資本政策 事例|押さえるべき3つのポイントを事例を基に解説!
- 資本政策・財務戦略

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一度決めたら戻れない。それが資本政策です。
「資本政策」と聞くと、スタートアップや上場企業の話だと思われる方が多いかもしれません。
しかし、会社の株式を誰がどれだけ保有するかを定める資本政策は、企業規模を問わず、すべての企業の成長と存続を左右する重要な経営課題です。
特に留意すべきは、資本政策の決定が持つ不可逆性です。
一度発行や譲渡を行った株式は、相手の同意がなければ取り戻すことができません。
創業初期における軽率な判断が、数年後の事業承継や重要な経営判断の局面で、大きな制約となるケースは少なくありません。
本コラムでは、中堅・中小企業が陥りやすい失敗事例を踏まえ、企業の持続的な成長と安定した経営体制の構築に向けて、資本政策において押さえるべき3つの要点を解説します。
1. よくある失敗事例とその教訓
まずは、多くの企業が陥りがちな失敗事例を紹介します。
これらは多くの経営者が直面し得る本質的な経営課題です
(1)安易な株式譲渡により経営権を失ったA社・B社の事例
A社は創業時、信頼関係のある創業メンバー2名で株式を均等に保有しました。
しかし、事業の成長に伴い経営方針をめぐる対立が深刻化し、株主総会では意思決定ができない「デッドロック」状態に陥り、会社は機能不全となりました。
また、創業直後に事業資金を提供した外部協力者へ、感謝の意を込めて、十分な検討を行わず20%の株式を譲渡したB社の例もあります。
その後の増資を経て、創業者の持株比率は3分の1を下回り、会社の重要事項を単独で否決することすら困難となりました。
【教訓】
経営の主導権を安定的に維持するためには、創業者が少なくとも過半数、理想的には会社の重要事項を単独で決定できる3分の2以上の議決権を確保することが重要です。
株式は感情的な関係を示す「友情の証」ではなく、企業の支配構造を左右する経営権そのものであることを認識する必要があります。
(2)相続準備の欠如により株式が分散したC社の混乱
オーナー経営者であったC社の社長が急逝しました。
相続対策を講じていなかったため、株式は法定相続分に従って、経営に関与していない配偶者や複数の子どもに分散しました。
結果として、後継者である長男は安定的な議決権を確保できず、他の親族株主との意見対立や要求対応に追われ、迅速な経営判断が困難となりました。
【教訓】
事業承継は、相続が発生してからでは適切な対応が取れない場合があります。
経営権を円滑に後継者へ承継するためには、生前から計画的に株式移転を進めるか、後述する「種類株式」などを活用した事前対策が不可欠です。
2.成長を実現する資本政策の3つのポイント
では、失敗を避け、企業の成長を確かなものにするためには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。
(1)ポイント1:経営の安定的な株主基盤を構築する
経営者が安定した経営権を維持するためには、自社の経営方針を中長期的に支持する「安定株主」の存在が極めて重要です。
①従業員持株会の活用
従業員が自社株式を段階的に取得する「従業員持株会」は、強力な安定株主となり得ます。
従業員の業績への関心が高まり、組織全体のモチベーション向上にも寄与します。
企業にとっては、敵対的買収への防衛策となるほか、福利厚生の充実による人材確保や定着にもつながるといった効果が期待できます。
②中小企業投資育成株式会社の活用
中小企業投資育成株式会社のような公的性格を持つ機関から出資を受け、安定株主となってもらう手法も有効です。
自己資本の充実や、対外的な信用力の向上が図れます。
ある事例では、先代の方針により株式が分散し、後継者の持株比率が30%と不安定な状況にありましたが、投資育成会社の出資により経営権の安定化が実現しました。
(2)ポイント2:「種類株式」を活用し、円滑な事業承継を設計する
事業承継に伴う株式の課題に対応する上で、「種類株式」は非常に有効な手段です。
定款を変更することで導入でき、異なる権利内容を持つ複数の種類の株式を発行することが可能になります。
①議決権制限株式:経営権を後継者に集中させる
後継者以外の相続人には財産的価値を残しつつも、経営には関与させたくないという要望は少なくありません。
そのような場合には、「配当は優先的に受け取れるが議決権は付与されない(または一部制限される)」株式を相続させることで、遺産分割の公平性を保ちながら、経営権を後継者に集中させることができます。
②拒否権付株式(黄金株):先代が経営を見守る
後継者に大半の株式を譲渡した後も経営に対する懸念がある場合には、「拒否権付株式(通称:黄金株)」の活用が有効です。
たとえ一株でも保有すれば、重要事項(役員の選解任、合併など)に対する拒否権を持つことができます。
これにより、先代経営者が一定期間経営を監督・支援しつつ、段階的に権限移譲を進めることが可能になります。
(3)ポイント3:従業員の意欲を高めるインセンティブ設計
企業の成長は、従業員の貢献なしには実現しません。
資本政策を通じて、成長の果実を従業員に還元する仕組みを整えることは、組織の活力向上に直結します。
①ストックオプションの付与
役員や従業員に対し、将来あらかじめ定められた価格で自社株式を取得できる権利(ストックオプション)を付与する制度です。
企業価値の向上により株価が上昇すれば、従業員はキャピタルゲインを得ることができます。
優秀な人材の獲得や既存従業員の貢献意欲向上に向けて、非常に効果的なインセンティブ制度です。
②従業員持株会への奨励金制度
前述の従業員持株会制度において、従業員の拠出金に対し、企業が一定の奨励金を上乗せする方式も有効です。
従業員の資産形成を支援するとともに、企業への帰属意識向上にもつながります。
おわりに:必ず専門家と共に
資本政策は、会社法や税法が複雑に絡み合う専門性の高い領域です。
本コラムで紹介したポイントは、あくまでも基本的な考え方にとどまります。
自己判断による対応は、予期せぬ税負担や法的なトラブルを招くリスクがあります。
自社の将来を確かなものにするためにも、資本政策を検討する際には、弁護士、公認会計士、税理士などの専門家に相談のうえ、慎重に進める「守り」の視点と、将来的な成長や経営の安定に資する「攻め」の視点を両立させることが重要です。
また、戦略的な資本政策の構築に当たっては、経営コンサルティング会社への相談も有効な選択肢の一つです。
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