企業価値を測る代表的な指標とは?
PBR・PER・ROEの違いと意味を解説
- 企業価値向上
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経済産業省が2014年に「伊藤レポート」を公表して以降、企業価値向上に関する議論が日本でも盛んになり、現在では多くの企業で当たり前に企業価値の向上という言葉が使用されています。従来、企業価値とは「株主に対する経済的利益の最大化」を意味することが一般的であり、その評価には株式の時価総額(株価 × 発行済株式数)が代用されてきました。また、企業価値の算出手法としては、財務諸表に基づいて将来のキャッシュ・フローを予測し、それを現在価値に割り引くDCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法が広く用いられてきました。一方で昨今はこのような財務的価値だけでなく、ESG活動や自社固有のノウハウ、人材などの金銭換算が困難な非財務的価値も注目されています。こうした背景を踏まえ、本コラムでは非財務的な価値も含めた企業価値を把握する上で重要とされるPBR、PER、ROEといった代表的な財務指標について解説し、企業価値に対する理解を一層深めていただくことを目的としています。
PBRについて
はじめにPBRとは株価を1株当たりの純資産(BPS)で割った指標であり、1株当たり純資産とは企業の純資産を発行済株式数で割ることで算出できます。
PBRが1倍を下回る場合、株価が純資産よりも低く市場で評価されていることを表し、逆に1倍を上回る場合は、株価が純資産よりも高く市場で評価されていることを表します。非財務価値も含めた企業価値を測ることができる代理変数であるこのPBRの水準が2000年以降、日本企業と海外企業との間で差が開き始めました。※
米国企業は平均すると3~4倍、英国企業は2倍程度であるのに対して日本企業は1~1.5倍の低水準で推移しています。PBRの1倍を超える部分こそが帳簿上の価値を上回る固有の価値になりますが、日本企業のこの部分が弱いと言うことができます。
改善するためには不要な資産の圧縮や資本の効率的な運用に加えて、非財務資産への投資を積極的に行い、投資家に対しても企業のこのような取り組みを開示することで株価を上げていくことが必要です。また、非財務資産の中でも近年特に注目されているのが「人的資本」であり、いかに人的資本へ投資を行うか、またその内容をいかに投資家に対して適切に開示していくかは、多くの日本企業にとって重要な経営課題となっています。
参考
経済産業省:参考資料(P.10)
ROE・PER・PBR推移の日米欧比較
PER・ROEについて
前述したPBRを更に深堀りすると、PER(株価収益率)とROE(自己資本利益率)に分解することができます。PERは「時価総額÷当期純利益」で求めることができ、PERが高い場合は投資家はその企業の成長性を期待していると捉えられ、逆に低い場合は成長性が低いと見なされていることが多いということになります。投資家に成長性を期待させるためには、透明性のある経営や持続可能な成長戦略を示すことが必要不可欠です。
ROEは「当期純利益÷純資産」で求めることができ、さらにROEはROS(売上高当期純利益率)、総資産回転率、財務レバレッジという3つの指標に分解(デュポン分解)することができます。積み上げた利益を次の成長分野への投資に回していくことができれば、ROEは必然的に高くなります。借入をしてでも次の成長に向けた成長分野へ投資し、利益をあげることでROSも財務レバレッジも高めることができます。
また総資産回転率を向上させるためにはCCC(キャッシュコンバージョンサイクル)の改善も重要な要素になってきます。CCCは企業が販売や仕入の際に仕入先に対して現金を支払って、得意先から現金を回収するまでに必要な期間を表しており、具体的には「売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-仕入債務回転期間」という計算式で表されます。企業が持続的に成長し、企業価値を高めるためには次の成長分野への新規投資が必要になっており、その資金については外部からの借入に頼るだけでなく、自社の努力によっても生み出していく必要があります。CCCが短い企業は投資の機会が多くなり、早く成長することができるため、特にスピードが求められるグローバル企業ではCCCが重視されています。
このような財務的アプローチによってROEを向上させることができ、投資家が要求する更なる成長・更なる配当にもつながってきます。従来の日本企業はこのROEは低い傾向にありました。これは「優良企業」の定義が従来は違ったためです。従来の日本企業における「有名企業」とは自己資本が厚い(自己資本比率が高い、無借金など)キャッシュリッチな企業を指していました。確かに自己資本が厚いことは良いことですが、裏を返すと次なる成長投資へと資金を回すことができていない、あるいは次の成長投資がどこになるのか見えていないといえます。要するに今は利益が出て良いかもしれませんが、将来に向けた成長投資を十分に出来ていないため、将来的に成長が鈍化する恐れがあるということです。これでは企業の持続的成長とはいえませんし、企業価値も高まりません。現在の投資家は資本効率を高めて成長投資を積極的に行い、持続的に成長する企業を求めており、欧米企業はそのような投資家の要求に応えてきたために、ROEが高い傾向になっています。
まとめ
以上より企業価値を高めるためにはPERやROEを向上させることが重要であることがお分かりいただけたと思います。それらの指標を向上させるためには自己資本を重視する従来の「つぶれない経営」から資本効率を重視する「持続的に成長する経営」へと経営スタイルを変える必要があります。持続的な成長とは一時的なコスト削減や自社株買いといった短期的な急場しのぎの施策では実現されず、中長期的な自社のありたい姿(ビジョン)の達成に向けて、R&D(研究開発)やM&Aなどの事業ポートフォリオの再構築、将来の幹部人財を創るための人的資本への投資などによってPERおよびROEを向上させていくことで実現されます。
今回記載した経営指標は企業が持続的成長をするうえで非常に重要な経営指標なので、経営者は常にこれらの経営指標を意識して経営をすることが求められています。またこれらの経営指標が芳しくなく、改善が必要ということであれば、どのようなアプローチによってこれらの経営指標を改善していくかを考え続けることも必要になってきます。
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