シェアードサービス体制を構築するステップを解説
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「シェアードサービス」とは複数の企業・組織で実施している間接業務を1か所に集約させ、その組織を独立採算化させ、顧客にサービスを提供する経営手法のことを指します。特に現代においては、複数の事業を持つ企業がホールディング経営体制に移行する際に、競争力を高めるためのグループ経営の技術の一つとして検討されることが多いです。しかし、シェアードサービスを実施する困難さは過小評価されることが多く、導入したものの、かけた労力に見合わない結果となってしまう例も多く見受けられます。本コラムではそうした失敗を防ぐべくシェアードサービス体制を構築するにあたって着手する前に検討すべきポイントと、構築するステップについて解説させていただきます。
シェアードサービスに着手するポイント
シェアードサービスの考え方自体は非常にシンプルです。各事業部門の間接業務の共通部分を一本化することで効率化し、コア業務に注力できるようにするだけの取り組みですが、導入にあたっては数多くのハードルがあります。
一つ代表的なものをご紹介します。どの企業も必ず直面するものに「いかにして当事者の不安を取り除くか」という問題があります。シェアードサービスの導入は、集約される側で業務に従事している当事者からすると「自分たちの仕事が奪われるのではないか」という心理がはたらきます。また仕事がなくならないとしても、「仕事の負担が増えるのではないか、今まで覚えた業務のやり方を変えなくてはならないのではないか。」という、当事者からするとまったくありがたくない取り組みに捉えられてしまうことになります。シェアードサービスを導入するにあたっては、当事者と経営者が丁寧に時間をかけて協議をすることが求められます。
このようにやみくもに導入して、いたずらに従業員の不安をあおることがないように導入を決定する前に検討をしておくべきことを何点か紹介します。
(1)シェアードサービスを行う業務は何とするか
一般的には経理・財務業務や人事労務業務、総務業務などの業務が対象となる場合が多いが、言葉の意味は単に「統合」であり、バックオフィス業務に限定されるものでもありません。自社において集約すべき業務は何かを検討するところからシェアード化はスタートします。
(2)シェアードサービスの目的は何か
最終ゴールをどこに設定するか、業務量や従事する従業員数、人件費など目標を立てて取り組むことが重要となります。
(3)業務の集約をどこに進めるか(センターをどこに置くか)
シェアードサービスセンターは一般的にホールディングカンパニーに設置されることが多いが、中間持株会社に設置される場合や、シェアードサービスを専門に行う企業に集約される場合もあります。メリット・デメリットを踏まえて事前に検討が必要です。
(4)シェアードサービスとIT戦略をどのように紐づけるか
現代においてシェアードサービスはIT戦略とは切っても切り離せません。自社の業務を分析し改善のポイントを探りながらシェアード化を進めることが従来は一般的でしたが、近年ではパッケージシステムに業務を合わせた方が改善が早く進む場合があります。
(5)シェアードサービス化をどの程度のスピードで進めるか
シェアード化はスモールスタートでも一足飛びに進めることも可能です。メリット・デメリットを検討したうえで自社に合ったスピード感を検討してください。
(6)集約先の従業員(業務が増える従業員)と業務が減る従業員のモチベーションをどう維持させるか
上記にも記載しましたが、シェアードサービスのプロジェクトで最も障害となる項目がこちらです。シェアードサービスの取り組みが全体最適の中で有用な取り組みであることを理解して協力してもらい、関与するメンバーの方向を一致させる仕組化や報酬の整備が求められます。
上記に記載の項目はシェアードサービスの導入を進める前に検討が必要な事項です。
項目によっては着手してから最終判断されるものもあると思いますが、事前に一度検討してから意思決定を行うことを推奨します。
シェアードサービス導入のステップ
シェアードサービスについても、そのほかの課題解決のステップと同様に「知選行」(知る、選ぶ、行動する)の3ステップで実行する必要があります。
シェアードサービス体制構築のステップの一つ目は「知る」(現状認識)です。対象組織(企業)と業務を絞ったうえで、現状の業務の量、従事者の数、業務の流れなどを整理することが必要となります。その際のポイントは、ただ漫然と事実をまとめるだけではなく、そもそもこの業務は必要なのか(廃止)、もっと簡単にできないか(簡素化)など業務を効率化する視点を持って進めることです。なぜならシェアードサービスの真の目的は業務を統合することではなく、業務を効率化することにあります。単純に業務時間の総和を減らすために何ができるかという視点で各業務を分析することが重要です。
ステップの二つ目は「選ぶ」です。実際に対象業務や対象会社など範囲を明確にし、シェアードサービスの実装判断を進めていくフェーズになります。ここでのポイントは判断基準の明確化です。シェアードサービスを行うかどうかの判断軸は、特にスモールスタートで実装を進める場合は非常に重要です。単にコストメリットだけを求めるのか、ガバナンスの強化を並行して進めたいのかによって判断が変わります。また日本の労働人口が減少する中で、将来の採用難を見越してコストメリットが出なくても省人化のためにシェアード化に踏み切る企業も増えています。自社がシェアード体制を構築する目的を今一度明確にする必要があります。
ステップの三つ目は「行動する」です。ここでは実際に業務を統合していくフェーズです。ステップ3で特にポイントとなるのはコミュニケーションです。特に各事業会社の実務担当者との対話を増やし、シェアードサービスの取り組みが全体最適の考えのもと実行され、改善途上であることを理解してもらう必要があります。シェアードサービス体制への移行期間は業務手順の変更などで一時的に負荷がかかり、成果が見えにくい時期となることが多いです。そうした中でも協力を得てプロジェクトを前に進めるためのコミュニケーションが求められます。
シェアードサービス自体は上手くいけば、数値としてわかりやすい効果が得られるものですが、導入し成果に結びつけるまでは対話を中心とした泥臭い業務も必要です。上記のステップとポイントを押さえて、シェアードサービスの導入をぜひ検討してみてください。
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