人事コラム
メンタルヘルス不調と休職の関係とは?
企業にできる3つの対策
~メンタルヘルスケアは組織全体で考えることが大切である。~
本コラムでは、復職に向けた企業としての環境整備と、休職を未然に防ぐ予防策として、企業全体(社員全員)でメンタルヘルスケアに対しての知識を深めていくことの重要性について言及しています。
メンタルヘルス不調による休職は企業に
大きな経済的・組織的リスクをもたらす。
再休職防止と予防策の強化が持続的成長に不可欠である。
メンタルヘルス不調による休職の影響
メンタルヘルス不調により休職した場合、復職しても状態が悪化し、再休職になることも少なくありません。その傾向は、事業所規模が大きくなるほど顕著に見られます(※1)。
メンタルヘルス不調による連続1カ月以上休業した労働者または退職した労働者がいると回答した1000人以上規模の事業所の割合は91.2%に上ります。
さらに、経済的損失という観点では、例えば、従業員1名(30代後半、年収約600万円、男性)がメンタルヘルス不調などに伴い休職する場合、コストは442万円以上に上り、退職率は42.3%に上ると言われています(※2)。
また、休職・退職は金銭的なコストのみならず、生産性の低下や企業イメージの低下など様々なリスクを伴います。例えば、休職した社員の業務を周囲の従業員が負担することで業務負荷がかかったり、時間内にこなせず、残業で業務を遂行する状況が想定されます。
休職した社員の業務を引き受けた社員は、休職者のフォローで増えた業務量を、減らしてほしいと言い出しづらかったり、「職場にどんな問題があって休職したのか」と疑問に感じることもあるでしょう。その結果、職場における生産性や心理的安全性が低下してしまう可能性があります。
これらの状況から、適切な休復職支援は今以上に力を入れる必要がある施策と言えますが、メンタルヘルス対策に取り組んでいる企業のうち、復職支援を導入している企業は24.8%と少なく、再休職予防への対策が十分に行われていない可能性もあります(※3)。
※1:厚生労働省 令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」
※2:内閣府 平成20年「企業が仕事と生活の調和に取り組むメリット」
※3:中央労働政策研究・研修機構 平成25年 「メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査結果」
なぜ再休職が起きるのか?休職対応見直しのポイント
休職から復職までの流れは主に5つのステップに分かれます。
- STEP1
- 休業開始および休業中のケア
- STEP2
- 主治医による職場復帰可能の判断
- STEP3
- 職場復帰の可否の判断および職場復帰支援プランの作成
- STEP4
- 最終的な職場復帰の決定
- STEP5
- 職場復帰後のフォローアップ
基本はこのステップを適切に進めることができる仕組みを整えることが第一になります。
また、このステップがフローとして組み込まれていた場合にも、それぞれの段階での対応が不十分な場合、再休職リスクが高まります。
よくあるケースと対応のポイントとしては、以下の3つが挙げられます。
Step2 主治医による職場復帰可能の判断➡主治医の診断書/意見書のみでの復職判定
主治医の診断書/意見書のみで復職を判定し、再休職となるケースです。本人や家族による不安・焦りから、十分な回復がなされないまま復帰の意思が示されることがあるため、主治医と連携し、十分回復したうえで復帰できるように説明する必要があります。
Step3 職場復帰の可否の判断および職場復帰支援プランの作成➡再発予防トレーニングが不十分
メンタルヘルス不調を予防するためのトレーニングが十分でないため、再休職が必要になるケースです。休業する前の就業状態に戻すまでには、いくつかの段階を設定し経過を見ながら、休職者の状態に応じて内容や期間を調整しましょう。
また、休職者本人の希望のみで職場復帰支援プランを決定することが円滑な職場復帰につながるとは限りません。主治医の判断や産業医等の医学的意見を踏まえ、総合的に判断・決定をすることを心掛けてください。
Step5 職場復帰後のフォローアップ➡復帰する職場環境の調整不足
復職者のストレス要因になっていた職場環境に復帰したことが原因となり、再休職となるケースです。
休職者の職場復帰支援では、休職中から復帰後のフォローアップにわたり、人事労務担当者や管理監督者が、復職者の状態を把握することが必要です。
