COLUMN

2023.02.07

なぜホールディング経営が選ばれるのか?
そのビジネスモデルはすでに陳腐化している

  • ホールディング経営

なぜホールディング経営が選ばれるのか?そのビジネスモデルはすでに陳腐化している

本コラムは、ダイヤモンド社発行の「ホールディング経営はなぜ事業承継の最強メソッドなのか」の第1章の記事です。

ポートフォリオで成長する

自分が育てた牛を、自分で食卓まで届けたい─それが父親の夢であり、口癖であったという。
鹿児島に本社を有するカミチクホールディングス代表である上村昌志氏は、父親が経営していた畜産事業を継承せず、育てた牛を加工販売する製造業を新たに立ち上げた。それが現在のカミチクであり、創業したのは今から30年以上前のことである。その後、同社は順調に成長発展し、2018年現在では年商170億円の規模になっている。また、その成長過程においては新たに牛を肥育する畜産事業を立ち上げたり、自らが肥育し加工した鹿児島県産の黒毛和牛を提供する焼肉店を出店したりしてその業容を拡大している。
農業ビジネスにおいて一次産業である農業、二次産業である食品加工事業および三次産業である外食事業などを一貫して取り組むモデルを「六次化」といい、政府も日本の農業の振興を目的に推奨し資金援助などを積極的に行っている。カミチクグループは牛の分野で六次化を成功させたパイオニアモデルとして注目され、今後はグローバルマーケットへの展開も含めさらなる成長を遂げようとしている。
カミチクホールディングスは、2015年にカミチクからの株式移転により新設した純粋持ち株会社である。そこから六次化モデルを伸長させる成長戦略を打ち出し、一次産業から三次産業までを展開する各事業会社がそれぞれの事業を伸ばしていくというグループ組織構造となっている。農業事業、食肉加工事業、外食事業はそれぞれを単独で見れば成熟事業であり、今後の成長は見込みづらい。しかしながら六次化というすべての事業を統合したビジネスモデルとして打ち出すことで新たな事業価値が生まれ、競争力(付加価値)も高まり、全体の成長が加速していくのである。
カミチクグループはそういう壮大なビジョンを実現しようとしているが、その原点には右に述べたような父親の夢があり、また停滞する地域の畜産業界を再生させたいという使命感がある。そんな創業者の理念がホールディング経営体制で六次化を展開するという戦略を決断させ、大型のM&Aなどにも躊躇なく投資する価値判断基準となっているのである。

企業は常に成長していなければならない。
その理由はシンプルだ。
企業は成長が止まると、組織としてのバランスを欠き、健全さそのものを維持できなくなるのである。資金繰りが厳しい経営状態を「自転車操業」というが、もっといえば、企業はそれ自体が自転車のようなものであり、前に進んでいないとバランスを取れず倒れてしまうようにできている。

例えば、売上げの伸長が止まるとまず営業部長がその責任を追及されるだろう。経営会議などで「もっと販売を伸ばせ」とやり玉に挙げられる。営業部長も相応の努力をしているがもはや自部門だけでは解決策を見いだせず、製造部門に責任を振り向ける。「顧客はさらなるコストダウンを要求している。もっと原価が下がらないのか!」と。当然ながら製造部長も黙ってはいない。「何を言ってるんだ! 営業がもっと数を売れば固定費は下がるじゃないか!」。また開発部門にも矛先が向くかもしれない。「もっと売れる新製品をつくれよ!」。開発部長も猛反論するだろう。「だったら顧客のニーズをしっかりとつかんでフィードバックしろ!」 堂々巡りの構図である。これを捌くのは経営者しかいない。
「営業、製造、開発で協力し合って、よいものをリーズナブルに販売し、目標を達成するのだ」。経営者はより高い目線で目標設定し、組織全体を前進させていかなければならない。「現状維持でよし」と言った瞬間から、部門長は自部門やその目標数字を守ることに必死になり、前を向かず横を向いて子どもじみた喧嘩を始めてしまうのである。組織内にコンフリクト(対立、葛藤)が生じやすい体質になり、成長を阻害するどころか衰退し、経営破綻する最大の原因にもなり得る。
それが、企業が常に成長していなくてはならない大きな理由であるだろう。
また、成長しない組織はチャレンジをしない。社員の成長にも同じようなことがいえる。成長とは、〝チャレンジする経験の蓄積により判断力が高まっていくこと〟であると筆者は定義している。目標を立て、それを実現する仮説を考え、実際にチャレンジする。そのチャレンジは最初、失敗するかもしれない。しかし失敗も教訓とし、仮説を見直して再チャレンジする。その繰り返しによりやがて成功体験を得るだろう。チャレンジが成功すればその仮説は自身のノウハウとなり、同じことをしても成功する再現性が高まる。次のチャレンジに対する自信にもつながるだろう。企業も成長目標を立て、独自の戦略を構築し、実際に組織をあげてチャレンジしていく。成果が出れば構築した独自戦略はその企業の差別的競争優位性となり、売上げを伸ばすだけでなく、付加価値や収益性を高めていくことにつながるのである。

