1.DX取り組みの課題
ビジネスシーンにおいて「DX」という言葉を耳にしない日はないくらい、多くの企業が躍起になって情報収集をし、実際に取り組んでいるもしくは、取り組もうとしています。では日本ではどれくらいの企業が進んでいるのでしょうか。
DX白書2023年によると、日本でDXに取組んでいる企業の割合は2021年度調査の55.8%から2022年度調査は69.3%に増加し、2022年度調査の米国の77.9%に近づいています。このことから1年でDXに取組む企業の割合は増加していることが分かります。一方、全社戦略に基づいて取組んでいる割合は米国が68.1%に対して、日本が54.2%となっており、全社横断での組織的な取組として、さらに進めていく必要があるといえます。
DXを推進するためには、経営層の積極的な関与や、業務部門とIT部門が協働できるような組織作りが必要となります。
こちらもDX白書2023年のデータになりますが、IT分野に見識がある役員が3割以上の割合を日米で比較すると2022年度調査は日本が27.8%、米国が60.9%です。日本は2021年度調査から割合は増加しているものの米国と比べて2倍以上の大きな差があり日本の経営層のITに対する理解が不十分であることが分かります。
また、DXの取組において、日本で「成果が出ている」の企業の割合は2021年度調査の49.5%から2022年度調査は58.0%に増加しました。一方、米国は89.0%が「成果が出ている」となっており、日本でDXへ取組む企業の割合は増加しているものの、成果の創出において日米差は依然として大きい状況です。
このように日本企業のDXがうまくいっていない一因として、「DXの価値」を本当に分かっている経営層や役員が少ないためといわれています。
ITベンダー任せ、社内のIT担当者任せではなく、経営層から率先し、トップアプローチでDXに取り組む必要があるのではないでしょうか。
2.建設業において他人事ではない「2025年の崖」問題
「2025年の崖」というワードを一度は聞いたことがあるかと思います。経済産業省のDXレポートによりますと、その問題とは主に大きく3つあります。
(1)既存システムが、事業部門ごとに構築されて、全社横断的なデータ活用ができないことや、過剰なカスタマイズがなされているなどにより、複雑化・ブラックボックス化していること
(2)IT人材不足が約43万人まで拡大すること(2015年時点では約17万人不足しているといわれています)
(3)様々なシステムのサポートが終了することによりシステム全体の見直しが必要(2024年固定電話網PSTN終了、2025年SAP ERP終了等)
これらの課題を克服できない場合、DXが実現できないのみでなく、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性があるといわれています。
また、既存システムのブラックボックス状態を解消できない場合、下記のことが想定されます。
① データを活用しきれず、DXを実現できないためにデジタル競争の敗者になる ② 今後、システムの維持管理費が高騰し、技術的負債が増大 ③ 保守運用者の不足で、社内のセキュリティリスクが高まる
建設業においても、他人事ではありません。わが社の現状はどうでしょうか。 DXを本格的に展開するため、DXの基盤となる、変化に追従できるITシステムとすべく、既存システムの刷新が必要となります。それができている企業とそうでない企業では、生存競争において勝ち残れないのではないでしょうか。
3.建設DXとは
i-Constructionから建設DXへ
i-Constructionは建設業界向けのプロジェクトで、建設現場の生産性向上と下記のような建設業界の課題の解決をするため土木分野でスタートしました。
① 人手不足
建設投資額は上昇している一方で建設業就業者数は減少しており、業界全体で人手不足となっています。(2002年618万人→2022年479万人)
※出所:建設業デジタルハンドブック 建設業就業者数の推移
② 少子高齢化による労働力不足・後継者不足
他産業に比べ、29歳以下の若年層の割合が少なく、55歳以上の高齢層が多い業界となっています。(2020年時点:全産業29歳以下約16%に対し、建設業20歳以下が約11%)
※出所:建設業デジタルハンドブック 建設業就業者の高齢化の進行
③ 厳しい就労環境(所謂3K)
i-ConstructionはコンピューターやネットワークなどのICT技術を建設現場のあらゆるプロセス、例えば測量や施工、検査などに取り入れています。具体的には下記のような取り組みに活用されております。
①対面主義にとらわれない働き方の推進