休職再発の予防だけでなく、休職を事前に防ぐためにも、産業医などの専門家との綿密な連携が取れるネットワークをつくり、適切な対処を行いましょう。
根本的アプローチ:メンタルヘルス不調を予防する
休職対応フローの見直しは再休職防止に不可欠ですが、そもそも休職に至らないための予防策を講じることが、企業にとって最も効果的なアプローチです。再休職を防ぐだけでなく、メンタルヘルス不調の発生自体を減らすことで、組織全体の生産性やエンゲージメントを高めることができます。
事業者が社員のメンタルヘルスを守ることは、労働契約法第5条における安全配慮義務にて定められています。
さらに厚生労働省の調査によって、うつ病などの会社内で起きる精神障害の多くは、ストレス過多のようなメンタルヘルス不調から始まっているということが判明し、ストレスチェック制度の実施義務化が始まりました。
しかし、こういった法整備が進んでいるにも関わらず、令和2年度に厚生労働省が公表した『過労死等の労災補償状況』(※4)によると、令和2年度の精神障害の労災認定件数は過去最多となっており、申請件数もここ数年増加傾向にあります(※5)。
まずはメンタルヘルスケアに効果的なセルフケア、ラインケア、事業場内産業保健スタッフなどによるケア、事業場外資源によるケアの「4つのケア」をおさえましょう。
中でもラインケアは、日常的に部下と接している上司が異変を早期に発見することで、深刻な状態に陥る事態の予防を図れるという点で大きな役割を果たしています。
ラインケアは3つの段階があります。社員が不調に陥らない「予防」の1段階、「早期発見・対処」の2段階、「復帰支援および再発予防」の3段階です。
1次予防で重要なことは、メンタルヘルスケアに対する社員全体の理解を深めることです。
社員自身がセルフケアを上手に行えるように教育研修を行ったり、管理職に対して良いコミュニケーションの取り方などを指導しましょう。また、何かあった時に相談できる窓口などの情報共有をしましょう。
2次予防では、上司が連携を意識した行動をとることが重要となってきます。社員の不調にいち早く気がつけるように、職場環境の把握を徹底しましょう。社員の不調を察知した上司が人事労務担当者に情報共有する流れを確立することが大切です。人事担当者は、必要に応じて本人をカウンセラーや医療機関、産業スタッフなどの専門家に繋ぎましょう。また、上司が相談を受けた際に、「誰にも言わないで欲しい」と頼まれた場合は、相談者の情報は匿名で、人事労務や相談窓口に相談することをおすすめします。
社員のメンタルヘルス不調において、診断や治療の部分は専門家の領域です。症状や病名などを専門家が判断します。一方、管理者が観察するべきなのは「生産性低下」といった業務への影響、すなわち社員のメンタルヘルス不調が、業務にどんな影響を与えているかに主眼を置きましょう。
3次予防では、人事担当者が現場管理者と連携して復職支援・再発防止を行います。
人事担当者は、職場復帰支援をスムーズに進めるため、職場復帰の可否を最終決定する前の段階として、必要な情報収集と評価を行い、適切に復帰の可否を判断したうえで、職場復帰支援プランを作成します。
職場復帰支援プランの作成にあたっては、主治医や産業医の意見を中心に、管理監督者や休職中の本人と綿密に連携しながら進めます。また、職場復帰後は再休職のリスクが高まるため、復帰後のフォローアップが非常に重要となります。管理監督者や事業場内産業保健スタッフなどと協力し、観察と支援によるフォローアップを確実に実施していきましょう。
なお、職場復帰支援は必ずしも計画通りに進むとは限りません。特に復帰初期は、できるだけ短い間隔で適宜、職場復帰支援プランの評価や見直しを行い、再発や再休職を防止することが重要です。
※4:厚生労働省「令和1年度過労死等の労災補償状況」
※5:厚生労働省「令和2年度精神障害の労災補償状況」
さいごに
メンタルヘルス不調による休職は、企業にとって深刻な課題です。休職者が復職しても再休職に至るケースは少なくありません。さらに、休職・退職は金銭的コストだけでなく、生産性低下や企業イメージの悪化など多方面に影響を及ぼします。
こうしたリスクを軽減するためには、休職から復職までのプロセスを体系的に整備し、再休職を防ぐ仕組みを構築することが不可欠です。
メンタルヘルス対策は法令遵守にとどまらず、企業の持続的成長に直結する経営課題です。休職・復職支援の仕組みを整え、再休職を防ぐ取り組みを強化することが、従業員の健康保持と企業価値向上の両立につながります。
