1.はじめに
日々のコンサルティングの中で中堅・中小企業の経営者、または経営幹部のみなさまとDX・IT化の推進状況についてディスカッションをする機会があります。取り組み状況について質問をすると「部分的な導入に留まっている」「なかなか進んでいない」といった声が返ってきます。
では、多くの企業はなぜ進んでいないのでしょうか。
中堅・中小企業におけるDX・IT戦略推進の課題や、ポイントをリサーチし、まとめてみましたので、ぜひご確認いただきたいと思います。
2.IT戦略とは
IT戦略とは、情報技術(IT)を活用して企業のビジネス目標を達成するための計画や方針のことを指します。
具体的には、ITインフラの整備、システムの導入、データ活用の促進、セキュリティ対策などを通じて、業務の効率化、競争力の強化、顧客満足度の向上などを目指します。IT戦略は企業全体のビジョンや目標と密接に連携しており、企業変革をするために、長期的な視点で策定されるべきものです。
3.中堅・中小企業におけるDX・IT戦略の現状と課題
現状、多くの企業は、DXやITの重要性を認識しつつも、導入や活用において大企業と比べて遅れを取っていることが多いです。限られたリソースや予算、人材の不足がその主要な理由です。多くの中堅・中小企業では、ITの専門知識を持つスタッフが少なく、外部のサポートに依存することが多い傾向にあります。
課題としては以下の4点が考えられます。自社の状況はいかがでしょうか。
(1)リソースの制約:予算や人材が限られているため、大規模なIT投資が難しい状況にある企業が多くあります。
(2)ITスキル不足:ITに関する専門知識やスキルを持つ人材が不足しており、効果的なIT戦略の策定や実行が困難な傾向にあります。
(3)セキュリティリスク:限られたリソースの中で十分なセキュリティ対策を講じることが難しく、サイバー攻撃のリスクが高い傾向にあります。
(4)デジタル化の遅れ:そもそもデジタルツールやプラットフォームの導入が遅れており、競争力を維持するための迅速な対応が求められていますが、何から手を付けてよいかわからない状況に陥っています。
4.経済産業省「DX支援ガイダンス:デジタル化から始める中堅・中小企業等の伴走支援アプローチ」について
経済産業省は2024年3月27日に「DX支援ガイダンス」を策定しました。中堅・中小企業等の DXの考え方や現状をまとめた資料となっています。その中から一部参考になるデータを紹介いたします。
(1)中堅・中小企業等のDXの現状
①中堅・中小企業のDXに対する理解度
下記の円グラフはDXに対する理解度を示しています。理解していると回答している企業は「49.1%」に留まっています。全体の「60.9%」の企業がわからない、理解していないと回答していることから、中堅・中小企業のDXの理解は広く浸透していないといえます。
②中堅・中小企業等のDXの取り組み状況
DXの取組状況は、段階1:デジタル化が未着手、段階2:デジタイゼーションの段階が全体の約3分の2を占めている状況です。中堅・中小企業の DX の取組はまだまだ道半ばであるといえます。
③中堅・中小企業等がDX に取り組むに当たっての課題
1位:ITに関わる人材が足りない・・・・28.1%
2位:DX推進に関わる人材が足りない・・・27.2%
3位:予算の確保が難しい・・・24.9%
人材・情報・資金の不足に課題を感じている企業が多数という結果となりました。
「DX に取り組もうとする企業文化・風土がない」、「経営者の意識・理解が足りない」、と考える企業も一定数存在しています。経営者自身がDXの重要性を理解し、担当者へ社内のデジタル化を任せっきりにするのではなく、企業文化や風土を醸成することが非常に重要と言えます。
上記の結果もふまえ、DX支援ガイダンスでは、「デジタル技術の普及と活用の促進」、「DX人材育成」、「デジタルを推進する風土づくり」、「データ活用とセキュリティの強化」が重要な取り組みとして挙げられていますが、次項ではDX・IT戦略推進のポイントについてご紹介いたします。
5.中堅・中小企業におけるIT戦略推進のポイント
DX・IT戦略を推進するためには、ビジョンと目標の明確化、現状分析と課題の特定、適切なITインフラの整備、データ活用の推進、継続的な改善とモニタリングが重要です。各取り組みのポイントについては下記の通りです。
(1)DXビジョン・IT戦略のロードマップの明確化
IT戦略を効果的に推進するためには、企業のビジョンと具体的な目標を明確にすることが重要です。ITを活用してどのような成果を達成したいのかを明確にすることや、そのための具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定しましょう。
(2)現状分析と課題の特定
IT戦略を策定する前に、自社の現状を詳細に分析し、ITに関連する課題を特定します。SWOT分析(強み、弱み、機会、脅威)を活用して、自社のITインフラやスキルセット、競合状況を評価するところからはじめましょう。
(3)適切なITインフラの整備
中堅・中小企業においても、安定したITインフラの整備は不可欠です。クラウドサービスの利用は、初期投資を抑えつつスケーラビリティを確保できるため、特に有効です。また、ネットワークの信頼性を確保し、必要なハードウェアやソフトウェアの導入も行うことも重要です。
(4)データ活用の推進
データは企業の重要な資産です。積極的にデータを収集・分析し、意思決定に役立てることが求められます。データの可視化やビジネスインテリジェンス(BI)ツールの活用により、データドリブンな経営を実現しましょう。
(5)継続的な改善とモニタリング
DXビジョン・IT戦略は一度策定して終わりではありません。継続的に見直しと改善を行い、技術の進化や市場の変化に対応することが求められます。PDCAサイクル(計画、実行、評価、改善)を回し、定期的にロードマップやKPIを見直しましょう。
6.おわりに
中堅・中小企業が競争力を高め、成長するためには、DX(デジタルトランスフォーメーション)やIT戦略が不可欠です。リソースが限られているからこそ、無理なく小さな一歩を踏み出し、トライ&エラーを繰り返すことで精度を高めることが重要です。そのために、以下の「デジタル推進3S」の考え方を取り入れましょう。
(1)Simple(シンプル):複雑に考え過ぎず、業務の見直しを行うこと。
(2)Speed(スピード):全体像を把握しつつ、まずは実行してみること。
(3)Small(スモール):あれこれ手を広げず、小規模に始めること。
タナベコンサルティングでは、暫時的な取り組みではなく、DXを軸とした企業の在り方を変革し、DX推進体制を構築から、目指すべきゴールの設定とともに、ビジネスモデル・バリューチェーン・顧客関係・企業文化も含めた全社改革としてのロードマップの策定、そして、回収計画も視野に入れた蓋然(がいぜん)性の高い投資計画の策定をご支援します。