ジョブローテーションを単なる制度として捉えず、
組織戦略と人材育成の双方に貢献する戦略的施策として活用しよう!

ジョブローテーションとは
ジョブローテーション(通称:ジョブローテ)とは、社員の能力開発および組織全体の活性化を目的として、戦略的かつ計画的に社員を複数の職務や部門に異動させる人事施策である。単なる人員配置の変更ではなく、個々の社員の能力開発、キャリア形成、組織全体の活性化を目的とした戦略的な取り組みを指す。社員は、異なる部署や職務を経験することで、幅広い知識、スキル、視点を獲得し、会社や組織に対する立体的な理解の獲得に繋がる。

ジョブローテーションと人事異動の違い
ジョブローテーションと人事異動はしばしば混同されるが、その目的と意図に明確な違いがある。人事異動は、組織のニーズ(EX:適材適所化、組織活性化など)に応じて人員を配置転換するものであり、必ずしも社員の能力開発やキャリア形成を主眼とするものではない。一方、ジョブローテーションは、能力開発と組織全体の活性化を目的に、戦略的かつ計画的に職務を異動させるものであり、個々の社員の長期的なキャリアプランを考慮する点において異なる。

ジョブローテーションの目的
ジョブローテーションは、個々の社員に対する影響を考慮せず、漫然と実施されるべきではない。
戦略的な人事施策の1つとして、組織の目的と個人のキャリアプランを融合させ、効果的な運用を図ることが重要である。
ジョブローテーションの目的は多岐にわたるが、主なものを以下に示す。
1.人材育成(多角的な知識・スキルの習得)
2.キャリア開発の促進
3.組織全体の活性化

ジョブローテーションのメリット
1.社員の能力開発、キャリア形成の促進:
多様な知識・技術の獲得や業務経験を通じて、潜在能力が開花したり、新たな興味を発見したりと、社員の成長を強力に後押しする。自身のキャリアビジョンが明確になることで、自律的な成長意欲も高まり、結果として組織全体のパフォーマンス向上にもつながる。
2.組織全体の活性化、イノベーションの促進:
異なる部署やバックグラウンドを持つ人材が交流することで、既存の業務プロセスや組織構造に対する固定観念が打ち破られ、新しいアイデアや改善提案が生まれやすくなる。多くの視点を生み出す触媒として、組織活性化とイノベーション創出を促進する。
3.組織に対する社員のエンゲージメント向上
組織全体の理解を深め、貢献できる範囲が広がることで、会社・組織に対する愛着や帰属意識、貢献意欲が高まる。さらには自分の仕事が組織全体の目標達成にどうつながるのかが明確になり、モチベーションを高く維持できる。

ジョブローテーションのデメリット
1.異動初期の生産性低下、業務効率の低下:
新しい業務を覚える必要があり、異動直後は生産性や業務効率が低いことが想定される。特に、専門性の高い業務や複雑なプロセスを伴う業務においては、その傾向が顕著になる。
対策:異動前の十分な引継ぎ期間の確保、研修制度の充実、メンター制度の導入など
2.異動に対する社員の抵抗、モチベーション低下:
新しい環境に馴染めない、これまでの経験やスキルが活かせないといった理由から、異動に対して抵抗を感じる社員も存在する。適切な人選がなされないと、異動後の業務内容に魅力を感じられず、モチベーション低下につながる恐れもある。
対策:キャリアプランとの整合性を考慮した人選、異動後のキャリアパスの提示、異動後の業務内容や期待される役割の明確化など
3.専門性の高い業務における知識・スキルの習得不足:
ローテーション期間が短い場合、専門性の高い業務に必要な知識やスキルを十分に習得できないまま、次の異動を迎えてしまう可能性がある。表面的には業務をこなせても、本質的な理解に基づいた判断や問題解決が難しく、業務品質の低下につながるリスクもある。
対策:OJTの充実、Off-JTの組み合わせ、異動後の進捗状況の定期的な確認など

ジョブローテーションの注意点と効果的な導入の仕方
ジョブローテーションを効果的に導入し、そのメリットを最大限に引き出すためには、以下のステップで進めることが重要である。
ステップ1:目的の明確化と組織戦略との整合性確保
ジョブローテーションの導入にあたっては、まず何を達成したいのか、具体的な目的を定めることが重要である。その際、組織全体の経営戦略・人材戦略との整合性を確認し、目標達成に貢献できる計画の策定が必要だ。(例:次世代リーダー育成、部門連携強化、イノベーション創出など)
ステップ2:対象者の選定とキャリアプランとの整合性
対象者を選定する際には、社員のスキル、経験、適性、キャリアプランを十分に考慮して人材を選抜する。また、本人のキャリア目標との合致を確認し、十分な動機づけを通じて納得感の高い異動を実現することがポイントである。
ステップ3:ローテーション期間の設定と業務内容の明確化
ローテーション期間は、目的、職務内容、個々の能力などを勘案し、適切に設定する。さらに、異動先の業務内容、期待される役割、具体的な目標などを明確に伝達することが重要である。
ステップ4:研修・教育体制の整備とOJTの充実
異動先業務に必要な知識・スキルを効果的に習得するため、Off-JTとOJTをバランス良く組み合わせた研修プログラムを整備する。また、メンター制度の導入など、異動後の社員をきめ細やかにサポートすることが望ましい。
ステップ5:フォローアップ体制の構築と定期的な見直し
異動後の社員の状況を定期的に把握すべく、人事担当やメンターによる定期的な面談を実施することが重要である。面談を通じて、丁寧なフィードバックによって成長を促進させる必要がある。組織体制としては、業務上の課題やキャリアに関する相談に親身に応じる、強固なサポート体制を構築すべきである。また、制度の効果を定期的に測定・評価し、改善点を重ねることも求められる。
さいごに
ジョブローテーションは、組織活性化と人材育成、社員満足度向上とエンゲージメント向上に貢献する有効な人事施策である。ステップを踏んだ計画的な導入と丁寧なフォローアップによって、組織と個人の成長が有機的に結びつき、企業は真の競争力を発揮し、持続的な成長を遂げることができる。また、ジョブローテーションは「人材育成・能力開発への投資」を表しており、採用ブランディングへ活用することも出来る。ジョブローテーションを単なる制度として捉えるのではなく、組織戦略と人材育成の双方に貢献する戦略的なツールとして活用していただきたい。
この課題を解決したコンサルタント

タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部
チーフコンサルタント鈴木 大誠
- 主な実績
-
- 中堅製薬業:人事制度再構築コンサルティング
- 中堅製造/販売業:長期ビジョン策定コンサルティング
- 中堅サービス業:企業内大学設立支援コンサルティング
- 中堅建設業:教育マニュアル作成支援コンサルティング
- 大手化学工業:戦略経営診断