成長する企業は、成長目標→仮説(戦略)→チャレンジ→成果の好循環となるが、成熟した企業は悪循環に陥ってしまうことが多い。企業が成長しないと社員も成長しないし、社員が成長しないと企業も成長しないのである。世の中には好循環と悪循環しかない。現状維持とはあくまで結果として得られる均衡状態であり、現状維持そのものは目標にはなり得ない。また好循環にしても悪循環にしても、その循環スピードは時間とともに加速していく性質を持つ。悪循環の場合は、経営破綻にまで加速度的に悪化してしまうことにもなりかねない。そう考えると、企業はやはり成長を志していくしかないのだ。

企業の成長要因は、外部環境に依存するところも大きいだろう。戦後の日本経済は、バブル経済崩壊前までの成長期とそれ以降の成熟期に大きく二分されるという見方ができる。現存する中堅・中小企業においては日本経済の成長期とともに業容を拡大してきたところが多い。戦後創業の「還暦企業」が多いことは先に述べたが、そういった企業はその典型といえるだろう。深刻なのは、多くの中堅・中小企業が日本経済の成熟化とともに伸び悩んでいるという事実である。経営者の世代で見ると、創業世代は日本の経済成長とともに企業を成長発展させたが、第二世代はいわゆる「失われた20年」の時代に成長を鈍化させているともいえる。さらにバトンを受け継ぐ第三世代は企業を再成長させていかなければならない使命を背負っているのだ。
しかも外部環境は必ずしも順風ではなく、むしろ逆風であるかもしれない。高度成長期のような画一的な成長は望むべくもなく、絶えず変化し多様化する不確実性のなかで、"自力で成長する"戦略と体制で臨まなければならないのである。

成長が止まり、成熟化あるいは衰退化している企業は、旧態依然としたビジネスモデルを引きずっていることが多い。言い換えれば、成長期のビジネスモデルに変化を加えられていないのである。逆に成長している企業は、既存のビジネスモデルを時代や顧客ニーズの変化に合わせて進化させている。事業のライフサイクルは30年という説がある。旧態依然としたビジネスモデルは、そこにいくら資源を追加投入しても成長に限界があることが多い。その場合はほかのビジネスモデルとの組み合わせで新たな価値を生み出していくことが有効となるであろう。他社との業務提携によるオープンイノベーションや、M&A投資による買収などの動きが加速しているのは、そういった時代の流れを表している。
先に紹介したカミチクグループも一次産業、二次産業、三次産業を掛け合わせた六次化モデルでさらなる成長を遂げようとしている。その過程では三次産業である外食事業のM&Aに巨費を投じて踏み切った。現有資源の投下だけでは戦略展開にスピード感が出ず、上村氏のビジョン実現におけるボトルネックとなっていたからである。

事業の組み合わせによりシナジー(相乗)効果を得て付加価値を高める戦略を、本書では「事業ポートフォリオ戦略」と呼ぶ。将来の不確実性が高いマーケットのなかで企業が自力で成長していくためには、そういった合従連衡によるスキームが有効といえる。ホールディング経営体制は、それを実現するためのグループ戦略モデルとなるのである。
本書の冒頭で紹介した介護事業グループの創業社長は、講演のなかで「20年前、介護は海のものとも山のものとも分からないビジネスであった」と語る。そして、「これからの20年で状況はまた大きく変わるだろう」と予測する。現在、ホールディング経営体制を敷いているのは、いかに状況が変わろうとも、その変化にフレキシブルに対応するためであるというのだ。
もしかすると、20年後の同社グループの事業ポートフォリオは大きく様変わりしているかもしれない。

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