映像データを活用した監督検査を固定カメラやウェアラブルカメラ等、新技術やデータを活用使用し、対面主義にとらわれない建設現場の新たな働き方を推進しています。
②生産性向上や働き方改革
現場の生産性、安全性向上をするため、5G等基幹テクノロジーを活用した新技術の現場実証を推進しています。具体的には5Gを活用し、多数の建設機械投入、遠隔地からの機械操作をすることで、無人化施工技術の現場実証を推進しています。
このようなi-Constructionで取り組んでいる技術などが、建設DXにつながっています。建設DXとは、i-Constructionの範囲のみでなく、建設業のバリューチェーン、業務プロセス全体を変革し、建設業の固有課題の解決のみならず、競合他社が提供できない価値の創出により、価格決定力を持ち、持続的に利益を生み出す企業へ成長を遂げることといえます。
事務処理効率化、人材育成を実現
~メリットから具体的な事例まで分かりやすく解説~
4.建設DX導入おける課題とは
(1)建設業の企業数/従業者規模別
国土交通省「建設業許可業者数調査」令和3年3月末時点の調査では、日本国内には約47.5万社の建設会社があります。そのうちの規模別の内訳は以下のようになっています。
5人以下:331,614社(69.9%)
6~29人:125,330社(26.5%)
30~299人:13,046社(2.8%)
300人以上:1,046社(0.2%)
つまり、大規模な建設会社はわずか0.2%にとどまっており、小規模な建設会社が全体の約7割を占めているということが分かります。
そして、小規模の会社の多くはデジタル化が限定的で、業務の多くを人の手で行っていることが多いと考えられます。現場へ出向き業務を行う建設業はアナログな文化になっており、非効率であること、デジタル化が進んでいない企業が多いという特徴があります。
(2)建設DX導入にあたって考えられる課題
■「DXに取組むに当たっての課題」~DX白書2023年より~
<従業員20人以下の中小企業の場合>
1位:予算の確保(26.4%)
2位:具体的な効果や成果が見えない(24.3%)
3位:DXに関わる人材が足りない(23.5%)
4位:何から始めてよいかわからない(22.8%)
上記の通り、DXを始めるにあたっての課題が上位になっています。
<従業員21人以上の中小企業>
1位:DXに関わる人材が足りない(41.8%)
※従業員20人以下の企業よりも18.3ポイントも高い
2位:ITに関わる人材が足りない(33.4%)
3位:DXに取り組もうとする企業文化・風土がない(25.7%)
4位:具体的な効果や成果がみえない(23.8%)
このことから、従業員20人以下の企業においてはDXに取りかかることが難しい状況があること、従業員21人以上の企業ではDXに取組むなかで人材不足や企業文化・風土などがより大きな課題として顕在化している状況がわかります。
■建設業のDXの取組状況 ~DX白書2023年より~
総務省調査において、建設業の会社がDXに取り組んでいると回答した割合が20.7%と他の業種とも比較して低い結果となっています。また、DXの「言葉の意味を理解し、取り組んでいるか」という質問に対して、取り組んでいると回答した建設業は11.4%にとどまり、他業種別にみても低い結果となっています。
5.今後建設業界におけるDX化の取り組みとメリット
それでは、建設業はどのようにDXに取り組めばよいのでしょうか。建設現場の生産性向上として、これまで進めてきた「i-Construction」、建設業の業務プロセスの中に改善のヒントがあります。
建設業のICT施工における取り組みや、DXに必要な技術とその効果の例
(1) 測量
DX技術:三次元測量をするドローン技術、レーザースキャナなど
DXのデータ活用を促進する技術:BIM/CIMの活用
メリット:ドローン測量の過程には三次元モデルの作成が含まれており、 高精度な三次元モデルはBIMにおける建屋外面の作成にも利用することが出来ます。
(2) 設計
DX技術:自動設計(3次元モデルによる可視化と手戻り防止、作図の省力化)、RPA及びAI-OCRの活用(定例業務の自動化で業務量減少)
DXのデータ活用を促進する技術:インフラデータプラットフォーム
メリット:3次元群データ、インフラの点検データを集約した「仮想国土」
劣化の予測や災害シミュレーションにつなげることが可能
(3) 施工
DX技術:ロボット、VR/AR/MR(仮想現実、拡張現実、複合現実)、パワーアシストスーツ、建機の自動運転
DXのデータ活用を促進する技術:5G
メリット:ロボット(配筋作業や重量物の持ち上げなどの人の仕事の補助。人が装着することで関節や筋肉の負担が減り、けが防止にもなります)
