それぞれの内容と主な種類は下記の通りである。
一時金として支払われる退職金
【概要】
定年、会社都合、自己都合、死亡などの理由で退職した労働者に対し、あらかじめ定められた規定に基づいて、企業または退職金管理機関から一時金を支給する制度。退職年金制度よりも制度設計を企業独自で自由に定めることができる。
【主な種類】
- 退職金積立制度:企業が積み立てた金額を退職金として一括で支給
- 退職金保険制度:企業が保険会社を活用して積み立てた保険金を退職金として一括で支給
- 中小企業退職金共済制度:中小企業が社員の退職金を共済組合を通じて積み立て退職金として一括で支給
【導入に向いている企業】
- 退職者における退職時の短期的な資金ニーズに応えたい企業
- 勤続年数や役職、社員個々の貢献度や退職理由などを退職金額に柔軟に反映させたい企業
- 業績に応じて支給額を変動させたい企業
※ただし、中小企業退職金共済制度は共済組合の規定に従う必要があるため、企業が自由に設定できる範囲には限界がある。
退職年金制度(企業年金制度)
【概要】
退職した労働者に対し、規約または契約に基づき、企業または退職年金資産管理運用機関などから退職者本人または遺族に対し、原則として年金で給付する制度。年金の3階部分とも呼ばれる(1階は国民年金、2階は厚生年金)。もともとは退職金を一定期間にわたって定期的に年金形式で分割して支払うようにした仕組みであるが、現在は企業年金の種類や会社が定めるルールによって受け取り方を決定することができる。
【主な種類】
- 退職年金制度:会社が内部または外部で積み立て、退職後に定期的に年金形式で支給。
- 確定給付年金制度(DB制度):企業が資金を運用し、自社で定めたルールに基づいて金額を決定する。退職後の原則60歳に受け取る金額は、企業の資金運用の結果に左右されることなく、規定で定められた金額が保証される。
- 確定拠出年金制度(DC制度):企業が毎月一定額を拠出し、社員がその資金を運用する。退職後の原則60歳に受け取る金額は、拠出された資金とその運用成績によって変動する。
【導入に向いている企業】
- 社員に対して、長期的な生活安定を重視する企業
- 確定給付年金制度(DB制度):長期的な資金の運用リスクを負うことが可能な財務基盤がしっかりしている企業
- 確定拠出年金制度(DC制度):社員に運用の自由度を与え、且つ自社の財務負担を軽減したい企業
近年の傾向としては、確定拠出年金制度(DC制度)の利用率が高まっており、特に中小企業やベンチャー企業において導入が進んでいる。一方、確定給付年金制度(DB制度)は社員からの信頼感を得ることができる制度であるが、運用リスクや財政負担の観点から導入が減少している傾向がある。企業は自社の財務状況や社員のニーズに応じて、最適な制度を選択することが求められている。
退職金制度の導入ステップ
ここからは、退職金制度を新たに導入する際のステップについて解説していく。
冒頭、退職金自体に企業の義務はないと述べたが、一度制度を導入したら簡単には変更できない性質を持つため、退職金制度の構築・導入は社員の理解を得ながら慎重に進めていくことが重要となる。
Step.1:制度の種類の選定
自社が退職金制度を導入する目的を明確にしたうえで、社員のニーズと財務状況を踏まえて退職金制度の種類を選定する。退職金年金制度の方が導入に時間を要するため、導入時期から逆算して早めの検討が必要である。
Step.2:支給基準の設定
新卒入社から定年まで働いた際の上限となる退職金支給水準を決定し、そこから勤続年数、役職、業績などに基づく支給基準を設定する。制度の種類によっては退職理由を踏まえた金額設計が可能。また、退職金制度のコストを試算し、企業の財務状況に合致するかどうかも確認する。
Step.3:原資の確保
退職金の支払いに必要な資金をどのように確保するかを検討する。外部で運用する機関としては、投資信託会社、資産運用会社、保険会社、銀行、年金基金などが挙げられる。自社の退職金制度の目的、運用の利便性、必要コストなどを考慮して比較し、決定する。
Step.4:社員との合意・説明
制度の種類によっては会社が独断で規程を変更できない場合があるため、制度の大枠が決定したらなるべく早い段階で社員への説明機会をつくり、制度への理解促進を図ることが必要不可欠である。特に確定拠出年金制度は、社員の投資に対するリテラシーを高める必要があるため、導入時に限らず定期的な説明会・勉強会を開催することが望ましい。
Step.5:制度の運用
決定した規定に基づいて制度を運用する。入社者・退職者が発生したタイミングで、適切な制度の説明を行う。
さいごに
ここまで見ていただいた通り、退職金制度には様々な種類があるが、企業と社員の双方にとってのメリットを得るためには自社に適した手法を選択することが重要だ。社員に選択肢を提供し、自身のライフスタイルに合わせた受給方法を用意している企業も増えており、退職金制度の充実を図ることで採用競争力や人材定着に効果があることが分かっている。一方で、労働基準法や税法などの制約も多いのが退職金制度の特徴であり、法令遵守のリスクや財務状況を踏まえた持続可能な制度設計が必要不可欠である。
退職金制度の設計には、あらゆる観点からのポイントを押さえ、長期的な視点で検討を進めていくことが必要不可欠だ。自社の退職金制度は企業と社員の双方にとって有益なものとなっているのか。この機会に退職金制度の在り方を再確認してみてはいかがだろうか。