建機の自動運転(ブルドーザーなどの操作を自動化し省人化を実現する)
(4) 検査
DX技術:VR/AR(3次元モデルで臨場感のある検査)
スマートグラス、カメラなど(現場の映像を通して遠隔検査の促進)
DXのデータ活用を促進する技術:5G
メリット:高速、大容量のデータ通信で、場所にとらわれない働き方を実現する
(5) 維持管理
DX技術:IoTセンサー(河川や橋に取り付け予防保全)、ドローン(点群データを使用し近接目視点検を効率化する)
DXのデータ活用を促進する技術:クラウド、ブロックチェーン
メリット:(ネットワークを通じてどこからでもアクセスでき、場所にとらわれない働き方を実現)
このように一般的な業務プロセスをDX化することで抜本的な生産性向上をはかることができます。まだまだ発展途上な技術もありますので、随時技術の進歩など動向をおさえておく必要があります。
6.建設DXを成功させるポイントと注意点
DXの推進が建設業界に変革をもたらすのは間違いありません。新しい技術に注力しながら、重点を絞り、まずはできるところから取り組んでいきましょう。
そのポイントを2点に絞りご紹介をしたいと思います。
(1)技術継承を進めるための人材育成(技術面)
■企業内大学校の構築(HR DX)
人手不足で技術継承が進まないという課題に対しては、社内の教育制度の改定とともに動画で学ぶ仕組みを構築することが有効です。
そのステップとしては、下記の通りです。
①社内の中堅以上の社員が建築、土木、設計などの技術を各階層、各職種に応じた必要知識や技術棚卸をして、コンテンツ、カリキュラムを開発 ②開発し、整理したコンテンツを動画(5~10分程度)に収める ③デジタル(クラウド・eラーニング)とリアル(集合教育)の組み合わせで学ぶ仕組みを構築する
建設業においては、ベテラン社員が多く、背中をみて覚えろというような前時代的な育成をしているところが少なくありません。会社の中に大学校を構築し、WEB講座を中心にいつでもどこでも学ぶ環境が確立されることで、早期にプロフェッショナル人材を育成することができます。HR領域のDXといえます。
(2)職場、現場をつなぐ基本的なデジタル環境の整備や業務の見える化
コンサルティングの現場、特に小規模の建設会社で多く感じることは、PC、スマートフォン、タブレット、Zoom環境(マイク、スピーカー等)の導入が一部にとどまっていることです。基本的な環境を整備していきましょう。またそのIT機器を使いこなすことも重要です。全社で推進していきましょう。
■システム(ERP)導入(マネジメントDX)
「2025年の崖」の課題を克服できない場合、DXが実現できないのみでなく、2025年以降、経済損失が生じる可能性があるのは前述したとおりです。
わが社の経営ビジョンの実現や持続的成長をするためには、リアルタイムの情報把握とデータ活用が必須となります。この"スピード経営"の実現には、システム(ERP)でデータを一元管理するだけでなく、全社視点で業績を把握し、機動的に事業を変革できる体制を構築することが企業の成長に不可欠です。
ステップとしては、下記の通りです。
①ステップ1:現状認識
各システムにデータが孤立し、保守運用がブラックボックス化していないか、紙ベースの属人的な業務運用になっていないかなどを確認します。
②ステップ2:運用設定
ステップ1で把握した内容を踏まえて、業務運用方法変更、効率化を提案します。
③ステップ3:システム導入~活用支援
システム設定に必要な要件の洗い出しを完了させ、実際にシステム導入に向けて、進めていくとともに、システム使用方法の現場教育も同時に行います。
7.まとめ
DXはあくまで手段であり、目的ではありません。目的は経営ビジョンの実現や事業の成長にほかなりません。
建設DXを進めることでわが社をどうしていきたいか、これからのわが社の未来を見据え、全社的にDXを進めてみてはいかがでしょうか。
【最後に】
タナベコンサルティングでは、建設DX実現に向け、建設業界に特化した効率的な業務プロセスの構築をご支援しています。
システム導入の前段で業務改革コンサルティングを実施することによって、業務の効率化・省力化を実現したうえでシステムの基盤を導入し、パッケージシステムの導入効果を最大限に引き出します。また、会社の規模感に合わせたご支援、アドバイスが可能です。
詳細は下記をご確認ください。
https://www.tanabeconsulting.co.jp/dx/service/detail09.html
以上
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